専族メイドが来たら、友達100人出来るかな?

沼澤里玖

第1話 


メイドとの同棲生活 0日目



 遠くの山々の輪郭がはっきりと見えるほど澄んだ青空、ぼこぼこと湧き上がる入道雲、セミのやかましい鳴き声、夏の訪れを感じながらクーラーの効いた部屋でダラダラと過ごす。これも夏を満喫する一種の方法だろう。


 こんな日には海水浴に行ってみたり、キャンプをしたり、近所の大型モールまでショッピングに行ったりするのだろう。


 それに対し俺は――――春クールに撮りためたアニメの消化、今月に発売されたマンガとライトノベルを読む。これが俺の生活のテンプレ。なぜこんな生活を送っているのかと問われれば


『自分でもよく分からない』


と答える。友達が一人もいないのかと言われればそう言う訳でもない。休日に遊びに行く友達はいる事にはいる。残りはクラスではそれなりに話す仲ではあるが、休日や放課後に遊びに誘うほどではない、という関係の知人ばかりである。

 

 自分の行動や言動にあらがあるとも思えないし、親睦を深めたいとも思えないことも相まって、こうして一人で過ごす時間は日を追うごとに増えていった。

 別に今のところ困るような事も無いし、高校で作った友達なんてほとんどは卒業後に連絡も取らず、同窓会や成人式の時だけ会うことになるだろう。いや、確実にそうなる。

 

 だから、こんな生活を憂う必要もないのだ。そう自分に言い聞かせながら、今日は何をして過ごそうかと考えていると、部屋に鳴り響くインターホン。基本的にこの家のインターホンが押されるのは祖父が訪ねてくる時か、郵便もしくは宅配便が届く時しかありえない。はたして今回はどちらだろうか。重い腰を上げ扉を開けるとそこに立っていたのは、俺の祖父でも制服を身にまとった配達員でもなくて。


 そこに立っていたのは色白の肌に、セミロングのホワイトカラー、しかしながらあどけなさを感じさせる丸顔から、同じ日本人の血が流れていると窺える。鼻は高過ぎず、吸い込まれるような大きな黒目、息を吞むような美しさだなぁなんて月並みな感想が浮かんでくる。 


(家に美人が来てくれて嬉しくない男なんていないとは思うが……。俺を含め誰がどう考えても、この二人が知り合いだなんて思わないだろうな)


「えっと……どちら様でしょうか?マルチの勧誘なら間に合ってますし、以前集金に来た時に受信料も払いましたが」

「早とちりですよ。まだ私は一言も話していません」

「じゃあ何の用でこちらへ」

「本日付で西条真様の専属メイドに就任いたしました。凪原雪姫です。こちら住み込みでの業務となっていますので、本日よりお世話になります」 

「は?」




 

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