第30話

俺は茫然としてその場に立ち尽くしていた。



文夫は床に座り込み、青い顔のまま失禁してしまった。



そんな文夫を見ていることができなくて、俺は鬼を見上げた。



さぁ、勝ったぞ。



次はどうするつもりだ。



心の中でそう思い、鬼を睨み付ける。



「いい試合だったなぁ!」



鬼は呑気な声でそう言い、拍手する。



それにつられるようにして子鬼たちも拍手しはじめた。



「勝ったお前、商品はこれなー」



鬼がそう言うと、メイド鬼がうまい棒の明太子味30本入りを掲げて見せた。



そんなもんいらねーよ!



と、心の中でののしる。



しかし、声は出なかった。



負けた文夫になにが待ち受けているのか、恐怖で声が出ない。



「負けたお前。まじダッセー」



鬼が踏みをを見てため息まじりにそう言った。



「ダッセー」



ギャル鬼が便乗する。



視界の端で文夫が小刻みに震えているのが見えた。



「生きてる価値なーし!」



鬼の声が文夫が小さく悲鳴を上げた。



逃げようとして腰を浮かすが、体に力が入らないようですぐに座り込んでしまった。



「こ、殺すのか?」



声を喉に張り付かせながら、俺はそう聞いた。



鬼が「当然じゃぁん」と、ギャルの真似をして答えた。



「どうして? どうして殺すんだよ」



「なになに? 今更どうしちゃったの?」



ギャル鬼が興味津々に俺を見てそう言った。



「だって、おかしいだろ! いきなり来て、いきなり友達を殺し始めて、絶対におかしいだろ!!」



最初の頃の恐怖でそんな質問さえできていなかった。



「なぁに言ってんだよ。これだけ俺の子供がいることが見えてねぇの?」



広間をぐるりと取り囲むように立っている子鬼たち。



ザッと見ただけでも100人はいるかもしれない。



「ちょうど食事に困ってたところだったんだよなぁ」



「俺たちは生贄か」



「生贄? そんないいもんじゃねぇって。ただのメシだよ、メシ」



鬼がそう言った直後だった、文夫が悲鳴を上げた。



ハッとして顔を向けると、文夫の足に子鬼が噛みついている。



「いやだ! 死にたくない! 離せよ!!」



文夫は必死でもがくが、子鬼は離れない。



それを見た他の子鬼たちが文夫に飛びついた。



そのまま肩に噛みつくと、一気に肉を引きちぎった。



俺は思わず耳を塞いでいた。



肉が引きちぎられる音、文夫の叫び、血が滴る音。



色んなものから逃げるように視線を伏せた。



それでも音は聞こえて来る。



文夫の体は子鬼たちによって埋め尽くされて、その姿は見えなくなってしまった。



途端に、ドサッとなにかが倒れる音がした。



振り向くと、綾が床に倒れているのが見えた。



その顔は真っ青だ。



「綾!!」



すぐにかけつけて抱き起す。



「いきなり倒れたの」



ミヅキが横からそう声をかけて来る。



きっと、サプライズで一度緊張がほどけたから耐えられなくなったんだろう。



綾はキツク目を閉じている。



呼吸は安定してるから、寝かせておけばすぐに目は覚めるだろう。



「あ~、ゲーム中に寝たらダメなんだぞぉ!」



子鬼の1人が異変に気が付いてそう言った。

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