とあるTRPGプレイヤーの卓その3

国見 紀行

お願いだから気が付かないで

 何とか全員が推しのアイドルカードを入手し終わったのだが、予想の半分ほども時間がかからなかった。

 俺としてはせめて一時間くらいは粘ってほしかったんだが、コツを掴んだのかサクサクとポイントを集めて、集めて、集めて……

 そう、一気にカードを開けるほうがいいよね、被ったら抽選から外していいって言ったけど、同じクエストはクールタイム入れるべきだったかなぁ。

 まあ、いちいち違うクエスト挟んで説明したりまた交渉したり言いくるめされたりするよりはサクサクだけど、なんとなく納得がいかない。他も一応作ってきたのに。

「まー、ダイス運だけのクエストだし、こんなもんだろう」

「よし、じゃあ全員が目的のカードを入手して、リアルカードへの交換コードをもらうために交換所へ行くところへ、女性キャラが君たちのところにやってくる」

 俺はあらかじめ用意しておいたNPC(非プレイヤーキャラ)の原稿を読む。

『すみません、あなたたちのどなたかでNo49は持っていませんか?』

「と、君たちの前に美しい女性が登場する。身なりは魔法使いに近いが、どちらかと言うと貴族の雰囲気を思わせる豪奢な服装だ。恐らくサービス開始後に発表される課金アバターなのだろうが、プレリリース体験会で特別な見た目キャラクタースキンを持っているということは招待客なのだろう。ゲームの内容をよく知らないうちにポイントが手に入らず、困っているようだ」

「へぇ、誰か持ってたっけ。その番号 ……俺は無いけど」

「私は引いていませんわ」

「僕、持ってますね」

「じゃあ、何かと交換してあげなさいよセイイチ」

「どうする? 交換してあげる?」

 俺が質問すると、何故か長考に入るセイイチ黒田。

「そうですね…… その女性は本当にそのカードを欲しいと思って交換を迫ってますか?」

「そうだな、ゲームは楽しんでいるが全然ポイントが集まらなくて焦っている印象を受ける。……(ちょっとリードするか)誰か一番幸運が高い人判定して」

「私ですわ。えい…… 成功です!」

「よし、ならアレックス佐藤さんは、先ほどもこの女性が他のパーティに交換を申し出ていたシーンを見ていたことにしてもいい。ちなみに断られている」

「その人、他のパーティにも同じように交換を迫っていましたわ!」

 そうそう。交換が怪しいわけでは無い、とこれでさらに自然な演出になったな。

「なら、いいでしょう。これ、普通に進呈はできますか?」

「ゲームの特性上、『パーティ内』でならアイテムの譲渡ができる。パーティに入れてあげればいい。それ以外だと売買契約になるな。ただ、プレリリースだからまだお金が手に入らないので……」

「んー、どうしよう。皆さんはどう思います」

 なんでいちいち確認をとるんだよ、早くパーティに入れてやってよ。

「意義なし。どうせこの後交換コードもらって終わりだろ? おっけーおっけー」

「右に同じ。てか、今回短すぎ。あんた本当にちゃんとシナリオ作ってきたの?」

 うっさいこれから目にもの見せてやる。

「私も賛成です。困っている人は助けてあげないと」

 さすがアレックス佐藤さん。そうこなくっちゃ。

「ちなみに、彼女はプレイヤーキャラですか? それともゲームの中のコンピュータが操作してるキャラですか?」

 ……くそ、勘がいいやつめ。

「見た目ではわからない。雰囲気に不自然な点は見当たらないし、好きな方で接すればいいよ」

 そこでこっち見ながらニヤリと笑うな。

「わかりました。パーティに加えてカードを差し上げましょう」

「わかった。サンディという女性キャラが加入する。譲渡も完了して一行は交換所へ行く。滞りなく発行してもらえてあとはログアウトするだけとなった一行はあることに気がつく」

「来た!」

「なんと、ログアウトのボタンにノイズが入り、押せなくなっていることに気がつく」

「SANチェックだ! ワクワク」

「ゲームが違う! お前だけ設定するか?」

 飯田はなんでも狂気に陥りたがる。まあ、分かるけど。

「これは先程のサンディさんが原因ですねぇ」

 ……お前の発言で俺のSAN値がピンチだよ。

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とあるTRPGプレイヤーの卓その3 国見 紀行 @nori_kunimi

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