第21話 自分を大切に

・・・どうして俺はここにいるのだろう。魔物の拠点に向かっていたはずの俺だったがなぜかサードゥの街の前にいる。俺はサラの方を見ると何やら怒っている。


「休みたいんだったらそう言いなさいよね。魔物の件は早めに対処しないといけないのはそうなんだけど拠点を3つも潰しているんだから負担は相当減っているはずだわ。それにマリー様が言ってたでしょう。隣国と同盟結んでいるから助けも来るって。私達が無茶をして戦えなくなる方がよっぽどマイナスなんだからもっと自分を大事にして言いたいことは言わないと。それとあんたは真面目過ぎ、そこは直したほうがいいわ」


サラにこっぴどく叱られる。しかし、彼女の言うことは正しい。魔物の拠点を早めに潰さないといけないのは確かだが積極的に拠点を潰しに行けるのは俺達だけだ。


「ま、私もゆっくりしたかったしね。あんな魔法使うの久しぶりで疲れちゃった。正直マリー様も同じだと思うよ」


魔物の拠点を1つ潰しただけといえばあまり仕事してない様に思う人もいるかもしれないが拠点までの移動、偵察、戦闘まで全てやらなくちゃいけないんだから疲れるったらありゃしない。そんな状況で複数の拠点を休みなく潰しに行くのは無茶だ。仮にできたとしてもその直後に別の魔物や魔族が襲ってこない保証もないため常に余裕は持たせておかなければいけない。


「すまねぇ、俺のせいだ。少し早まっていた」


「謝り過ぎない。ま、あの街でゆっくりしていたら色々詰められそうだったからあのとき街を離れる選択をすぐにできたのはよかったかもね。やることなすこと全部が駄目ってわけじゃないんだからしっかりしてよ」


「ようし、今日は休むぞー。明日からまた頑張るために」


宿で王女を呼び出した時最初は驚いていたがサラの説明で王女は納得する。そしてその日は3人で街をゆっくりと回り、思う存分楽しんだ。


部屋に戻り、明日の準備を始めるが今日の楽しさがどうしても思い出してしまう。


「あーっ、こんな風に遊んじゃうと明日から頑張るのが億劫になるぅー」


「マリー様ー、報酬が少なかったらおこなんだからね。一生遊べるくらい貰わえないと働き損だー」


「私だって早くこんな生活やめたい・・・大体魔物多すぎるんだよー、どんだけ倒したと思ってるの?」


防音魔法で外には聞こえないため溜まっていた言いたいことを三者三様に言い続けていた。でもこのおかげで少しスッキリした・・気がする。俺達は確かに強いかもしれない、が超人ではない。そのことを痛感した1日だった。


1日休みを得た俺達は気分よく街を出る。昨日の夜で鬱憤は晴らしきった。今は負ける気がしない。そんな思いは印のある地点の近くまで続いた。


魔物の拠点が近づいてきている中、これまでとは様子が異なることに気付く。今までは偵察部隊らしきものは殆ど確認できなかったが何度見つけて倒しても次々と現れる。最初の偵察部隊と思われる魔物を倒してしまった時点で完全に目をつけられてしまったようだ。


「あちゃー、やってしまいましたなぁ。今更逃げ切ることも無理だから戦うしかないよねぇ」


「正直戦う選択をしてくれた方が今後を考えたらありがたいわ。下手に撤退されて策を練られる方が面倒。少なくとも魔物を操っている奴だけは捕えたいところね」


何度か俺達を試すかのように魔物をけしかけてくる。もちろんこんな魔物達に後れを取ることはないが段々と苛ついてくる。


「向こうも魔物は有限のはずだからそろそろ動きがあると思うんだけどな」


「気は抜かないでよね。今までとは違うから私達の想像もつかない奥の手があるのかもしれない」


そうしているうちに魔物がピタっと止まった。一体どうしたのだろうか?身構える俺達。そしてこちらへ翼と角のある人影が近づいてくる。おそらく魔族だ。


「ブラボー、これ程の魔物を返り討ちにしてしまうなんてね。そんな君達に提案だ。俺達と組まないか?あんたらの強さなら幹部の地位は堅い」


「あんたらがここ最近の魔物襲撃の犯人ってことね。そんな奴に協力してもこちらにメリットがあるとは思えないけど」


いかにも初めて魔物の住処に立ち入りましたという口調で魔族らしき男に語り掛ける。こういう咄嗟の機転はさすがである。


「そうですね、この人間が支配している大陸を我々魔族が手に入れたとき人間代表として好きにしてもいいというのはどうでしょう?」


「少し話し合う時間を頂戴」


「えぇ、ですがなるべく早くお願いします」


魔族を名乗る者の登場から急展開すぎて混乱しそうだったので俺としては助かった。もちろんマリーはそんな意味で時間を貰ったわけではない。


「さて、どうしましょ。逃げられるとまずいんでこの場で倒してしまいたいんだけど自信ある?」


「魔族って言ってもよぉ、魔の森に入れないようなやつしかいねぇんだろ。何とかならねぇか?」


「ふっ、そう言われるとそうね。なんだか緊張していた私が馬鹿みたいだったわ。相手から出てきてくれたんだからその間抜けな顔めがけて一撃浴びせてあげないとね」


「でも魔物達もいるから確実に仕留めるのは難しい。ここは圧倒するのではなく相手にいけると思わせ続けながら戦いましょう」


「おいおい、さらっと言うけど結構難しいぞ、それ」


「他にいい案あるなら言ってちょうだい。難しくても他に言い手がないならやるしかないわ」


「わかったよ。俺は思いつかねぇしそれでいこう」


「ちょっとやり過ぎることがあっても許してねマリー様」


作戦の決まった俺達は魔族の男の方を見る。


「さて、話はまとまりましたかな?おや?そうですか。ではここで死んでもらうしかありませんね」


俺達が戦闘の構えを取ったのを見て魔族の男は一斉に魔物をけしかける。さらに、魔族自身も戦闘に参加するようだ。安全な後方から魔法を撃つ準備をしている。


「これくらいなんともない。どんどん来い」


威勢のいい声を出して魔物を煽る。ぶっちゃけいい感じに苦戦する方法はよくわからなかったので最初は威勢がいいが段々と弱気になっていく冒険者を演じることにした。


その後、奇妙な戦闘が続いた。魔族や魔物からの攻撃を俺が受けてふらふらになるがその俺に対して王女やサラが回復魔法をかけ続ける。たまに2人が狙われるが魔法でギリギリのところで対処できている。


という演技を延々と魔物を全て倒すまで続ける・・・はずだった。流石に魔族も何かがおかしいと気づき、攻撃が中断される。


「なんだか苦戦しているように見せているだけな気もしますねぇ。特にそこの貴方。回復魔法をたくさんかけてもらっているから耐えれているように見せているだけで本当はそんなにダメージを受けていないのでは?」


中々鋭い奴だな。まぁ"そんなに"じゃなく"全く"なんだが。それはそうとしてどうするべきか。考える間もなくサラの声が聞こえてくる。


「中々鋭いわね。この程度なら全力を出すまでもないと思っていたけど全力を出さないと勝てない相手だというのが分かったわ。みんな、本気で行くよ」


後ろから飛んでくる魔法がちょっとだけ強くなる。本気(大嘘)だ。だが魔族の男はこの魔法を脅威と感じたようだ。俺の方ももう少し攻撃的に行くか。


魔族の予想通り、魔物達は徐々に押され、ついには魔族の周りに数匹という状況になった。だが魔族の男に焦りはない。


「貴方達の力を侮ってました。流石にあなたのような存在を放っては置けません。この手は使いたくなかったのですが仕方ありません」


魔族の男から邪悪な気配があふれ出る。さっきまでの礼儀正しい雰囲気はどこにもなく荒々しく吠える巨大な獣ともいえる存在がそこに居た。

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