2.化野念仏寺

 境内一面の石仏と石塔に灯った無数のろうそくの灯りが、瑠香を妖しく照らしていた。京の夏の終わりの風物詩、化野念仏寺の千灯供養だ。境内の西院さいの河原には一万体近い石塔や石仏が祀られている。それら一つ一つにろうそくが灯されて、夜の闇の中に光の絨毯じゅうたんを作っていた。


 瑠香は僕と並んで立っていた。瑠香は黙って無数のろうそくを見つめていた。瑠香の顔にオレンジ色に輝く複雑な陰影が妖しく揺れていた。僕は瑠香の顔と揺れる陰影を見つめた。どちらも美しいと思った。


 瑠香がぽつりと言った。


 「きれいね・・だけど・・私、こわい」


 そう言うと、瑠香は僕の腕を取った。僕の腕がふっくらした瑠香の胸に押し付けられた。驚いた僕は腕を瑠香から離そうとした。それを察した瑠香がさらに強く僕の腕を取った。


 「離さないで」


 そう言うと、瑠香は僕の胸に顔をうずめた。そして、小さく言った。


 「抱いて・・」


 その夜、嵯峨野の宿で僕は瑠香を抱いた。


 



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