第五話「確かなつながり」(中編②)
一度深呼吸して、気持ちを落ち着けるとスマホをしまう。
一度、シャワー浴びようかな。などと悠長に考え始めたところで、階段を下りてくる足音が聞こえた。
「桐香」
「あ、お兄ちゃん」
「茜は?」
「落ち着いて寝てるよ」
「それは良かった」
話ながらやって来た桐香は俺の向かいに座ると、真剣な顔になり、
「で、お兄ちゃん。あの武器何?」
当然の質問をしてきた。
「茜の部屋にあったんだ」
「敵の情報は?」
「見当たらなかった」
「その代わりに、あの刀を見つけたってわけ?」
「ああ」
「それで……あの武器いったい何なの? 私、あんな武器見たことないよ?」
「俺もだよ」
「じゃあ、なんで効果知ってたの?」
「茜も、装備自体はしたことがなかったみたいなんだ」
「それで見られたわけか。どんな武器なの?」
「……名前は
「それが、あの状態の茜さんを助けた効果ってこと? 茜さんどころか、私もだいぶ楽になったような……」
「ああ。
「っ!
まさしくそうだ。
そして、俺が装備しても茜を助けること自体はできたということでもある。
が、装備済み装備を他者に譲渡することは基本的にできない。少なくとも、現状その手段がない以上、茜に装備させるのが最善だった。
茜の
茜は元々、完全武装時には、腕防具に猩々緋の籠手を着けていて、これの
一つは、武士の御業。攻撃魔法の威力倍増効果だ。
もう一つが武士の極意。効果は魔法詠唱の簡略化だ。
それに、今回の
今後、相当な戦力になってくれるはずだ。
「ねえ、お兄ちゃん。そんなものどうやって……ううん。どうしたら手に入るの?」
「……わからない」
こんな反則級の装備を手に入れられる手段が、そう簡単なわけがない。
とにかく。
「それに関しては、茜に聞いてみるしかないな」
「……うん。そうだね」
そのあと桐香は俺の部屋へと、疲れ切った体を休めるため仮眠を取りにいった。
俺は軽くシャワーを浴びると、茜がいつ起きてきても良いように、リビングで待つ。
先に起きてきたのは、桐香だった。
そのころには日もすっかり落ちて、気持ちも少し落ち着いてきていた。桐香は夕飯を作りはじめて、俺はなんとなくその後ろ姿を眺めていたら、二階から降りてくる足音が聞こえたので階段のほうへと目をやると。
「あ、えっと……」
茜は、俺と目が合うと、困ったような表情を見せた。
桐香が勝手に出したのか、俺の黒いパジャマを上下着ている。
サイズがあってなくてぶかぶかで、それが茜の体型と相まって犯罪臭が……うん。いや、なんというか気恥ずかしいな。
「……茜」
言葉が咄嗟に思いつかず、名前だけが口を出る。それに応えるように茜は足を止めた。
俺の言葉で茜がやってきたことに気付いた桐香は、コンロの火を消し、慌てたようにリビングへやって来た。
「茜さん。もう大丈夫なんですか?」
「あ、うん。おかげさまで……」
「無理はしないでくださいね」
「あ、うん。えっと……その……」
重い足取りでやってきた茜は、勢いよく頭を下げ、
「あ、えっと……ごめんなさいっ!」
珍しく大きな声で、勢いつけての一言だった。それだけ、思いつめていたということなのだろう。
「茜。俺たちこそ、寄り添う時間をしっかり作らなかった。昔の関係が何も変わらず続いていて、不変のものだと思っていたんだ。でも、そうじゃないよな」
「あ、えっと……そんなことは……」
「わかってる。別に、仲が悪くなったとか、ネガティブなことが言いたいわけじゃない。ただ、茜だって俺たちのいないところでいろんな経験を積んできたはずだから。そこに、茜の中での変化があって、それが俺たちにプラスに働く可能性もあった。けど、俺は昔の関係に固執しすぎて、茜の気持をないがしろにしてしまった部分があったと思う。だから、ごめん」
「あ、うん。でも、そんなことはないよ。私が勝手しただけ」
口ではそう言っていても、どこかまだ隠している本心があるような気がして仕方がなかった。だが、一応の決着としての答えなのだろうし、それを受け止める以外の選択肢は今の俺にはなかった。
「……あ、えっと。これ」
茜がそう言って差し出してきたのは
「茜さん。その刀は……」
「待って、桐香。茜もとりあえず座って……それから聞きたいことがあるんだ」
「あ、うん」
茜は俺の向かいの席に座ると、桐香もエプロンを外して茜の隣に腰かけた。
「あ、えっと……。一輝くん、これなんだけど……」
改めて、といったふうに茜は
「俺も、この刀について聞こうと思ってたんだ」
「あ、うん。……え? この刀は一輝君のじゃないの?」
「……へ?」
予想外すぎる茜の返しに、俺は言葉に詰まってしまう。
「茜の部屋にあったんだぞ? 知らないわけないだろ?」
「あ、え? え?」
今度は茜が不思議そうに首をひねり始める。頭上にクエスチョンマークが出まくっているのは、表情を見れば一目瞭然だった。
「茜さんは、この刀のこと知らなかったんですか?」
「あ、うん。……えっと、一つ良いかな一輝くん」
「なに?」
「あ、えっとね? 私の部屋にあったって……入ったの?」
「っ!?」
これは……どう答えるのが正解なのだろう。責められる気しかしないんだが。
……まあ、あれだな。下手にごまかすよりは、素直に謝るのが筋ってもんだ。
「ごめん、茜。入ったよ。けどな? 決して余計なものは見てないから」
「お兄ちゃん? 余計なものって何?」
「え……」
なぜそこでお前が突っ込んでくるんだよ。
「いや、余計なものなんてわからんけどさ」
パンツとかブラジャーがフラッシュバックするからやめてくれ。忘れたつもりでいたのに。
「……お兄ちゃん。茜さんの下着、見たんでしょ?」
「っ!? もしかして……顔に出てた?」
俺の答えに桐香は困ったように肩をすくめると、
「……はぁ」
と、わざとらしくため息をついて見せてくる。まさか……。
「桐香……カマ掛けたな⁉」
「ひっかかるほうも、どうかと思うよ? まったくサイテー」
「いや、違うんだ。わざとじゃなくて、不可抗力で……な? 茜はわかってくれるよな?」
茜のほうを見ると、少しばかり顔を赤らめていたが、
「……あ、うん。別にすごく嫌ってわけじゃないから、大丈夫だよ。助けてくれようとしてたんだもんね?」
ありがとう。さすが茜だ。マジ天使。
「茜さん。怒ってもいいんですよ?」
「あ、うん。でも、本当に大丈夫だよ、一輝くんなら……。じゃなかった。えっとね、一ついいかな?」
先ほどの赤らめた表情から一転、真剣に俺の目を見てくる。
「どうした?」
「あ、えっと。一輝君はどうやって私の部屋に入ったの? おばあちゃんがすんなり入れてくれるとも思えないし、ましてやあの強固なセキュリティーの家に、プレイヤーとはいえ忍び込むのは至難の業じゃないかな?」
ああ、そう言うことか。
「茜の部屋の窓が開いてたからな、そこから侵入したんだ。勿論ちゃんと靴は脱いだぞ?」
「あ、え? 開いてたの? 私の部屋」
「ああ。昨日、完全武装で窓から出たんだろ?」
「あ、ううん。昨日はこっそり裏口から出て……」
「じゃあ、たんに閉め忘れってことか?」
「あ、えっと……そんなはずはないと思うんだけど……」
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