第12話 嘘のいばらが好きであって本当のいばらには価値がない

「私、行ってくる。」

いばらと自分の嘘と決別する為、のばらはいばらの部屋へ向かおうとする。

ゆりかも慌てて彼女の後を追おうとしたが、止められた。


「ゆりか、気持ちは嬉しい。でもこれは、私だけでケリをつけさせて。」


のばらが心配なものの、きっともう大丈夫。もう嘘なんてつかないだろう。ゆりかにもいばらにものばら自身にも。

のばらは、学園での彼女と同じように自信に満ち溢れ部屋を後にした。



「こんにちは、のばら。貴女から来てくれて嬉しい。」

「こんにちは、いばら。私から来てやった。嬉しいだろ。」


いばらの部屋。

のばらは彼女を見下した目で見ながら言った。それに対して、いばらは満足そう。


いばらは、のばらに近づくと彼女の唇に触れる。

「嫌がらない、貴女は私を絶対に嫌がらない。」

そうして、自分の唇を重ねようとした。


「やめろ、汚い。」


のばらはいばらの手を振り払う。


「なんですって?」

「それは、姉さんが教えてくれたことじゃない。私は嘘をつかれていた。姉さんは、これを汚いって言ってた。それが真実。だから、もう私に触るな。」

「ほざいてろ、私からは逃げられない。」

「ほざくな。私から逃げられないのは姉さん。」


のばらもいばらも一歩も引かない。

姉妹だけあって、どちらも高圧的で全てを見下している。

お互い肉親であって同じ。


「私が、姉さんの呪いにかかってるんじゃない。姉さんの方が私を離したくない。」

「私が・・・ですって?」

「姉さん、貴女はもう私に嘘をつけなくなってる。嘘をつかない姉さんなんて怖くない。私が好きだった姉さんじゃないから。」


いばらは黙り込む。


いばらは、のばらを愛していた。それは嘘。

のばらは、いばらを愛していた。それは嘘のいばら。

いばらは、言う。「のばらは汚い。」これは嘘ではない。


のばらは、結論を出す。


嘘のいばらが好き。嘘をついていないいばらなど、価値はない。

いくら今、何と言おうが手遅れた。

のばらの全ては嘘のいばら。

汚いなど言ういばらは大嫌い。


「嘘がつけなくなった姉さんなんて、馬鹿みたい、笑っちゃう。何を言ってももう遅い。私の全ては本当のゆりか。」

「馬鹿みたい、笑っちゃう。そんな言葉遊びは何の役にも立たない。」

「何の役にも立たない、でも呪縛を解くには十分価値がある。」


のばらは、思い通りにならないのばらに腹が立って、彼女の頬を叩こうとしたが、再びばらに手を払いのけられる。思い切り。


「触るな、汚い。姉さんの本当。これがあれば私は十分に強い。最後に姉さんに触れてやる。」


のばらは、今度はいばらに向かって頬を思い切り引っ叩いた。


「すっきりした。でも、嫌だ。触っちゃった。汚い。汚い。汚い。」

いばらは、頬を抑えながらのばらを睨んだ。だが、何一つ言い返せない。


「気持ち悪いのはお前だ、それはお前が言ったこと。馬鹿みたい、笑っちゃう。」

「のばら・・・覚えてろよ。」

「安心して、姉さんは姉さん。別に姉を嫌いにはならない。ただ、汚くて気持ち悪いだけ。二人は汚いんだよね。それが真実だったんだよね。私、汚いの嫌い。それが言えたから、もう姉さんなんて怖くない。」


のばらはそうやって、いばらの元を去った。

こんなことしても、いばらのことだからそのうち復讐をするだろう。

けれど、その度に言ってやる。


「馬鹿みたい、笑っちゃう。」


・・・とはいえ、だいぶ精神力は使い果たした。

相手はいばら。そう簡単に噛みつける相手ではない。

本当は、立っているのでやっと。でも、のばらはどうしても決別したかった。その一心で彼女に歯向かったのだった。


「疲れた、ゆりか。」


二人の部屋。

のばらは倒れるようにしてゆりかに抱き付いた。

「のばら、大丈夫?」

「あまり。でも、ゆりかがいればそれでいい。もう嘘なんて懲り懲りよ。」

「大丈夫、私たちはもう嘘なんてつかないよ。」

「そう思いたい。」


そう言うと、のばらはゆりかにキスしようとしたが、途中でやめてしまった。

「やめておく。貴女、こういうのよりもっと雰囲気があるのがいいんでしょ?」

「のばら・・・?」

「貴女のつまらない雑誌で読んだ。きっと、もっと・・・。」

そして、のばらはそのまま寝てしまった。

「・・・のばら?もう、いつものばらは勝手。」

そしてゆりかはこっそりのばらの額にキスをする。


「私、のばらとならどこでもいいんだけどな。」


それから数日後。

のばらは通常運転に戻ったし、ゆりかもそれに付き合うしかない。

まぁ、それが一番平和なのだけれど。

とはいえ、対外的にはいつもの二人に戻る。

嘘をつかない二人はこんなにベタベタはしないけれど、まあいいか。


ゆりかは、今日ものばらと手を繋いで登校。

微笑みかけては手を振る。


「これはいつまでたっても嘘ね。二人の間に嘘がないならもういいや。」

「どうなさったの?ゆりかさん。」


あーあ、よく言うよ。

そう思いながらもゆりかは合わせる。


「いいえ、なんでもないの。のばらさん。早く行きましょう?授業に遅れてしまうわ。」

「そうね、急ぎましょう?」


そして、二人は仲よく隣同士の席で座る。

微笑みは絶やさない。三年間培ってきた演技力に隙などない。

いつも完璧トップコンビ。


そんな折、チャイムが鳴って教師が入ってくる。

いつも通り・・・ではない。後ろに生徒を連れている。


ストレートの肩までの髪。

あれ、どこかで。

口角の上がった口。

何か見覚えがある。

釣り目。

いや、まさか。


「転校生を紹介します。桃谷ひまわりさん。みなさん仲良くしてあげて。」


その瞬間、ゆりかは席を思い切り立った。

「ゆりか・・・さん?どうしたの?」


ゆりかが震えている。

のばらは彼女の制服の裾を引っ張って小声で言う。

「どうしたのよ、ゆりか。」


「あ、もしかして。ゆりか!?やだ、偶然!!」

ひまわりは嬉しそうに言う。その表情のどこかに何かを秘めながら。


「あら。二人は知り合いなの?」

教師はひまわりとゆりかを交互に見る。

すると、ひまわりはにこりと微笑んだ。


「ええ、小学生の時、お友達だったんです。ね、ゆりか?」

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