第24話 迷惑な脱出作戦

宿出た俺達はまずは王女を呼び出す適当な場所を探していた。昼間街中で妙に緊張していたのはもしかしたらその時点からつけられてたからかもしれない。今も同じような緊張感だが、尾行されているかもしれない緊張感よりは誰かが尾行しているという状態のほうが少しだけ気分が楽だ。


なんというかないかもしれないものに怯え続けるってのは思っているより精神的に来るものがある。それよりはそういう存在があるとわかってしまった方が色々割り切れる。実際にする行動が変わらないとしてもだ。


「街中だと意外と呼び出せそうな場所ってないな。人はそこそこいて欲しいが呼び出す瞬間を見られないような場所、なんかあてがあるのか?」


「この前言った本屋の奥の方とか誰も見ていない隙はあるだろうから良さそうに思うんだけど、名案じゃない?」


「悪くはなさそうだな。なるほど、確かに本屋の方向だ。でも荒らされた部屋を見て真っ先にすることが本屋に行くってのは不自然じゃないか?」


「確かに、先に魔法協会にでも寄って防犯グッズでも探しましょうか。そのあとで行きましょう」


魔法協会を訪れるのは二度目だ。前回は魔道具の市場は通過するだけだったが今回はしっかりと買い物をする。


「へぇー、こうやって魔力を流し込むだけで色々できるんだな。結構便利な者も多いし、これら全部使えたら快適な生活が送れるんじゃねぇか?」


市場ではお湯を作る魔導具や一度魔力を注ぐと夜の間中灯りが点る魔導具など生活していくうえで便利な所謂インフラともいえるような物を多く取り扱っていた。


「まぁ便利だけど魔力を使うことには変わりないからね。生まれ持った魔力量があまりにも少ない人はこういった魔道具すら使えないような人もいるの。そういった人は他の人に頼るしかないから人によっては本当に悲惨なことになるわ」


「おぉ、お金と同じくらい魔力量ってのは大事なんだな。この世界も中々過酷なんだな」


「さて、防犯グッズを扱っているのはこの辺りかしらね。ほら、設定した範囲の外から人が近づいてきたとき自動的に警報が鳴る物や侵入者撃退用のゴーレムとか色々あるわよ」


「今の状況だとそうだな、これもわるくなさそうだな」


俺は部屋の中から外が覗ける魔道具を指さす。この魔道具は2つに分けて使う。2つに魔力を流すと片方からもう片方の景色が見えるというものだ。近づいたら警報が鳴る魔導具と組み合わせることで事前に相手の情報を得ることができる意外と優れものだ。


「そうね、これだけだと心もとないけど組み合わせることで効果を発揮するこれは持っておきたいわね。さっきの2つと一緒に買っておけば相手する方としてはかなり厄介でしょう」


他にも色々と見てみたがいまいちパッとしないものしかなく、先の3つを買って市場を後にした。


「つってもこれ使う機会あるんかなぁ。これから街でゆっくりなんてしばらくできそうもないし」


「今はすぐに街を出ないように思わせることが大事だから。それに意外と使い道あるかもよ?」


続けざまに本屋へと入っていく俺達。市場の辺りから怪しい人を見かけていた。近づきすぎず遠すぎずの距離を保ちながら俺達の様子を伺っている。それも一人ではなく複数だ。


(なんか思ったより多いな。この街に潜んでるのがこれで全部なら意外と少ないってことにはなるけどまぁそれを知る由はないわな)


追手に構わず俺らは本屋へと入る。この本屋の出入口は1か所のため、中までは入ってこない。こちらにとっては好都合だ。俺達は周囲を確認した後王女を呼び出す。


「ここは・・・なるほど。じゃあこれから1時間以内に騒ぎを起こすからよろしく」


「おう、じゃあ追手に怪しまれないうちに外に出るよ。上手くやれよ」


本屋を出て宿へと戻る。追手と思われる人はこちらへ向かってきてくれている。上手く引き付けれたようだ。


部屋まで戻った俺達は王女が行動を起こすのをひたすら待つ。宿に着いてから20分経った辺りで遠くで爆発のような音がする。おそらく王女の仕業によるものだ。俺達は様子を見るために宿の外へと出る。


街は突然の爆発音のせいで大混乱だった。街の外へ向かう人達で溢れかえっている。俺達はその流れに乗じ、街の外へと向かっていく。


流石にこの状況で街を出る人を1人1人確認するわけもなく無事に街を出ることに成功する。


「なんとか上手くいったようだな。でもこの集団は時間が経てば街に戻っていくだろうからその前にここを離れないとな」


「そうね、あの辺り、森が近いから森の中に入っていけそうに見えるわ。周りが混乱しているうちにさっさと行きましょ」


サラに連れられて上手く森の中へと身を隠すことに成功する。しばらくすると騒ぎが収まってきたのか続々と街へと戻っていく。なんだったんだや物騒ねなど日常が脅かされたことに対して嘆いている人が多かった。何も悪いことをしていない人達には悪いことをしたなと罪悪感に襲われるが仕方のないことだと割り切った。



辺りはすっかり静かになってしまった。俺達が街の中から出ていることがばれる前にさっさと別の場所に移動しなければいけない。日が暮れつつある森の中を俺達はひたすら進んでいく。ある程度進むと開けた場所へと出る。森の中ではあるが中々いい場所だ。


「ここでいいかな?じゃあマリーを呼び出すよ」


「そうね、じゃあ私は周囲の確認をしてくるわ。何かあったらすぐに教えて頂戴」


俺は魔石を数回叩き、異空間へ繋げる。いつも通り王女がいることに安堵する。


「その様子だと上手くやったようだな。今周囲の安全を確認しているところだけどこっちも大丈夫そうだ」


「こっちであったことは・・・まぁ概ね計画通りだったわ」


そんなやりとりをしている間にサラが戻ってくる。とりあえず周囲は安全だそうだ。


「あ、そうそう。今は肉に火を通す調理をするとき火を焚くのは禁止ね。こんな場所で煙が出たら怪しまれるから注意してね」


「そう・・・だな。まぁそれでもおいしい料理を出すことは約束するぜ」


「あら、期待しないで待っておくわ。でも貴方だけに任せるわけにもいかないから手伝おうかしら?」


「うーん、そうだな。見張りについていない方には手伝ってもらおうか。それにしても急にどうした?」


「別に・・・気まぐれよ。貴方だけがそこまで背負う必要は無いからもっとみんなを頼りなさい。こんな時だから余計にね」


(なんか思うところでもあったのかな)


準備も終わり、3人集まって食事を開始する。今日は肉の過熱は火魔法でさっと行う調理しかできないため条件に合う料理選びには苦戦した。こうなるなら保存食の作り方という本でも買っておけばよかった。今度行ったときには最優先で買おう。


料理は持ち運べる鉄の箱のような物に肉と野菜と水を入れて箱の外から温めることで蒸し焼きにした。簡単な調理ではあったが肉と一緒に入れた芋が思いのほか美味しく、中々の満足感だった。


だが、一緒に調理していた王女はなんだか不満そうである。話を聞いてみるとどうやら使った魔力量に対しての成果が悪すぎるとのことだった。長時間火魔法を絶やさずに出し続けるのは結構大変なようで普通は調理で使ったりはしない。効率の悪いことをわざわざしなくてはいけないのだから不満に思うのも無理はないといえばそうである。


「まぁこんな状況もすぐ改善されるはずさ。今日は休んで残りの魔物もさっさと倒してしまおう。正直魔物の数が減っているってのは敵味方問わずわかってきているはずだから敵側から寝返るような物が出てきてもおかしくはないと思うんだけど」


「可能性がないとはいないけど・・・まだそれを期待するのは早いかしらね。魔物だけならともかく裏には魔族だっているからそんなに単純じゃないわ。今は余計なことは考えずに私達にできることだけやりましょう」


会話はそこで終わる。王女もこの状況にはいい加減嫌気がさしてきているようだ。


(俺もだがこのまま3つの拠点全部落とす前に精神的な限界が先に来るんじゃないかって心配がある。なんとかしないとなぁ。もちろん2人も同じことを考えているんだろうけど)




とある場所、魔族の集団


「調べてみたんですが最近の魔物がやられている件、どれも例の3人組が関わっているようだ」


「それは本当か?それはまずいな。あいつらに負けた奴のうち1人はこの中でも上から3番目の強さだったんだがそれでも勝てなかったとなると俺達でも勝てないだろう・・・これからどうするかここで決めよう」


「と言ってもよぉ、ここまでやってきたのに今更引くなんて言おうもんならここで殺すぞ。裏を返せばそいつら以外は雑魚ってことだろ?俺がそいつを片付ける。いいか?」


「ううむ、まぁお前に勝てるやつはいないからな、いいだろう。だが気をつけろ。どんな手であいつらが勝ったかはわからない。だが、少なくともあいつは油断をするような奴ではなかった。それだけは覚えておいてくれ」


魔族達は各々の持ち場へと戻る。タイミングの悪いことにその直後、ユウタ達を見失ったという情報が入るがこの情報が共有されるまでにはまた時間がかかることになってしまった。

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