第4話



「美味いですね!」


 凄い勢いで料理を貪る加賀を牧野はテーブルに肘をつきながら呆れたように冷たい目で見ていた。

 幾度がご飯に誘われた事があったが、思い出してみれば一度も彼の誘いに乗ってあげた事がなかった。

 先日の襲撃事件の時は彼なりに頑張ってはいたようだし、上司たるもの部下との食事も大事にするべきなのだろうかと過去の彼女は考えていた。

 今まさにその時に戻れるならば、自分をぶん殴ってでもやめておけと心に誓うばかりである。


「加賀君、君よく食べるね」


「これはなぁーに? あー、ピザだ」


 店の外装から疑いはしていた。

 イタリア、日本、中華などなど各国風の壁や小物が置かれた店内などそうそうないなだ。つまり、コンセプトが全く読み取れない。挙句に中華服の女の子がワゴンに湯気の上がるせいろを乗せて店内を回っている。

 呼び止めて、欲しい料理を渡してもらうシステムのようだ。

 牧野もまさかセイロから蒸したピザが出てくるとは思いもしなかったようである。

 捨てるようにピザをセイロに戻す。


「いらない」


「あー、なんで捨てちゃうんですか」


「君さ、これが料理だって言えるのかい?」


「美味しいですよ。スパゲッティセイロ、ペペロンチーノセイロ」


「これは何?」


「んん! それは寿司セイロですね!」


「食べ終わってから喋りなさいよ。だいたい寿司を蒸したら美味しくないのが分からないのか君は」


「そっすか? うまいっすよ」


「はぁ。あ、お姉さん。ビールひとつ」


 そう言い終えると牧野はウエイターの耳元まで口を近づけでささやいた。

 ウエイターもささやき声でそれに応える。


「パスタ。何でもいいんだけどもさぁ。もう少しまともなものってないかなぁ」


「それでしたら普通のペペロンチーノが」


「じゃ、それだ」


「かしこまりました」


「あっと! ちょっとごめん。それ玉ねぎ入ってる?」


「入ってると思いますが」


「抜いてちょうだい。一切入れないで、思いっきり辛くね。あと灰皿もらえる」


「申し訳ございません。当店は禁煙でして」


「なぁーんだそうなんだ」


 ウエイターがさった後には加賀の不満そうな顔が残っており、口を動かしなら何やら文句を言っていた。


「今じゃ吸えるところの方がすくないですよ」


「うるさいよ」


「わがままですね」


「ねぇ、君さ。女の子を誘うとき、いっつもこんな感じなの?」


「? そうですけど」


「信じられないぃ。ただ、君に彼女ができないっというのは信じられました」


「ひどいなぁ。今はちゃんといるんですよ!」


「誰ちゃんて言ったっけ?」


「牧野さん、名前くらいは、いい加減に覚えてくださいよ! 今度会わせたいんですから」


「まぁ、いいから。それで?」


 唐突な切り出しに対応しようとした結果、加賀はむせてしまった。


「ごほ、ごほっ。そ、それでって何ですか、それでって」


「なーんのために君の部隊、研究部門の直下にしてもらったと思ってるんだい。魔法少女だよ、魔法少女。……どう思う? リサーチできたの?」


「どうって言われても、あんな大きな

攻撃も初めてだったじゃないですか。それまでにも断片的にあったようですけど、まともに使えるような情報はありませんでした」


「そう、そこなんだよねぇ。相手の素性が分からないってのが大変だ。ご丁寧に最初にサーバールームまで破壊してたみたいだから防犯カメラの映像も保存できてないからさ」


「吹っ飛ばした牧野さんのせいじゃないですか」


「あれはね常に外部サーバー経由で処理されるはずなんだよ。参ったなぁもう。やっぱりリスト使ってローラー作戦かなぁ」


「そういうこともありますって! やまない雨はありません!」


「その前に洪水になっちゃったらどうするつもりだい?」


「えっと、春の来ない冬はありません!」


「寒春だったらぁ? 農作物大変だよぉ?」


「牧野さん、ちょっとひねくれすぎてますよ」


「うーん、誰かが情報を渡してるはずなんだけどもなー」


「え?」


 そう言って牧野は頭をかきながら顔をひしゃがせた。加賀は驚いたのか口をぽかんと開けたままである。


「情報ってうちの会社の?」


「そうに決まってるじゃないの。実のところね目星はついてるんだよ。ただ重要なのは誰に渡してるかってこと」


「え? 誰ですか!」


「近いし声が大きい」


 加賀の頭を手で叩く。あまり力は入れていないようで、叩かれた本人は抗議していたがすっかり無視されてしまった。


「そりゃ気になりますよ。誰なんですか? まさかこの間の会議に出てた連中?」


「んーたまには頭使って考えてごらんなさい。……ねぇ、そういえば。君の彼女さんとはいつ会わせてくれるのさ?」


「牧野さんがよろしいならいつでも」


「あ、そう? なら勝手に行ってきます」


「え!? ちょっと!」


 牧野は驚いてまたも口から噴き出した加賀を置いたまま、店の出口へと歩いていく。


「パスタどーするんですかー!?」


「んー、食べておいて」


 カランと店の扉を閉めると牧野はケータイで何処かへと電話をかけ始めた。


「じゃあ、よろしく。あとさ加賀君のアレ。そーなんだよお店最悪で。誰か教えてあげないとまずいよ。次の彼女だって見つけることだってありそうじゃないか。……今後ね」

 

 そう冗談まじりに切られた通話で事が大きく動き出そうとしていることなど誰も知る由もなかった。牧野一人を除いては。

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