つげ櫛 9-4


 鏡の前で女は髪を梳く。


 つげ櫛で時間をかけて、丁寧に。

 どこかへ消えてしまった恋人への思いを、ひと梳き、ひと梳きに込めて。


 そして女は櫛を懐にしまい、立ち上がった。


「私、あなたを探しに行くわ」


 細い首に紐をかける。

 すると次の瞬間、飴色のつげ櫛が床に落下した。


 まるで来るな、と告げるように。

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