魔王の見た夢

@listil

第1話 あらすじ

ある国の王子は幼少期に、他の魔族の手により人間の赤子とすり替えられた。

その際、本来の王子は殺されている。

魔族と人の違いは見た目ではわからない。

魔王の因子を持つものは必ず魔族の中から産まれる。

ゆえに、魔族は迫害の対象となっている。


王子は気づいてしまった。

自身が瘴気を持っていることに。


自分が人とは違うことに。


ある日、偶然か運命か1人の老いた魔族に出会う。


「あなたの中には魔王の因子が眠っている。それはいつか、あなたを魔王に変えるだろう」


王子はその言葉を聞き、魔王と勇者について調べ始めた。


魔王はその身に瘴気をまとい、溢れ出る瘴気により人々を害した。


しかし勇者には瘴気が効かず、魔王は勇者によって討伐された。


つまり勇者には瘴気に対する耐性があったのだろう。


王子の脳裏に、ある人物が浮かぶ。


殺されるなら、彼が良い。


幼い頃からずっと一緒にいた、僕の騎士様。


魔王になる前に、夢を叶えられるだろうか。

いつか君と一緒に世界を見に行きたいと願った、夢。


王子は王のただ1人の子だった。

彼は国を、家族を、皆を愛していた、ゆえに夢は夢のままだった。


それは、最期の瞬間まで。


王子は自身が少しだけ瘴気を扱えることに気づいてしまった。


その日から、気づかれない程度に少しずつ騎士に瘴気を浴びせて行った。

初めは体調を崩していた彼も、少しずつ、少しずつ慣れていった。


彼は勇者の条件を満たしつつあった。


雲一つない快晴だった。


もうすぐ魔王が現れる


各国の占者達が予言をした為、もう時間が無いんだと悟った。


民の希望の象徴となるようにと、王子は王に騎士を勇者として立てるように進言する。


彼の実力は確かであり、その出自からもきっと希望となり得るだろうと。


王は王子の提案を受け入れ、彼を勇者として認めた。


「ああ…これでもう大丈夫だ。

きっと、彼が僕を殺してくれる」


月のない昏い昏い夜


王子は 魔王となった。


溢れ出す瘴気を撒き散らし、王子は国に向かって吠える。


「北の山脈、死をも凍るその地で私は待つ!!」


瘴気は人々を覆い、その身を苦しめた。

ただ1人、こちらを呆然と眺める彼が苦しまない事が…


王子は嬉しかった。


王子が魔王になったという報は、他国にも知れ渡る。


長い長い旅を終え、騎士は王子の元にたどりつく。


「なんだよ…その姿…」


「…僕は、人のふりをしていたんだよ」


暖かくなったら、君と旅をしてみたかった。


きっと父を心配させてしまうから、近くの村くらいの距離を。


「殺し合おう、僕の勇者様」


それは叶わぬ春の夢。

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