第11話 馬鹿みたい!笑っちゃう!!

「のばら、どういうこと・・・?」


のばらは服を着直すと、暫く黙り込む。目線を色々な方向に動かしながら。話すことを躊躇っているようだ。

だが、覚悟を決めてようやく口を開く。


「ごめんなさい、ゆりか。私、ずっと黙ってた。ごめんなさい、ゆりか。私、ずっと嘘をついていた。」


「のばら、謝らないで。何を黙っていたの?教えて?何もなかったって嘘なんてつかないで。もう嘘だらけの関係は嫌。」

「そうね・・・。私、全部・・・話す。」


のばらはそう言うと、ゆりかと手を繋いだ。

離さないで、と何度ものばらは言うのでその度にゆりかは彼女の手を強く握った。


「私、実は触れても大丈夫な人が他にいるの。実は綺麗と思っている人が他にいるの。実は抱き合っても大丈夫な人がいるの。それが姉さん、いばら姉さん。」

「実の・・・お姉さんに?」

「姉さんと私、本当ばかりの世界・・・だった。でも、全部嘘だった。私、姉さんに騙された。」


のばらの手が震える。苦しそうに無理矢理言葉を紡ぐ。


彼女が言うにはこうだ。


全てが汚く思って何も触らなかったのばらだが、一人だけ例外があった。

それが、いばら。

いばらは、あの母親に育てられながら何も影響は受けていなかった。そんな自分をしっかりと持った人だった。

だから、いばらはずっと昔から素手でのばらを触ってくれる。

のばらもそれが嬉しかった。


いばらは誰よりも聡明で美しい。

いばらは綺麗。

いばらだけが触れる。

汚い世界で、いばらだけが全て。のばらの世界は、いばらだけが色鮮やか。


いばらは、優しい。

のばらに触れてくれる。キスしてくれる。キスしてくれる!この自分の唇に。もし自分が汚かったとしたら、いばらだけが救い。

実の姉となんておかしい。

でも、のばらはそれでよかった。

いばらに触れたい。触れて欲しい。

いばらだけが全て。


いばらに少しでも気に入られるように勉強だって頑張った。スポーツでも一番を取れるように頑張った。

みんなに好かれるように嘘も上手くなった。

誰もが憧れるような人になった。

そうすればきっと、いばらは喜んでくれるから。

もちろん彼女は喜んでくれた。

いばらだけが全て。


ある日、いばらは大切にしている香水をのばらにつけてくれた。

同じね、と言ってつけてくれた。

綺麗ないばらと同じになれた。

嬉しかった。


そして、いばらはそのままのばらを押し倒すと色々教えてくれた。


これ、気持ちいいことなの。私も気持ちいいの。一つになれるでしょ?すごく気持ちいい。


そう言われて、何度ものばらはいばらに抱かれた。

実の姉となんておかしい。

でものばらはそれでよかった。

いばらと同じになれた。


ただ不思議なことに、のばらは一つも気持ちは良くなかった。

気持ちいいのかもしれない。でも、足りない。これって本当に気持ちいいことなの?綺麗なことなの?

とはいえ、いばらには嫌われたくない。

笑って彼女を求め続けた。


それから、のばらはいばらと何度も何度も繋がりあった。

何も分からない。

でも、いばらはきっとのばらのことが好きだからしてくれているのだ。

それだけは分かる。

分かったつもりだった。


それが続いたある日。

二人が部屋で熱く激しく抱き合っているところを母親に見つかった。

母親は叫びながら彼女たちを引き離した。沢山のものを彼女たちに投げつけた。

発狂したかのように叫び続けた。


のばらは怖くて怖くていばらに抱きついた。

しかし、いばらをみてみるとどうだろうか。笑っている。勝ち誇ったように笑っている。

そして、母親に向かって怒鳴ったのだ。


「どうだ!汚いだろう!!どうだ!私たちは汚いことをしているだろう!!それを産んだのはお前だ!!!汚い二人をつくり出したのは、何者でもない、お前だ!!気持ち悪いのはお前だ!馬鹿みたい!笑っちゃう!!」


のばらはいばらの復讐の道具だった。


そうか、いばらの気持ちいいは嘘なのか。それで私は気持ち良くなかったのか。

優しいキスは嘘のキス。優しいセックスは嘘のセックス。


「姉さんと私、嘘だらけの世界。」


「のばら・・・。」

ゆりかは、かける言葉もない。今までそのようなことは沢山あった気がする。でもこれが一番、辛かった。


「でも、不思議。私はいばらの棘が刺さったまま。ずっと姉さんの幻影に囚われてる。姉さんの嘘の日々に囚われてる。私、姉さんには逆らえない。それを知ってて姉さんは私で遊ぶ。」

「・・・・・・。」


「結局は気持ちいいなんて何一つ得られなかったのに。それは全部嘘だったからね。私が嘘をつきすぎて、分からなくなったんじゃない。本当は私が嘘をつかれすぎて分からなくなった。でもあの時、ゆりかには言えなかった。軽蔑されると思ったから。姉さんのせいとも思いたくなかったし。この期に及んで馬鹿みたい。」

「のばら、私は・・・。」


「でも、あの時言ったこれは本当。結局、何が気持ちいいの?何が気持ち悪いの?何が綺麗なの?何が汚いの?答えはどっち?少しでも本当を知りたくて、姉さんの本当に気持ちいいものを知りたくて、私、一人で探し続けた。結果として、あのストリップショーね。」


のばらは、ゆりかの手を離すとじっと彼女の目を見た。

その目は、クリスマスやお正月にゆりかを見つめてくれたのばらの目ではない。

あの時に逆戻り。


「何回探しても分からない。ねぇ、気持ちいいって本当は全部嘘なんじゃないの?探しても探しても気持ちいいなんてない気がする、全部気持ち悪い。」


いばら。

彼女さえ現れなかったら、二人は幸せだった。ずっと微笑みあっていた。

でもそれでは、結局は嘘の上にできた甘い時間。

のばらは、きっとこの幸せな時間を壊したくなくて、ゆりかに軽蔑されたくなくて何も言わなかったのだろう。だから本心を言わなかったのだろう。


「キスの続きができない。気持ちいいこと、したくない。だって気持ち良くないから、汚いから、したくない。」


それが、のばらの本心。

ここでのばらの話は終わるのだろう。ゆりかからまた離れてしまう。自分を恥じてまた消えていく。

前もそうだったから。

また繰り返すだけ。


そう思いながら、ゆりかが暗い顔をしていると、のばらは再び彼女の手を取った。

震えてなんてない。

しっかり、強く。


「でも、汚くて気持ち悪いで終わらせたくない。私、もう一度探す。ゆりかと探す。お願い、一緒に本当を探して。私、もう一人で悩みたくない。ゆりかは嘘をつかないで、私もつかない。一緒に気持ちいいこと探して欲しい。二人で見つけたい。貴女は私に貸しを作るべき。借りは必ず返すから。」

「のばら・・・!」


「その前に、私はいばらのところに行ってくる。いばらに言ってくる。気持ち悪いのはお前だ、馬鹿みたい、笑っちゃうって散々言ってやる。私、誰にも負けない。それが学園での私。嘘も本当にしてやる。」

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