第22話 魔族との戦闘

変わったのは雰囲気だけでない。魔族の周りにいた魔物達が怯え、逃げ出してしまうものさえいた。明らかな命令違反だが、本能で危険を察知したためだろう。そんな魔物だったがすぐに追いつかれ、八つ裂きにされる。他の魔物達はこの惨状を見て覚悟を決めたようだ。一斉にこちらへと向かって来る。魔族の男の近くにいるより俺達のほうがまだマシと判断したのだろうか。


「俺達の方が弱いって判断されたみたいだな。どうする?もう手加減する必要は無いと思うんだが」


「そうね、これからは本気で行きましょう。あいつを放置するのは流石に危険すぎる」


「やーっと思うがままに魔法を使える。魔物ども、覚悟しろー」


「ごちゃごちゃと・・・俺がそんな嘘に騙されると思ったのか。一人ずつ殺してやる」


必死に襲い来る魔物達の対処に追われている俺達に対して魔物に攻撃が当たることも厭わずに鋭い爪で切り裂きにかかる。俺は何とかかわしたが運悪く攻撃を受けてしまった魔物は一撃で絶命してしまう。


次々に腕を振り下ろし、俺を狙った攻撃を続ける魔族。魔物達よりも素早い攻撃のため、逃げ切れない魔物が次々に犠牲になる。


「お前、この魔物達は大事な部下じゃないのかよ」


「うるせぇ、お前らを取り逃がしたらここで倒れている奴がいくらいたって無駄だろうが。そんなこともわからないのか」


魔族の男は俺を激しくののしる。俺視点ではいくら倒せるからといってこちらにも体力があるからそんなに大勢の魔物を一気に倒すことはできない。しかし、魔族視点ではどうだろうか。ここの拠点に居た魔物達はものの1時間もかからないうちに大半が俺達によって殲滅させられてしまった。しかも他の拠点も何か所かやられている報告を聞いているはずだ。俺達が関わっているということはこの魔族視点ではほぼ確定だろう。そんな俺達をここで取り逃がす。そんな選択肢はありえないのだ。


・・・ただし、これは俺達が魔族よりも弱かった場合の話である。


俺は何度か魔族の攻撃を受けてきたが思ったよりも攻撃が強くない。正直魔の森で戦った熊の魔物の一撃に比べると大分劣る。一般人ならどちらの攻撃でも一撃なんだろうが俺の場合はそうでない。


「どうした?これで終わりか?」


「なぜだ、なぜ倒れないいいいい」


理性と引き換えに強大な力を得ている魔族だったが俺がいつまで経っても倒れないことに苛ついている。もう少し冷静になればここで無理にでも撤退という選択肢を取れたはずだが今の状態の彼には無理だっただろう。


いつまでも倒れない俺に対して執拗に攻撃を続ける魔族、しかしこの絶好ともいえる好機を王女とサラが逃すはずもない。俺と魔族2人めがけて魔法を連射する。


「これでお前は終わりだ」


「ばかめ、お前も死ぬぞ。俺を倒せたことは褒めてやるが一緒に地獄行きだ」


魔法により辺り一面が白くなる。直後爆音が一帯を包む。しばらくの間周りで何が起きているのか全く分からない時間が続く。徐々に収まってきて周囲の様子が見えるようになってくる。サラとマリーが駆け寄ってこようとしたが何やら恥ずかしそうにしている。なんだか寒いような・・・


「は、早くこれを着なさい。ちょっと魔法が強すぎたことは私もサラも謝るから」


俺は王女に渡された服を急いで着る。なんとも微妙な空気になってしまったが正直仕方ない。これは事故だ。あの状況で確実に魔族をしとめるにはこうするしかなかった。


「次からは魔法に耐性のある服とかにした方がいいかなぁ」


「結構値は張るけど一応あるわ。流石に毎回こうなられるのは勘弁だからそうして頂戴」


「お二人とも―、まだ気を抜くのは早いですよー」


サラの一言で俺達ははっとする。まだ魔族の男が生きている可能性もあるからだ。あわてて戦闘態勢を取る。


「それは大丈夫ですよー。少なくとももうこの場に魔族はいないわ。あんな魔法受けて大丈夫なのこの世にユウタくらいだもの」


サラの言う通り、近くに黒焦げになった魔族が倒れていた。近づいて状態を確認するが息はなかった。生きていたら色々と情報を聞き出せたかもしれないから残念だ。あの状況で無力化させたうえで生け捕りにすることはできなかった。事前に知っていたならともかくあんな奥の手を持っていたとは。


「魔族については文献が古くて信憑性のあるものがほとんどないの。正直魔族があんな風になるなんて知らなかったわ。多分全部の魔族が使えるわけじゃないと思う。今までにも何度か魔族を討伐したっていう記録はあるけどそんな記述はなかったわ。もしかしたら新しい魔法かもしれないけど」


「そうだったのか、にしても追い詰める度に毎回ああいう風にされたら困っちゃうな。何か良い手はないかなぁ」


「さっきの変化、そうね狂暴化とでも名付けましょうか。狂暴化が魔族の特性によるものではなく何かしらの魔法で変化させている場合魔力が尽きれば自動的に解除されるはず。もし解除の方法がなくて命尽きるまで魔力を消費し続けるタイプだったら諦めるしかないけどね」


「じゃあ次に使われたらとにかく時間稼ぎをすればいいんだな。でももしサラの予想通りだったとしてもどのくらい耐えればいいかわからないぞ」


「倒れないユウタに対する焦りを見るとそんなに長くないかもね。10分も耐えてれば何かわかるんじゃない?」


「簡単に言ってくれるなぁ。まぁさっき戦ったのと同じくらいなら何とでもなるけど」


「さて、今後のことはこれぐらいにして何か残ってないか調べましょう。そしてまた休みましょう。今回の敵はまぁまぁ頭の回るやつだったから結構気を使ったのよね」


俺達は周囲をしばらく探索したが手がかりらしいものは見つからなかった。魔法の衝撃によって吹き飛んでしまったのかそもそも残っているのは大木や大岩などのかなり重量のあるものだけだった。


「さて、こんなところでいいでしょう」


俺達はこの場を去ろうとするが何者かの気配を感じて慌てて振り返る。魔族だ。しかも複数人いる。俺達はすぐに戦闘態勢を取るが魔族は一人が慌てて逃げたのを見て残りもどこかへ行ってしまった。追いかけることも容易ではなく、この状況で深追いにはリスクもあるため、ここは見逃すことにした。サラが逃げる魔族めがけて風魔法を当てるが致命傷にはならず、魔族の姿がどんどん小さくなっていく。


「逃げに徹する相手を仕留めるのは難しいし、こうするしかなかったわ。仮面もつけてたし私だとはばれていないでしょう。2人は目をつけられてしまったでしょうけど・・・」


「向こうから来てくれってんだ。相手してやんよー・・・ユウタがね」


「いや、お前も狙われるぞ」


「まぁ、今後はいつ襲われるか注意しないといけないわね。今までとそんなに変わらないかもしれないけど街中にも魔族と通じている人がいるかもしれないってことはわすれないでよね」


今回はある意味痛み分けともいえる。俺達の存在が魔族にばれたのは痛いが、魔族の男1人を倒し魔物の拠点1つを落とした。


「今度こそ戻りましょう。向こうが準備し始めたら休む時間を中々取れなくなるかもしれないから今のうちに休みましょう」




将軍Ⅱの世界 フィールド7


「この前の件、調べ終わりました。どうやらユウタという男がいなくなっているようです」


参謀は1枚の写真を差し出す。


「こいつか・・・思い出した。こいつだ。俺に対して反抗的な目をしてたことがあるから印象に残っている。それで他に何かわかったことはあるか?」


「はい、ユウタがあなたの攻撃を受けた後どこかへ消えてしまったという目撃情報がありました。・・・今のところはこのくらいですね」


「わかった。引き続き調査を頼む」


(ユウタ・・・お前は俺に斬られ続けてればいいんだ。絶対逃さない。俺を満足させ続けてくれ)

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