世界が私を嫌い過ぎる

くにすらのに

第1話

「キミの顔が好き」

「声が可愛い」

「くんかくんかすーはーすーはー」

「ペロペロさせて」

「おっぱい揉ませて」


 後半は告白じゃなくてただの犯罪者。歪んではいるけど好意ではあるし、お互いに好き同士なら表現をマイルドにして行動に移してもおかしくない。

 私だってそういうことに興味はある。ただ、知らない人に向けられると単純に気持ち悪いだけだ。


 私はとにかく男性から好かれる。理由は主に顔と声。周りと比較して優れていると自覚はしている。

 だからこそ触ったり嗅いだりしたい男性がいるのも理解はしていた。


 人間は五感を使って恋をする。実に汚らわしい。

 もっとこう神秘的な運命の出会いを私は信じたい。


 みんなの五感を刺激する私なら、第六感で運命の相手を見つけられるかもしれない。

 閃いたその日から、世界が私を嫌い過ぎることに気が付いた。


 第六感に誰も反応しない。顔が好きだと言った先輩も、声が可愛いと言った元クラスメイトも、街中で偶然発見したあの変態達も私の直感は反応しなかった。


 彼らは私に五感を刺激されているだけで、別に私を好きなわけじゃない。




 だから私は気付いた。

 

 あの子だ。


 迷子だろか。泣きながらお母さんと叫んでいる。

 見るからに不遇なのに誰も見向きもしない。私は反対だ。

 常に性的な目を向けられている私と違って、あの少年は誰の五感も刺激していない。刺激していても、行動に移すほどの衝撃を与えられていない。


 そんな未熟な存在に私は心を惹かれた。

 

「ボク、大丈夫? お姉さんと一緒にお母さん探す?」


 まだ性の自覚がない少年に無意味だと頭では理解しつつも、もしかしたら自分に興味を持ってくれるかもしれない。そんな期待が自然と胸を強調させるような恰好をさせた。


 泣き過ぎて疲れているのか少年は無言で頷く。

 そっと手を差し出すと何も言っていないのに少年は握り返してくれた。


「涙で顔が汚れちゃってるね。お姉ちゃんが舐めてあげる」


「ふぇ?」


 少年は女の子みたいな甲高い声を上げた。

 その肌は大福のように柔らかく、涙の跡はほんの少し背徳感の塩味がした。


「犬のおまわりさんって知ってるかな? お姉ちゃん、マネしてみるね」


 もっともらしい理由を付けて少年の髪を嗅いだ。

 体育の後の教室みたいな汗臭さはない。きっとお母さんが丁寧に洗っているのだろう。ミルクのような甘い香りがした。


「目が大きくて綺麗だね。お母さんも目が大きいのかな?」


 少年は困ったように首をひねった。

 他人と比べて目が大きいかどうかなんてわかる年齢じゃない。

 それを理解した上で、私は意地悪な質問をした。


 そんな風に困った表情にそそられる。

 同時に、どう答えていいか迷っている声にならない声がいじらしい。


 私の直感は当たっていた。

 この少年こそ、私の五感を全て刺激する運命の相手だ。


 今日を逃すともう二度と会えない。

 第六感がそう告げている。


 私は少年の手を取り走った。

 

 数日後、世界は私を嫌いになった。

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