魔法少女が鬱陶しい!!!私の順風満帆怠惰ライフを返しやがれえええぇぇぇ!!!と心の底から叫びたい
蝋燭澤
第1話
『各士官はレベル5ブロックに集結せよ。繰り返す各士官はレベル5ブロックに集結せよ』
『施設内に侵入者あり。警備システムを起動、警戒せよ。施設内に侵入者あり』
室内に、いや巨大な施設全体に響き渡る緊急事態を告げる警告音が耳に突き刺さるのを黒スーツの女性は堪えながらモニターを注視していた。
青いコスチュームのような服を身に纏った少女が武装した警備員たちを魔法を込めた剣で薙ぎ倒している。
武装したというのはどこにでもあるような警棒などではない。アサルトライフルに戦闘服、ゴーグルにフェイスガードまで装着した完全武装の人間である。
その刹那、コンソールを操作している隊員から報告が入る。
「侵入者は依然健在。第3区域を突破されました。おそらく第15区域に向かっているものと思われます」
「第4区域、被害多数! すでに区域内の警備隊の半数がやられました」
「貨物搬入のエレベーターが動いています。敵は最下層を目指しています。ご指示を!」
指揮所の隊員たちの視線が一挙に黒スーツの女性に集まる。
ここでようやく彼女が口を開いた。
「えー、最下層のエントランスを固めてください。他の階層の警備は構いませんから、人員をすぐに向かわせてください」
「各警備隊に通達! 最下層のエントランスを固めろ。食い止めるんだ」
モニターには続々と武装した警備員たちが高速エレベーターに乗り込み最下層への向かう姿が映し出された。
それを確認しながら、今まさに襲撃を受けている軍事企業の社員である黒スーツの彼女、牧野は頭を抱えていた。
「あー、逃げたい」
そんな言葉が漏れ出そうになった瞬間に、背中に気配を感じて振り返ると、そこには銀髪の美女がいた。
弧を描いた口から覗く長い犬歯が異様に目についた。
「牧野、報告しなさい」
「はい。侵入者は最下層へと向かっています。目的は我が社が保管している遺物かと」
「そう」
淡々と報告しているが、内心は余計なことを言わなくて良かったとつくづく思う。
聞かれていればどうせニヤニヤと嫌味な笑みを浮かべながら文字通り嫌味を言われていたに違いない。
悲しいことに上司なので何も言い返せないが。
「あのー」
「何よ」
「まさかと思いますけど、ヴァーニーさん自ら出向くとかないですよね? 私お供するのは嫌ですよ」
「…………」
「いや笑って無言は怖すぎるんですが。本当に嫌ですからね、生身で魔法少女の相手なんて!」
こうして雇われ社員は上司のカーミラ・ヴァーニーと共に地下へと向かう羽目になるのであった。
落ち着かずにタバコを取り出して火をつける。
「上司いるのよ?」
「なら、大目に見るのも上司の仕事では?」
エレベーターの中で、牧野はヴァーニーに質問する。
「あの、どのくらいの確率でしょうね」
「それは私が負ける話かしら?」
「いやぁー、私が死んじゃう確率」
「フィフティーフィフティー」
転職したいと牧野は心から願う。
が、今からというのも気が重たくなる。また、ひきつった笑顔で証明写真を貼り付けた履歴書と過去のこれが一番輝いていたであろう仕事内を書き殴った職務経歴書が必要になる。
その後に待ち構えている面接が一番の地獄である。現代病の代名詞であるコミュ障を患っていくばかりか症状は全く改善せずに日々進行するばかりである。次の仕事なんて探したくもなければ、ここより高収入、高待遇の職場は絶対にないだろう。
正直に言えばある物を管理して、定期的に指示を出して、コーヒー飲んで帰れば月給が200万であればこの仕事を続けたいが、当時の彼女は『社内規定に緊急時の対応あり』と書かれていたことなど気に求めずにこの2年間働いてきた。それだけ働いていれば、この大企業が何かヤバいことをしているということも、なんとなく察していたが、いやいや、ガッツリと内容も承知していたのだが、国家もとい権力と仲が良いことは良いことだと、小学生のようなおうむ返しのような完結力で自己完結してしまった。
言ってしまえば、楽な仕事をして、酒を飲みタバコを吸い都内の高層マンションに住めることの方が重要だ。
「絶対特別手当もらいますからね!」
「人事課にどーぞ」
ヴァーニーは既に臨戦体制でこちらな話などとっくに耳に入っていないようだった。
彼女の瞳が紅くそして黄金へと変わり瞳孔がパクリと縦に割れる。その目は真っ直ぐ魔法少女が降りてくるであろうエレベーターホール、そしてその前に内側から閉じられた重厚な金庫室の扉を捉えていた。
牧野たちが降りたエレベーターほ金庫内への直通のものであり、展示物が保管されているエリアは更に特注の硬質ガラスで守られている。
「さて、皆さん下がりましょう。吸血鬼様が本気を出されたらひとたまりもないですから」
警備隊は展示エリア、ヴァーニーのすぐ後ろに陣形を整え、残りは牧野と硬質ガラスの展示室内に入っていく。どうやら音声はスピーカーでつながっているようだ。
「では、ヴァーニーさんご武運を」
「いつも高みの見物ね」
「私が出てっても死んじゃうだけでしょー? 信用してますから」
「どーかしら」
「あ、君ね紅茶もらえる?」
「は? どこで」
「探せば隅にあるよ。よろしくね」
どごん! 凄まじい爆音と共に鋼鉄製の扉が吹き飛んできた。
ヴァーニーは展示室に当たらないようにその扉に凄まじい速さで蹴りを入れ天井へと突き刺した。
刺さっていた扉がゆっくりと外れ、轟音と共に土煙を上げる。
別段、特注の硬質ガラスにあれがあったところで特に問題はないはずなのだが、部下を思うヴァーニーの優しさであろうか。
睨み合う二人。
『あちちちっ! あー、もうびっくりして、こぼしちゃいましたよ。紅茶ぁ』
緊張の糸が切れる間抜けな声で、ヴァーニーと少女の目線は同一の方向に向けられる。
目線を向けられた当の本人である牧野は淡い青色のメガネのずれをゆっくりと直した。
『一戦の前に一つ。えーと、そこの青色コスチュームの君、諦めてはもらえませんかね?』
「諦める?」
『これだけ戦った後で言うことでもないんでしょうが。いやぁ、まぁ、これだけのことをするのならばそれなりの理由があるはずなんですけどもね。それ、お金で解決できませんか?』
「……」
『ここにあるのは古いだけのガラクタですよ』
「私の選択は一つだけよ。その遺物、冒涜の書を渡してもらう。あなた達にあげる選択はこの場で倒されるか、それを置いてとっとと逃げるかの二択だけ。優しいとは思けど?」
『はぁ……』
牧野は椅子にどかりと座ると、持っていたティーカップの縁をスプーンで叩いた。
『れでぃーごー』
その刹那、銃声と共に一気に金庫へ白煙が上がり、展示エリアからは外がはっきりと見えなくなってしまった。
が、時折血飛沫と共に警備隊員がガラスに投げつけられゆっくりと倒れていく姿だけは視認することができた。
ヴァーニーに付き従った警備隊はおそらく全滅だろう。
「隊長」
後ろに控えている男に声をかけた。
たわいもない世間話程度のものである。
「何か」
「よかったね。私たちこちら側で」
「ええ」
「えーと、名前なんて言ったっけ?」
「加賀です」
「そう。彼女さん元気?」
「はい! この間5ヶ月記念を」
「5ヶ月? おめでたいじゃないの」
「ありがとうございます! あ、そういえば牧野さんにケーキの差し入れを」
「ホント! いやぁ、申し訳ないなぁ。甘いもの好きなんだけどね。最近美味しいお店がなくってさぁ。参っちゃうよホントに。あ、そうだ今度彼女さんに聞いておいてくれないかなぁ」
「承知しました。彼女が心配してましたよ牧野さんちょっと痩せすぎだからって」
「悪いね悪いね、後でいただきます。その袋へ入れちゃって良いの? よろしく伝えといてね」
「はい!」
「いやー、まさか万年彼女なしの君がねえ。気をつけなさいよ」
「き、気をつけるって何ですか、気をつけるって」
「女はね考えを読まれないことについちゃ天性の才能を持ってるんだよぉ? 浮かれてないでちゃんとしなさいよぉ?」
「は、はい!」
「んー、それにしてもぉ、まーだかかりそうだねえ。ヴァーニーさん張り切っちゃってるよ。長いよこれ」
「さすがヴァーニーさんですね」
「時間稼ぎして欲しいだけなんだけどもなぁ」
「例のことヴァーニーさんには?」
「言ってないよ。言ったらもっと大変なことになるよ? この戦いどっちも押しきれてなさそうだし時間かかるよぉ?」
「脱出の準備を進めます」
「よろしく」
背後では重厚な長方形のボックスに冒涜の書が収納されていく。
牧野はティーカップをそばの台に置くと、タバコに火をつけながら、マイクのボタンを押した。
『ヴァーニーさーん、申し上げにくいんですがタイムオーバーですよー』
「うるさいわね! もう少しなのよ」
「どっちが死ぬまでやってたら日が暮れますって。万が一、ヴァーニーさんやられちゃったら私たち終わりですよ」
「だからっ!」
室内上部の巨大なハッチが開き、隙間から凄まじい風が入り込む。
ヒュンと空気を引き裂くような音と共にプロペラの音が響く。
金庫室の上は地下格納庫に通じており、ヘリから出されたワイヤーが展示室に固定される。
ちょうど開閉用のハッチも開き切り、搭載された巨大な機関砲が魔法少女に照準を合わせていた。
「あんたいつの間にこんな!」
『今回は時間がなさすぎましたからね、備えあれば憂いなしってわけですよ。乗ってきます? ここすぐに木っ端微塵ですけど』
それを聞いたヴァーニーは渋々、ロープに飛びついた。
魔法少女が後を追おうとしたが、機関砲に邪魔され進むことができずに物陰に隠れる。
『えーと、君名前なんでしたっけ? まぁいいや魔法少女君、ここを無事に脱出できたら田舎で暮らすのはいかがですか?』
「うるさい!」
『はぁ、相変わらず君は鬱陶しいですね。私みたいな雑魚が相手にしちゃダメなんですよ、普通は』
そういうと最上部の扉が開きヘリは大空へと飛び立った。
牧野の時計のタイマーが頂点を指し示すと同時に先ほどまで自分達のいた場所に爆炎と火柱が立った。
「牧野! どういうつもりよ!」
「そんなに絞められたら死んじゃいますよー! 話しますから!」
外から飛び乗ってきたヴァーニーの顔は怒りに溢れて爆発寸前だった。
殺すまではないという理性は残っていたのか牧野の首を離す。
「時間がなかったのは本当ですよ。ヘリの準備ができてませんでしたから。知ってます? ヘリは飛ぶのに意外と準備に時間がかかるんですからね。それに我々の目的は遺物の保護でしょ。ヴァーニーさんが勝てば遺物は我々の手に、もし万が一負けてたら遺物は彼女の元へ、このフィフティーフィフティーはなかなか冒険じゃないですか?」
「……分かったわよ」
「何よりで」
「なんで」
「はい?」
「なんで私も助けたのよ。あのまま飛べば確実にあのガキも殺せたでしょうに」
「んー、上司思いの部下なんですよ。今晩はご馳走になります」
「黙れ」
「しっかし、あの魔法少女うっとおしーなー。私の楽々生活さようなら……」
そう言って肩を落とす牧野をヴァーニーはジト目で眺めているだけだった。
「まぁ、助かったもの通し仲良くしましょう。……対人外用の装備については改良の余地ありですね」
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