VRMMOで最強の幼馴染たちは現実世界で無双するようです。
𠮷田 樹
第一章 ー NPC殺害事件編 ー
前日譚『三ツ者・極秘調査記録』
それをゲームとして落とし込んだのがVRゲームである。
だが、それが現在のように体の感覚までも再現するレベルとなったのはつい最近のことであった。
高性能すぎるがゆえに、その性能をフルに発揮できるソフトが出てくることすら、奇跡と言って良かったと思う。
『Real/Game』
ハードにソフトの技術を追いつかせることすら難しいとされていた中、まるでハードの発売を予見していたとでも言うように現れた
告知もなく、宣伝もなく、製作者不明のそのゲームはフリーソフトとして配信され、口コミで噂は瞬く間に広がり記録的な大ブームを巻き起こした。私も、そんなブームに乗ったプレイヤーの一人だった。
「にしても、暑すぎでござるな」
一人なのにも関わらず、ゲームの中だとロールプレイが抜ききらないのは良いのか悪いのか。
新しく発見された火山ステージの中央に鎮座する活火山型ダンジョン。その最上階には、マグマに囲まれたボス部屋が存在する。
封鎖型じゃなくて良かった。岩陰に隠れ、ボスモンスターに気づかれないように息をひそめることができる。
主に私は情報屋のようなことをしているので、ボスモンスターに挑む気などない。というより私一人で挑んで勝てるような甘い難易度なわけがないんだけど。
こういったダンジョンの攻略は、ボス攻略をメインに活動している団体、いわゆる攻略ギルドが挑むことが多い。
情報によれば、今日はゲーム内最強と言われているボス攻略ギルドの精鋭メンバーが挑むらしい。さて、どの程度までボスの実力を丸裸にできるか見ものだね。
「お、来たでござるな」
そうこうしているうちにやってきたのは、ゲーム攻略ギルド『
もしかして一発でクリアしちゃったりして……いや、さすがにそんなことは無いか。でも、鎧にローブに武器に豪華で金かけてるね。いい線いけそう。
中央の大きな火口に溜まるマグマに構え、レイドメンバーが隊列を組むと同時、マグマが勢いよく煮えたぎり始めた。
そして……。
「っ!」
何か巨大なものがマグマから飛び出し、私は反射で屈んだ。
ヤバいと直感的に思った。それは、間違いではなかった。
勢いよく溶岩が四方へと飛び散り、辺りは地形を変え強烈な熱風が体を襲う。
これでは、熱耐性の薬がいくらあっても足りる気がしない。
強烈な圧が和らぐのを感じて改めて中央へと目をやる。
……そこにあったのは黒い大きな塊だった。
「え?」
思考が一瞬停止した。黒い塊は、
だが、そうでないことは見上げてすぐにわかった。
高層ビルなど目ではないサイズのそれは、溶岩かと思ってしまうほど岩石を体にまとい、その隙間から黒光りする鱗を覗かせている。目の前のそれは、足であり体でもあった。翼もあるように見える。が、大きすぎてまるで全容がつかめない。
こんなの……。
「勝てるわけ、ないじゃない……」
レイドメンバーの中の誰かがそうつぶやいたのが聞こえた。たとえゲームだとわかっていても、目の前にある恐怖というのは変わらない。かくいう私もまるで動けずにいた。今は逃げるべき、という発想と少しでもこの場に残って情報を、という気持ちが同居する。
けど、それが命取りだった。
なによこれっ! 硬直
そんな私の考えなどお構いなしに足と思しき右側の黒い塊が前へと踏み出し、
理不尽な暴力。絶対的な王者の力。なんと形容したらいいのだろう。それは明らかな虐殺の現場だった。無抵抗で倒れていくレイドメンバーを不憫に思う気持ちの余裕すら生まれない。
最初の一撃で大半がやられた。
残っているのは運よく初撃を免れたギルドマスターの女剣士と最後方に陣取っていた魔法職のうち三人のみ。
このゲームは、死んだプレイヤーのアバターもパーティー全滅までフィールドに残る。その光景は、残存メンバーにも相当な精神的ショックを与えるのだ。
ここまで一方的では、精鋭と言えども例外なく戦意を喪失してもおかしくない。
ショックから立ち直る余裕などあるはずもなく、もう一つの黒い塊が前へと動き出す。それは死への宣告のような動きに映った。
三人の魔法職はパニックに陥り、泣き、笑い、蹲り、絶望に染まっていた。だが、さすがはギルドマスターと言うべきか、女剣士はデバフから立ち直ったのか三人の前に駆け寄ると立ちふさがり剣を構え、
「私が! 一太刀くらいは報いて見せようっ!」
苦し気な表情ではあるものの、自分を奮い立たせるようにそう言い放つ。
そんな勇気を踏みにじるように、岩石のごとき足が全員を踏みつぶさんと襲い掛かり……。
止まった。
「え?」
なぜ、攻撃が止まったんだ。
女剣士も防御姿勢で剣を構えたまま硬直している。
女剣士が受けきった? いや……違う、あれは……。
「あんた、なかなか肝が据わってるなぁ! 名前は?」
女剣士のほうへ、にこやかに振り返る黒髪の少年が二刀の剣で攻撃を悠々と防ぎ、そう尋ねていた。
「私は……」
「あ、悪い。先に倒しちゃうよ」
身軽そうな和風の黒い装備に身を包んだ少年は紅い装飾をはためかせ、消える。
え? 何が起こった?
次の瞬間、大きな塊であったはずの敵は粉々に、ガラスが砕け散るかのようなエフェクトとともに消えた。
本当に消えた。一瞬のことすぎて、ほかに言い現しようがなかった。
少年はマグマがあったはずの中心で、腰の鞘に剣を収めていたのだ。
「で、あんた名前は?」
女剣士のほうへと歩み寄りつつ、そう聞く少年の姿に私は思いだしていた。
伝説のプレイヤー、ツヴィーベルナイト。
その名前は、頭につけた玉ねぎのような装飾装備に由来する。
彼は職業不明の最強プレイヤー。
その正体はゲーム制作陣営の人間が操るアバターだと噂されている。
「ちょっとお兄ちゃーん!」
遠くから幼気な少女の声が聞こえた。姿は私の位置からでは見えないが、ほかにも複数人のプレイヤーがいるだろうことが気配でわかる。
間違いない。
声の主と一緒にやってきたメンバーはテスターパーティーと言われているプレイヤー達だろう。名称不明でパーティーなのかギルドなのかさえわからないバランスブレイカー集団。推測の域を出ないが制作陣営のみで構成されているらしい。
「お兄ちゃん、もしかして一人で倒しちゃったの?」
「ここでお兄ちゃんって呼ぶなって言ってるだろ」
少年の反論に反応したのは、
「あ、えっと……」
少し落ち着いたおとなしそうな、これも女性の声だった。
「あ、そのね。待っててくれても良かったかなって」
「いや、勇敢なお姉さんがピンチだったから。ていうかそもそも待つほどの相手じゃなかったよ。
「あ、うん。そっか……じゃあ、ドロップアイテムもいまいちかな」
「お兄ちゃんばっかりかっこつけてずるい! ドロップアイテム云々じゃないんだよ、まったくもう!」
先ほどまで私が感じていた絶望など幻とでも言うように、平然と和気あいあいとしている姿が私には衝撃的だった。
伝説など
視認することすらできない神速の攻撃を……伝説のプレイヤーの姿を。
そうして私は彼をターゲットにし、情報収集を開始した。
伝説のプレイヤーである彼の正体を探るために。
時には接触し何度か協力し、彼から依頼を受けたこともあったが、知ることができたのはGlanzというプレイヤーネームだけだった。
――そして。
Real/Gameが現実世界でのデスゲームと化した今も、私はGlanzのプレイヤーである桐原一輝を探り続けていた。
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