第29話
文夫の力をねじ伏せるように力を込める。
文夫の右腕が微かに震えている。
元々そんなに力が強くないのか、今度は真っ赤になっている。
「そんな、そんな……」
文夫の右腕がどんどんテーブルに近づいていく。
もう少しだ。
「いやだ、死にたくない」
その時、テーブルの上にポツポツと水が落ちて来た。
ハッとして顔を上げると、文夫の目から大粒の涙が流れている。
胸がズキリと痛む。
だけど、俺だって死にたくない。
死ぬとしても、綾を助けた後じゃないといけない。
俺は自分の胸の痛みを見てみぬふりして、腕相撲に勝ったのだった。
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