渦津悪魔【マガツノアクマ】

波多見錘

第1話 邪神戦争終結

 「クッソ、ここまで来たのに、俺は負けるのか……」


 俺は今、邪神と対峙している。邪神とは、200年ほど前にある財団の構成員たちが研究支援していた【不死】の研究の成れの果ての姿だ。

 ここ最近になって、己たちの理想のために世界の破壊を始めたんだ。


 それに対抗する人間達はもれなく【抗者こうしゃ】と言われ、その中でも、神に選ばれ特に強い力を持つ者達は【法者ほうしゃ】と言われ、世界中に6人だけ存在した。


 俺はそのうちの一人、【雷の法者】紫雷英司しらいえいじだ。


 現在俺たちは―――いや、俺は邪神の王【デスト】と対峙していた。本当は6人の法者がそろっていたのだが、俺以外全員が死亡した。


 しかし、6人が揃わなければ邪神王を滅ぼすことが出来ない。

 つまり、人類は詰んだってことだ。俺達がいなければ邪神を殺せない。それすなわちすべてが無に帰すという事だ。


 クソ、こんなのってないだろ!友人も家族も全部失って、仲間すらも助けられなかった。クソ、クソ!


 『よくここまでやったな人間、褒めてやる。だが、今日でお前たち人間の抵抗は全て無意味に終わるんだ。せめてもの慈悲だ、楽に死なせてやる。』


 グサッ


 邪神の手が俺の胸を貫通する。


 「グフ……あぁ……」


 声にならない悲鳴が上がる。守りたかった。せめて美穂だけでも生きていてほしかった。俺の好きな人くらいには、笑って幸せになって欲しかったな……


 そう思い、俺が意識を手放そうとすると、不意に声が聞こえてくる。


 《力が欲しいか?》

 力?そんなもの今あったところでだ。


 不思議とその声は、俺の魂に響いたのが分かる。でも、今更力を欲したところで何も変わらない。


 《仲間の死に報いようとは思わないのか?》

 報いたい。でも、好きな人も死んじまった。あいつを倒した所で何も帰ってこない。


 俺はすねた子供の様に、現実を悲観する。


 《なら、仲間たちが浮かばれないな。最後に残したお前がこんなんじゃ。知ってるか?お前は、あいつらの中で最強。最後の希望と言われてたんだぞ。その男がこのざまか。》

 お前に何が分かるって言うんだ。そもそもお前は誰だよ。


 《私はイーヴィル。邪神に唯一単騎で勝利することのできる存在だ》

 なんだよそれ。じゃあ、俺達はなんのために……


 そいつは、その疑問に答える。だが、その答えは俺では受け入れがたいものだった。


 《俺達を生み出すためだよ。より完璧な【悪魔】を生み出す。ただ人の悪意から形成される低級のそれよりも圧倒的に強い【悪魔】を生み出す。それがお前たちの役目だ。もっとも死ななきゃ悪魔は生まれないからな。お前たちは死んでこそに意味があるんだよ。》

 じゃあ、俺達は神に利用されたっていうのか?


 《違う。神はこれを緊急手段として用意しただけで、使わずに済むのなら使わないように人間に言っていたんだ。それを人間が何も考えずに使ったんだ。》

 てことは、この力を与えてくれたのは……


 《そうだよ。邪神と同レベルの思考をしている、己のことしか頭にないクズのような人間達だよ。》

 そ……んな……じゃあなんのために俺達は戦って、なんのために美穂は死んだんだよ……


 《悔しいだろ?なら全部捨てて俺に委ねちまえよ。俺と契約だ。契約内容は単純だ。俺はお前に戦う力をやる。その代わりに来世で6年間、俺の自由に生きさせろ。そしてこの契約内容は履行と同時に力に関すること以外、全て忘れろ。》

 悪魔との契約。はは、いよいよ俺も頭がおかしくなっちまったな。あり得るわけねえだろ。今のこの戦況をひっくり返すこともない。そもそも、俺は死ぬんだ―――


 でも、最後くらい夢見ていいよな?俺は力を手に入れて仲間に報いるんだ。そうだ、俺にだって夢を見る権利が―――


 契約しよう。

 《クヒヒ。そう来なくちゃ!さあ延長戦だ。止まった時間は動き出し、契約は即時発動する》


 瞬間、俺の中の一連のやり取りが頭の中から消えていく。


 「【ラ・イヴィルガーラ】」


 俺の力は、星を貫き邪神との戦争は終結を迎えた。

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