僕が感じた違和感

NOTTI

第1話:モヤモヤした気持ち

2022年春、年度末に入り、社内では来年度の人事が始まっていた。


 今年は定年退職者が100人、一般退職者が40人いて、その人たちが抜けたポジションを誰が担って、誰が昇任するのか?に注目が集まっていた。


 その中でも今年は働き方改革の一環として30代の若年管理職という30代の社員を対象とした管理職登用制度が2023年度から試験的に施行されることになる。


 その理由として、今勤めている会社の年代別社員数を見ると40代から50代は多いのだが、20代から30代は少ないため、少ない世代の社員定着率向上のために管理職登用ポストを用意することで独立人材を引き留められると考えていたが、今年度も20代半ばから30代後半の社員が独立のために退職、育児休暇延長など個々の理由で会社を辞めていく、休職することになるのだ。


 その中でも管理部業務管理1課の小池と総務部総務課の小村はまだ20代ながら他の社員からも次世代の部長候補と言われていたが、2年後に友人が独立し、起業することになったため、ヘッドハンティングされる形でその会社に転職する事になっていた。


 その他にも支社長として40代の若さで抜擢された外村、20代後半で出世コースを突き進んでいる小野など将来の役職候補は何人もいるのだが、この人たちが定年退職までこの会社にいるという確証はなく、外村の同僚には独立し、大手商業施設管理会社の社長になった人、大手ベンチャー企業の社長になった人、大手商社の部長になった人など実力のある人がたくさんいるのだ。


 この時、翼はある事が頭をよぎった。


 それは“自分の同僚はどれくらい残るのだろう?”ということだった。


 実は翼の同僚の多くは入社から3年以内で転職もしくは独立しているため、今残っている同僚は入社時の6割程度で、今後2年で3割が転職するのではないか?と思ったのだ。


 そして、年度末になったこともあり、上司などとのリモート飲み会を開いたときにある話題が上がった。


 それは翼にとってはまさかの話だった。


 同じ営業1課の後田部長が「なんか経営戦略部の陽村が琴村グループの役員にヘッドハンティングされるかもしれない」と言ったのだ。


 この話を聞いて、一部の同僚は「陽村についての噂は本当だったのか。」と思ったのだ。


 実は彼の噂は遡ること3ヶ月前に初めてこの話題を聞いた。


 その内容は「経営戦略部の陽村が琴村グループからオファーを受けたらしくて、本人は悩んでいるみたいだよ。」という話で、その噂が出た数日後に会社近くの居酒屋で飲んでいる彼の姿があったという。


 その姿を見て、普段と変わらないと部長は思っていたようだったが、一方で心配になった。


 なぜなら、彼は自分より5歳上だが、子どもが5人いて、一番上は小学3年生で、一番下は生まれたばかりだったからだ。


 仮にこのタイミングでヘッドハンティングされた場合、彼は引っ越しする必要はなくなるが、琴村グループは拠点が海外にもあるため、海外駐在する形になった場合、単身赴任を選ぶしかないのだ。


 この時、翼は“陽村さんがヘッドハンティングを受けて、琴村グループに転職すると思う”と感じていた。


 その理由として、この前の交流会で“僕も良い年齢だから新しい事に挑戦したいし、何か自分の手で作ってみたい”と言っていたことがある。


 そう。彼の中では琴村グループからのオファーを受ける決心は付いていたが、彼にはいくつかの超えなくてはいけない課題があった。


 まず、2年前に買った6LDKの自宅と別の場所にある別荘のローンだ。


 現在、2軒合わせて毎月30万円のローンがあり、彼は副業をしているが、毎月赤字の状態で、今のままでは資金繰りに困る可能性があるため、1度目の交渉で高待遇を提示してきた琴村グループへの思いと2回目の交渉で勤務条件なども彼に合わせるなどその他の面でも好待遇を提示してきたため、彼の中では転職するという判断が正しいと思っていた。

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