女の勘と軽い修羅場

OFF=SET

第1話


「それ、不倫だわ……」



 学生のキャンパスの話しや、仕事帰りの愚痴、女子達の他愛のない話し。それが混ざっているから、この店を選んだ。「おまたせしました」と、威勢のいい声が飛び交う。


 テーブルの上には重量感のある音と共にビールジョッキが二つ置かれた。その向こう側で、長い髪をかきあげた後、頬杖をついて俺を見つめている。



「課長?」


「ああ、単刀直入すぎたか? いきなり」



 ビールの泡がプチプチと弾けている、結露した水滴が少し凍ったジョッキを溶かしていた。



「課長、まずは飲みましょう」


「あ、ああ、そうだね。ごめんごめん」



 「お疲れ」と、ジョッキをグイッっと突き出す課長に「です」をつけてジョッキを合わすと、喉に流し込んだ。



「で、課長。待って下さいよ、まだそうと決まった訳ではありませんよ」


「そうだよ、決まってないけど、そうなんだって」



 がははと男勝りな笑い声。仕事帰り渇いた喉を潤すのは大人の特権、やはりこの飲み物だ。



「な、何故ですか?」


「第六感、女の勘ってやつよ」



 結婚三年目、妻の異変を相談できるのは同じ女性の大河おおかわ課長だけだった。



「で? 奥さん、今日飲み会なんだって?」


「はい」


「はい、怪しいね」


「相手は女友達、と、言ってましたけど」


「はいはい、それで? LINEや行動、服装は変わったことない?」


「そういえば、最近変わりました」


「スマホ、家の中で、いつも持ってない?」


「あ、持ってトイレや風呂に行ってるような……」


「はい、アウトだね」


「岸野、悪いこと言わない、別れるなら早い方がいいよ」





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