恋も仕事も大成功したタワマントレーダーは「勘」がいい!

冨平新

第1話 転職大成功

カチッ。

 クリックをして、利益を確定させた。

 「今月は今のところ、36万の利益か・・・」


 金曜日の午後2時過ぎ。

 トレーダーの田原和正は、

ロシアがウクライナ侵攻を始めたことによる

世界情勢不安要因を看過出来なかったので、

ポジションを来週に持ち越さないよう、手仕舞いをした。


 和正は、もともとトレーダーだったわけではない。

 MBA(経営学修士号)も持っていないし、

経済学部卒業でもないし、証券会社に勤務した経験もない。

 

 和正は、元公務員である。


 2014年、第2次安倍政権が発足して

『アベノミクス』が展開されることになった。

 日銀の黒田総裁が、FRBの『イエレン砲』に次いで

『黒田バズーカ』を政策として打ち出した。

 金融緩和の加速から物価上昇が予想され、

期待による買いが入るのではないか、と思われた。


 その経済政策の波に乗って、試しにネット証券の口座を持ち、

デイトレード、というものをかじってみることにした。


 当時公務員だった和正は、

昼休みにスマホでトレードをしていた。 

 始めはレバレッジ2倍でトレードをしていたが、

 1か月の給料以上の金額を2週間で儲けることもあり、

なぜか『負けなし』が続いた。


 大学の文学部在学中も、

特にやりたい仕事が思い浮かばなかった和正は、

両親を安心させるため、

また、彼女が欲しくて、結婚したかったのと、

親孝行と安心安全安定を選択し、

公務員試験を受けたら、合格したのだった。


 仕事内容は、基本的には「奉仕」であり、

同僚や上司にも恵まれ、給与も安定していたので

職場しては、何の文句もなかった。


 サービス残業も、嫌ではないし、

上司に気に入られるよう振舞い、

我を出さず、人畜無害を装い、処世術師の仮面を被って、

真面目に勤めていれば何とかなった。

しかし、ずっとやりたい仕事とは言えなかった。


 彼女を作って、結婚し、子供はしばらく作らず、

海外旅行や贅沢な食事、お洒落なバーに2人で通う…。

和正のやりたいことは、そのようなことであり、

仕事とはいえ、公務員というのは、

和正の性には合わない仕事だった。


 和正は思い切って公務員を辞めた。

両親は和正を自由にしてくれていたので、

辞める時も、

「お前のことは、信じているからね」

と、全面的に信じてくれて、

退職に反対することはなかった。


 徐々に貯蓄が膨れ上がり出した。

 『アベノミクス』のお陰で

和正は利益を作り出すことに成功し、

6年間で8500万円もの利益を出した。


 2021年、和正は新築のタワーマンションを購入した。

 両親が喜び、遊びに来た。

 トレーダーをしていることも伝えた。

 「お前のことは、信じているからね」

 母親は和正に、笑顔でそのように伝えた。

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