城ケ崎先輩の役に立たない第六感アイデア
タカば
城ケ崎先輩の役に立たない第六感アイデア
うちの大学には変な先輩がいる。
名前は城ケ崎芽衣子。
一年先輩の彼女は、そこそこの頻度で大学にやってくる、そこそこ不真面目な学生で、結構な頻度で俺についてきて、そこそこの時間まで俺の部屋にいりびたる。
そして、毎回独自のアイデアを披露するが、だいたい役に立たない。
実に面倒な先輩である。
「真尋くん、いいことを思い付いたぞ」
「……何ですか」
そろそろ日も傾きかける時刻。
俺の手元を睨んでいた城ケ崎先輩が、そう言った。
「私の前に提示された選択肢はふたつ。つまり右のカードか左のカードか、だ。しかしカードの裏面は全く同じで全く区別がつかない」
「……そうですね」
俺は城ケ崎先輩に睨まれている己の手を見た。
そこには、スペードのエースとジョーカーの2枚のカードがある。城ケ崎先輩の手にもカードが一枚。伏せられていて絵柄は見えないが、ハートのエースのはずだ。
事の発端は、城ケ崎先輩が「ロボットアニメが見たい」と言い出したせいだ。
そのアニメは海外のCGロボットアニメを吹き替えたもので、子供ウケしない暗くて重い話に嫌気がさしたスタッフが日本語版台本を作成する際に大幅に改変。申し訳程度に背景と口パクにあわせつつ、ひたすら声優が悪ノリとアドリブを繰り広げるという、マニアにはおもしろいかもしれないが、一般人にとってはただの地獄という代物だった。
少々アレな方向に感性がぶっとんでいる城ケ崎先輩はともかく、一般人の俺にとってはマニアックすぎる。
試聴は控え目に言って拷問である。
俺と城ケ崎先輩の間で壮絶なリモコン争奪戦が勃発し、最終的に俺たちは『ババヌキで勝った方がリモコン優先権を得る』という勝負に落ち着いた。
つうか、そもそも、この部屋の家主は俺なんですがね?
ふたりババヌキに戦略というものは存在しない。
ジョーカーを引かない限り、引いたカードはペアになるからだ。
かくして、あっという間に手札は減り、ついに俺が2枚、城ケ崎先輩が1枚という絶体絶命の状況に陥った。
ここで城ケ崎先輩がスペードを引けば俺の負け。
ジョーカーを引けば勝負続行だ。
先輩はむむむ、と腕組みをして俺の手を見つめる。
彼女の腕の間で、そこそこたわわな胸がむにゅ~…と形を変えている。
「カードゲームでは、相手の出方を見てカードを類推するものだが、真尋くんは感情が薄くて表情に乏しいからなあ。観察しても一切の情報が得られない」
薄くて悪かったな。
表に出てないだけだぞ。
「外見からは一切の判断材料がない。そんなときに頼りになるのはインスピレーション! つまり第六感だ!」
城ケ崎先輩はついに身もふたもないことを言い出した。
かっこいいように言ってるけど、つまりは思考放棄じゃないですか?
「うなれ私のシックスセンス! 私にアニメ視聴の権利を与えるのだ!」
城ケ崎先輩は意を決して、俺の手からカードをもぎとった。
そして、床に崩れおちる。
「うわああああああああああジョーカーだああああああ……!」
「でしょうね」
「くっ! だが私はまだ諦めない! 勝負はまだ続いているからな!」
城ケ崎先輩はジョーカーとハートのエースを伏せると、何度かシャッフルして俺の前につきつけてきた。
「さ……さあどうだ!」
「じゃ、こっちで」
俺はひょい、と左のカードを取った。
裏返してみると、そこには真っ赤なハートが大きく書かれている。
「俺の勝ち」
「なんでだあああああああ!」
城ケ崎先輩はふたたび床に崩れ落ちる。
「なんでも何もただの手癖ですよ。城ケ崎先輩、ババ抜きで最後の2枚になったら、必ず右のほうから取りますもん。あと、取られる時もジョーカーを必ず同じ位置に持ちますよね」
「へ」
「あと、じゃんけんの真剣勝負で出すのは、必ずチョキだし」
「は?!」
「変なこと考えるより、経験則のほうがずっと確か、って話ですね」
俺は茫然とする城ケ崎先輩を無視してリモコンを拾い上げる。
ちょうどDVDデッキにセットしてあった映画を再生し始めた。
「ちょ……ちょっと待て……お前何を再生してるんだ」
「昔懐かしJホラーですよ。陰湿で、グロくて、エグくて、心底怖いやつ」
「お前は何てものを! 人でなし!」
「普通に映画館で公開されてた作品に何を言ってるんですか」
「お子様が見ちゃいけないやつだろう! ひぃ……っ! オープニングがすでにやばい!」
城ケ崎先輩はひしっと俺の腕にしがみついた。
先輩のそこそこたわわな胸が、今度は俺の腕に押し付けられる。
「うぅぅぅ……地獄だああああ……」
今日も城ケ崎先輩のアイデアは、役に立たない。
城ケ崎先輩の役に立たない第六感アイデア タカば @takaba_batake
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