第25話
「次は森田文夫~」
文夫が大きく目を見開いた。
再び歌が広間の中を包み込む。
星斗に対して卑怯な事をした文夫を、冷たい目で見ている小恋。
ここで文夫が当たりを引けば小恋は助かる事が決定する。
だからだろう、その目は険しかった。
鬼たちの歌が終る。
小恋がゴクリと唾を飲みこんだ。
「大森文夫、はずれ~」
鬼の声が響き渡り、小恋が息を飲んだ。
文夫に笑顔が戻り両手を突き上げて喜ぶ。
嘘だろ……?
あみだくじの結果に俺は唖然として鬼を見ていた。
文夫が死ぬべきだとは思わない。
だけど、小恋が死ぬなんて、そんなこと……。
「最後、松本小恋~」
結果はわかり切っているのに、鬼が楽しげに歌いだす。
子鬼たちも一緒になって歌う。
やめろ。
その歌が終れば、小恋の未来が決まってしまう。
やめろ。
歌うな。歌うな。歌うな!
両手で強く耳をふさいだその瞬間、歌が止まった。
一瞬気持ちが届いたのかと思った。
でも違う。
あみだくじが終ったのだ。
鬼がニヤリと口角をあげて笑い、小恋を見た。
「松本小恋、当たり~!!」
鬼の声が広間中に響き渡ったのだった。
広間に静けさが立ち込めた。
青ざめた小恋が鬼を見上げている。
子鬼たちが小恋へ向けて拍手しているが、その音は全然耳に入ってこなかった。
綾が動く気配がして、視線を向ける。
綾も小恋と同じくらい青い顔をしていて、広間の中央へと歩いて行く。
「綾、どこに行くんだ?」
手を掴み、そう聞いた。
綾は振り返り、そして目に涙を浮かべてほほ笑んだ。
「さっきの、聞いてたでしょ?」
「あ、あぁ。小恋が当たりを引いたんだ」
そう答えると、綾は左右に首を振った。
「早人、あたしも当たりを引いたんだよ」
綾の言葉に俺は瞬きを繰り返した。
綾は何を言ってるんだ?
俺たちのチームはまだのはずだ。
そう思い、浩成へと視線を向ける。
浩成は不安そうな表情をこちらへ向けているだけで、なにも言わなかった。
「早く来いってば!」
子鬼の1人が綾の腕を掴んで引っ張った。
「おい、なにすんだよ」
俺は綾の手を離すまいと力を込める。
「早人、ダメだよ。あたし、行かないと」
綾の涙が頬を流れて行く。
小恋はすでに広間の中央に立って鬼を見ている。
なんでだ?
なんで綾まで?
頭の中はひどく混乱していて、わけがわからない。
「なんだよお前、邪魔すんなよ」
子鬼が俺を睨み付けてそう言った。
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