ふるさと風味の豆乳アイスクリーム
相沢泉見
1
あと十分で昼休みが終わる。
空のお弁当箱を挟んで雑談していた私と
「
私たちの名前を呼んだのは、親友の
私と麻友子と晴哉はクラスメイト。週に四日は、今いるこの二年A組の教室で三人揃ってランチタイムを過ごしている。
ただし、今日の昼休みは麻友子だけ別行動だった。
この教室まで全力で走ってきたらしく、麻友子は肩のすぐ下まで伸ばしたふわふわの髪を揺らしながら、はぁはぁと息をしている。
「麻友子、どうしたの。何かあった?」
「あ、あのね、大変なの!」
小柄で、何をするにもスローペースな麻友子にとっては、生きているだけで毎日『大変』の連続だ。
体操着を忘れてきて大変、課題が分からなくて大変、可愛い猫がいて大変。大変大変、大変!
麻友子なりの『大変』に遭遇するたび、彼女はこうして形の良い眉毛をきゅっと寄せ、小走りで報告しにくる。
その顔が妙に可愛らしくて、私は「またか」と思いつつ、ついつい事情を聞いてしまう。
「落ち着いて。ほら、麻友子の好きないちごミルク、半分残ってるから飲みなよ」
私はさっきまで自分で飲んでいた紙パックの飲み物を差し出した。麻友子は淡いピンクの液体を小さな口でちゅーっと啜り上げてから、一つ息を吐く。
落ち着いたところで、本題に入った。
「何があったか教えて」
「うん、えーと……これのことなんだけど」
麻友子は片手に提げていたものを顔の横に掲げた。お弁当箱の入った巾着袋だ。
「お弁当がどうかしたの?」
「あ、あのね、理瀬。
次の瞬間、私と晴哉はほぼ同時に、全く同じ台詞を発していた。
「えぇっ?!」
篠倉先輩――篠倉
おそらく彼は、うちの高校イチの有名人だろう。
すこぶる見た目がよく、声もいい。性格は温厚で成績優秀。スポーツもできる上に、生徒会長をやっている。
……と、こんな調子で長所を上げていったらキリがない。欠点を探す方が大変だろう。結論として、篠倉先輩は、それはもう大変モテる。
その篠倉先輩が魅力を最大限に発揮するのは、毎週火曜日の『お昼の放送』だった。
私たちの高校には放送部があり、そこに所属する生徒が交代で昼休みに放送室から音楽を流すことになっている。
曲目は担当の生徒に一任され、さらに曲の合間にトークが挟まる。要するに、放送室を使ってラジオのDJみたいなことをやっているのだ。
篠倉先輩は放送部のエース。
毎週火曜日の昼休み、彼の選んだ曲と穏やかな声が学校中に響き渡る。校内に数多くいる篠倉先輩ファンにとって、火曜の昼はまさに至福のひとときといえるだろう。
麻友子も放送部に所属しており、火曜日はメインパーソナリティーの篠倉先輩の補助として、昼休みの大半を放送室で過ごす。
本日はその火曜日。麻友子はさっきまで放送室にいた。
CDを準備したりマイクの調整をしたりしながら、篠倉先輩ほか二名と、放送室でお弁当を食べていたはずだ。
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