女の子は、誰もがそれを備えてる――好きな人限定の、第六感

狐月 耀藍

第1話

 ほら、やっぱり。


「なにがやっぱりだよ」


 いま、嘘をついた。


「嘘なんかついてねえし」


 それも嘘。


「……ああ畜生、なんで俺、今日もお前のスタバに付き合わなきゃならねえんだ、うぜえ」


 それも嘘。


「嘘じゃねえ、いまマジで後悔してる。お前のせいで俺の小遣いがマッハで消えてんの、分かってんのか」


 それは半分が嘘……かな?


「何が半分だよ、お前はヒトの頭ン中が分かるとでも言いたいのかよ」


 ちょっと違うかな?

 わたしはね?


「――キミ限定で、分かるんだよ?」

「うぜえ」


 そう言って、また、ちらりと目が横を向く。

 その先には、やっぱり胸の大きなオトナの女の人。




 いつものスタバ、いつものホイップクリームチョコソース増し増しのダークモカチョコチップフラペチーノ。今日はノリでチョコチップをさらに追加。


「なんでお前、そんなもの飲めるんだよ。お前の舌は狂ってる」


 そういうカレは、いつものドリップ。

 ミルクも砂糖も無しのブラックで。

 ふふ、でも知ってるんだよ?

 いつも相当無理して飲んでるってこと。


「うるせえ、俺はこれがいいんだよ。てか、男は黙ってブラックだろ」


 はいはい。もっと自分に正直になればいいのに。はい、あーん?


「いらねえっつってんだろ、男は甘いものなんか食わねえんだよ」


 ふふ、キミのお姉ちゃんから聞いて知ってるんだけどね?

 ホントは甘いもの好きだってこと。


 でも知らないふりをしてあげる。


 いまだけは。

 視線がまた横に流れたことくらい。


 だって、ホイップクリーム、食べてくれたから。

 眺めるだけの相手じゃない、

 わたしたち、いま、間接キスした仲だからね。




 夕方、行き過ぎる人々の群れ。


 冬は好き。寒いから、くっついていても、だれも不自然に思わない。

 それでも――カノジョが隣に歩いていても、キミはいつものキミで。


「……そんなに、胸が大きい方が好きなのかな?」

「ばっ――て、てめえ何言いだすんだいきなり!」

「だって、いつも女の子の胸ばっかり見てるから」

「いいい、いい加減なこと言うな、見てねえよ!」


 うーん、わたしも大きいとは言わないけど、形は整ってると思うんだけどなあ。


「しっ、知るかよ! ああもう、めんどくせぇなあ! 俺は胸なんか――」


 はい、また嘘。


「嘘じゃねえよ!」


 それも嘘。


「どうして嘘って分かるんだよ!」


 ふふ、女の子なら、たぶん、みんな分かるよ?

 第六感――かな?


「なにが第六感だよ、いい加減なこと言ってるだけじゃねえか」

「そんなことないでしょ? ずばり当てられた時のキミって、そうやっていつも慌てるんだから」

「あ、あ、当たってねえよ! だいたい、俺の考えが分かるんなら、俺が今夜食いたいものを当てれるっていうのか?」

「それは無理だけど、とりあえず竜田揚げかな?」

「なんで当てれる――ブ、ブブーッ! か、唐揚げでしたーっ! 大外れだ!」


 はいはい。

 はずれってことにしておいてあげる。


「うるせえって! そんなに人のことが分かるってのか?」

「好きな人限定だよ?」


 ものすごい勢いで振り向いたキミに、わたしもちょっと驚いてしまって。


 つまづきかけたわたしの腕を、しっかりつかんで。


 支えてくれたキミは。


 ――あれ?

 そんなに、背、高かったっけ――?


 そんなにわたしの目をしっかり見てくれたの、なんだかすごく、久しぶりに感じる。


「……大丈夫、か?」

「……うん、――ありがとう」


 また、キミが目をそらす。


「……何か、見えた?」

「み、見えてねえよ!」


「……形は整ってると、思うんだけどなあ」

「みみ、見てない! 何も俺は見てない!」

「本当? じゃあ、見せてあげる――って言ったら?」 


 ――ふふっ。

 また焦ってる。


 目は口ほどに物を言う、ってね?

 気づくまでは、教えてあげない。

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女の子は、誰もがそれを備えてる――好きな人限定の、第六感 狐月 耀藍 @kitunetuki_youran

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