追放勇者と転生令嬢 〜テンプレ男とテンプレ少女withゾンビの征くゲーム世界攻略プレイ記録〜

追放された男

 男は空を見上げた。


 どこまでも続く青。雲一つない澄み切ったその情景は、自身の晴れない気分とあまりにも対照的で男の心はますます曇った。

 ため息を吐きつつポケットの中に手を入れれば、指先に触れるのはペラペラの財布。中身は見なくても分かる。パーティ登録欄を抹消されたギルドカードの他には、数枚の紙幣と硬貨しか入っていない。

「はぁ……」


 真の勇者になろう。封印されし魔王とその手下を倒そう。俺達の手で世界を救おう。

 まるで子供のようにそう夢を語る幼馴染に連れられてパーティを組み、旅に出てから数年。ある日突然にその日々は終わった。

 それはたった一言。


「なぁ、シズ。おまえさ、やっぱ勇者向いてねえわ。もう俺らのパーティ抜けてくれない?」


 彼らにとっては大仕事といえる討伐クエストの後、ギルドに報告に向かう途中のことだった。

 他のパーティメンバーは、この決定を事前に知らされていたのだろう。リーダーの男の宣言に対し、誰も何の反論もしなかった。

 唯一、シズと呼ばれた男だけが唐突な言葉にぽかんとした表情を見せたが、彼自身も心の片隅では、いよいよその時が来たな、と妙に冷めた気持ちで納得していた。


 『勇者』————。

 それは『魔王』と称される悪魔の親玉及びその手下を倒し、世界を平和に導くことを目的に冒険する者達の総称である。彼らはそれぞれの適性職業ジョブに応じた技能スキルを駆使し、敵を倒すことが求められている存在……なのだが、勇者パーティに身を置いているだけで、シズにはこれといった特技が何一つなかった。


「そうは言ってもさ、あのタイミングはないって……ほんと、はぁ……」

 餞別代わりに手渡された金はわずかしかなく、これからの生活に対してはあまりにも心許ない。本来なら報奨金でそれなりに良い宿に泊まって、なかなかに良い食事でもしていたはずなのに。


「そりゃ確かに、俺はみんなの横で逃げ回るだけだったけどさ……」

 確かに戦闘に貢献していたかと問われたら、そもそも報酬をもらえるような働きはしていない、と答えるしかない。パーティ追放時に金を持たせてくれただけでも感謝すべきなのかもしれない。

「……って、分かってはいるけどさぁ……甘えかもだけど、こんな仕打ち……はぁ。俺は友達じゃなかったんですかねぇ」


 愚痴を吐きながら歩く。気分に引きずられているのもあるが、ここ数日で疲労も溜まっていて足が重い。パーティ追放後は所持金節約のために野宿をしていたが、そろそろきちんとした布団で眠りたいところである。

 ぼんやりと数日前にちらと見た地図を思い出す。この先に小さな村があるはずだ。どうかギルド運営の格安宿がありますように。


「ん?」

 ふと、視界の端にうごめく何かが見えた。可能な限り足音を殺して近付く。道の端、茂る背の高い草の陰にソレはいた。


 ゾンビだ。


「おっと……」

 ふともらした声に反応したのか、ゾンビは濁った目でシズを見つめる。こちらを認識しているはずだが、呻くばかりでなかなか襲ってこない。よく見ると、両手足が切断されているようだ。どうやら他のパーティが仕留め損なったらしい。


 これはラッキー、とばかりにシズは腰に差した短剣をゾンビの額に突き刺した。動かなくなったのを確認してから引き抜く。


「どうも、すみませんね」

 謝っているのか、それとも感謝しているのかは分からないが、ひとまずそう言って手を合わせてからシズはゾンビの着ている服のポケットを探る。

 ゾンビに触れることに対し、気持ち悪いとはもうとっくに思わなくなっている。数日前まで所属していたパーティにおいて、役立たずの彼の仕事はこの戦利品確認という名のアイテム回収だったからだ。

「ポケットは空っぽ……こりゃハズレかなぁ」


 服に防御の護符が付けられていることから、おそらくはこのゾンビも、もともとは勇者として冒険に出ていた者の成れの果てだろう。ただ所持金に加えて、めぼしいアイテムどころかギルドカードすらも持っていない。


「誰かに先を越された感じだなぁ、これ。まぁ、手足をもいだ奴でしょうけど。ここまでするならちゃんと最後まで責任持って討伐すべきって気がしません? このゾンビだって好きでゾンビになったわけではないでしょうに、半端に放置したら可哀想とか思わないんですかね、ほんと」


 そこまで言ってから、何故かゾンビに同情し始めてしまっていることに気付いてシズは口を閉じた。


 駄目だ、疲れている。


「いやでもこのゾンビだって元は人間なわけだし、ゾンビの立場に立って物事を考えてもおかしくは……あー、でもそうしたらなんか罪悪感あるし、やっぱり考えないようにしよ」

 などと呟きながら、念のため周囲に落ちているアイテムがないかも確認しておく。ゾンビに肌ツヤという言葉が適しているかは分からないが、皮膚の状態からまだ死した後、蘇生をしてから間がないように見える。きっとこの近くで死んだのだろう。


「あ」

 ゾンビをどかすと、身体の下に小さな指輪を見つけた。鑑定に関する知識も技能スキルも持っていないので良いものかどうかは分からないが、とりあえず指に嵌めておいた。どこかで鑑定を依頼しよう。


 その後もしばらく辺りを調べたが、その他は特に何も見つけられなかった。

 シズはゾンビにもう一度手を合わせてから元の道へと戻ると、村を目指してまた歩き始めた。


   ◎


「ねぇ。お兄さんさ、勇者やってる人?」


 食事を取ろうと入った寂れたダイナーでいきなり話しかけられ、シズは口にベーコンとチーズのパイを詰め込んだまま首を少し傾げると、ややあって頷いた。


 にこやかな笑みを浮かべた女が目の前で親しげに笑う。動きやすいとは言いがたいワンピース姿だが、裾に防御力上昇の加護を付与する紋様が刺繍されている。おそらくは村の人間ではなく、シズと同じく旅の途中でここに滞在している冒険者だろう。


「一緒に座っていい?」

 そう言いながら、女はシズの返事を待たずに机の向かいに座った。

「マスター、お酒お願い! 二つね!」

 酒場の喧騒の中でもその声はよく響き、すぐにジョッキが運ばれてきた。女は溢れんばかりになみなみと注がれた発泡酒の一つをシズに手渡す。


「お近付きの印にどうぞ。これ私のおごりね」

「はぁ」


 流されるままにシズはジョッキを受け取り、促されるままに口に運んだ。美味しい。

「あの、奢っていただけるのはありがたいですが、あなた誰です?」


 女は自分のジョッキを両手で抱えるように持ち、一口だけ飲むと机にそっと置いた。どうやら、頼んでみたものの酒は飲み慣れていないらしい。ふぅ、と小さく息を吐いてから改めてシズに笑いかける。


「私はエリン。白魔術師ソーサラーやってます。お兄さんのお名前は?」

「シズと言います。えっと……剣騎士フェンサー、です」

 実際には短剣を持ち歩いているだけの一般人程度の戦闘力しかなく名乗るのも恥ずかしいが、エリンに倣ってそう言っておく。


「えっすごいね〜! てことは、お兄さんも勇者やってる人なんだよね?」

「えぇと、まあ一応は」

「やっぱりそうだよね! 村人っぽい感じじゃないな〜って思って声をかけたの」

「その、俺に何か御用ですか?」

「決まってるでしょ? もちろんスカウトするためだよ」


 イエス、と即答したくなる気持ちをシズは抑えた。

 願ったり叶ったりではあるのだが、ひとまずは動揺を隠し平静を装う。まずは条件を聞き、それから考えねばならない。


 エリンは黙ったままのシズに照れたように笑いかけると、たいして減っていない酒のジョッキに口を付けた。少し飲んではジョッキを置き、また手にする。


「お兄さん、見たところ今は一人みたいだけど、他のパーティメンバーは?」

「あー……っと、俺だけしかいなくて。色々あって前のパーティから抜けたんですよ。価値観というか、方向性の違いみたいなそういう感じのやつで……」


 あくまでも嘘はついていない。厳密には自分の意志でパーティを抜けたのではく一方的に追放されたのだが、そこらへんはぼかしておく。彼にもプライドはある。


「一人旅が好きなの? パーティを組む気はあんまりないのかな?」

「そういうわけじゃないですよ。むしろこの村に寄ったのは、所属させてくれるパーティがないかを探すつもりだったからなんです」

 話が長くなると冷めてしまいそうなので、適当にパイをかき込みつつシズは答える。


 この村に着いたのは日暮れ過ぎ。役所と併設されたギルドがとっくに閉まっていたので、明朝から行動する予定だったのだ。


「えっ本当に?」

 シズの言葉にエリンは身を乗り出し、興奮した様子でシズの手を取った。顔を近付け、輝く瞳を上目遣いにちらつかせる。


「だったら、うちのパーティに入ってくれない?」


 いきなり手を握られるとは思わず、しどろもどろになりながらシズは視線を逸らした。もともと距離感の近い人間がそんなに得意ではないのに、異性ともなるとなおさらだ。


「そ、そんな簡単に誘っていいんです? 他のメンバーに聞いてからとかでなく……」

 ほとんど水のごとく飲み干した酒では変わらなかった顔色が、おそらく真っ赤になっているに違いない。


「大丈夫! 私の他にもう一人いるんだけど、人と話すのが苦手らしくて、スカウトは完全に任せてくれてるの。食べ終えたら宿に案内するから、そこで紹介するね」

「こちらとしてはありがたいですが、そんなに長くは在籍していられないかもですけど、それも問題ないですかね?」


 言葉を選びつつ、それとなく尋ねておく。

 正直なところ、シズは自分の才能でパーティに貢献出来るとは微塵も思っていない。今は誤魔化しているが、おそらくクエストを受注すれば嫌でもすぐに能力の低さがバレるだろう。


 彼の計画はシンプル。適当なパーティに所属し、戦闘面において低リスクの短期クエストをこなし、パーティを追放されたらまた次を探す。とりあえずは地元に帰る交通費と、実家に戻るにるあたってそこそこ面目の立つ程度の所持金を稼ぐまではこれでいこう、と決めていた。


「それも大丈夫! うちは長期のクエストは受けないし、あんまり危険じゃない単発のクエストをいくつかやってみて、合わなければ抜けてもいいよ。やっぱりそのあたりは組んでみないとお互いに分からないしね」

「それなら、まぁ」


 シズは頷いた。彼がエリンの熱意に負けて折れたような形にはなっているが、実際にはシズにとっておいしい契約内容なので、ここで逃す手はない。

「それじゃあ、よろしくお願いします」

 内心の動揺を隠しつつ、シズは握られていたままの手をやんわりと解いて、パイの最後の一切れを口に運んだ。


   ◎


 エリンに連れられて訪れた先は、村はずれにあるギルド運営の小さな宿だった。穏やかな表現をすれば、絶妙な風合いと時の流れを感じる趣のある建物。平たく言ったらボロ屋だ。入口に『ようこそ』と書かれた看板が下げられているが、本当に営業しているのか心配になる。

 少なくとも自分からはここを選ばないだろうな、とシズが思う傍らで、エリンは迷いなくその扉を開けた。


「このホテルが一番安くって。中は外よりマシでしょ?」

「えぇ、はい。多少は……」


 エリンの言うとおり、玄関ホールの内装は外観から想像していたものほど酷くはない。殺風景で装飾品の類いはほとんど置かれていないが、壁には補修の継ぎ目、絨毯には繕いの跡がある。決して綺麗とは言えないまでも、汚くないように見せようという管理者の努力が伺えてシズは少しだけ安心した。


「ところで、宿の主人は?」

 受付を含め、玄関口には誰の姿もない。ギルド運営の宿は前払いのはずなのだが。

 シズが辺りを確認していると、エリンはさも当然のごとくホール奥の階段に向かった。


「ここ、もともと民家だったのを改装して、委託で老夫婦が管理してるの。二人とも裏手にある離れに住んでるみたいだから呼べば来るけど、何も用がなければ夜間は宿泊客だけなんだよね」

「それ、普通に危なくないですか? 利用者同士のトラブルとか、盗難とか……」

「そうでもないよ。客室は二階に大部屋が一つあるだけだから、一組しか泊まることがないし。荷物盗難も自己責任ってことで、貸出中は鍵の管理も客任せ〜」

「宿の備品が盗られたりとかは……」

と、言いながらシズは気付いた。盗もうにも価値のありそうな物がない。


「でも、いいんでしょうかね? 俺、まだあなたのパーティ未加入ですけど」


 ギルドの規約により、勇者一行はパーティ単位で部屋を借りることが基本となっている。現時点でまだシズはエリンのパーティに登録していないので、本来は別部屋を借りなければならない。

 エリンもそれは分かっているようで、そっと人差し指を唇にあてて呟く。


「今日招いたのは内緒。明日の朝、部屋の清掃が入る前に宿を出てギルドに行こうよ。そこでパーティに入ってくれたらきっとバレないから」

「うーん……」

「そもそも宿泊はパーティごとに一部屋のルールだけど、別パーティの人を部屋に呼んじゃいけないってルールはないわけだし。そこでうっかり眠ることだってあるじゃない?」

「まぁ」


 気は引けるが、この宿には他に借りられる部屋はない。エリンのパーティに入るにはここで揉め事を起こしても得策ではないだろう。

 シズは思うところがありつつも、おとなしく彼女の提案に従うことにした。

「決まりね。行こ!」


 急勾配の軋む階段を上がり二階に着くと、話のとおり客室らしき部屋は一つしかない。厚い木製の扉をノックすると、鍵を開ける音がした。


「おかえり、エリン」

「ただいま、ローグン」


 出迎えたのは眼鏡を掛けた細身の男だった。人と話すのが苦手、とエリンが言っていたが、話のとおり控えめで気弱そうな印象だ。


「あ、そちらの方は……その、エリンがスカウトして来た人、かな?」

「どうも、シズといいます。エリンさんにパーティに誘われて伺ったんですが」

「あぁ来てくれて、ありがとう。僕は盗賊シーフのローグンです」


 ぎこちなく笑顔を浮かべるローグンにシズは会釈で返した。ローグンもそれを見て、慌てて頭を深々と下げる。どことなく鈍臭い様子は、あまり彼の職業ジョブに見合った感じがしない。


盗賊シーフなんですね、ローグンさん。エリンさんは白魔術師ソーサラーでしたっけ」

「そう。ふふ、うちのパーティ、バランスあんまり良くないでしょ」

「正直に言ってそうですね」


 パーティの構成はそれぞれの勇者の自由とはいえ、テンプレートな編成というのは存在する。大抵は攻撃に特化した戦士が中心となり、魔術師や補助職がそのサポートをするというのがセオリーだ。

 白魔術師ソーサラー盗賊シーフの組み合わせでは、どうしても戦力としては弱いと言わざるをえない。


「だからね」


 エリンは眼差しをシズへと向ける。

「そういうわけで私はあなたをスカウトしたの。一目見て、何かしらの戦士職だって分かったから」


 とんとん、と彼女は自身の右目に指をあてた。シズはその仕草に思わず自分の右手で顔を覆う。その指先には厚手の布——眼帯が触れる。

のしてるってことは、前線で戦うタイプの職業ジョブなのかなって。私の勘、大正解だね」

 自信ありげに見つめるエリンに、シズはそっと視線を逸らすしかなかった。


 これは違うのだ。

「その……非常に申し訳ないんですけど、これは戦闘時の負傷ではなく……」


 そこまで言ったとき、ぐにゃり、と世界が歪んだ気がした。


「——え」

 頭が痛い。手足に力が入らない。

「————な、んで」


 耳鳴りが聞こえる。エリンとローグンが何か言っている。聞こえるこれは悲鳴なのか。それとも、笑い声なのか。

 考えがまとまらぬまま、間もなくシズは意識を失った。


   ◎


 気付くとシズは屋外に放り出されていた。宿を出てすぐの庭、というような場所ではない。靄のかかったような頭で周りの様子を探ると、墓石が幾つか目に付いた。


 ここは、墓地だろうか。

 夜目なのではっきりとは分からないが、墓碑はかなり新しいように見える。そうなると、今いるこの場所はゾンビ対策として村外に造られたものである可能性が高いだろう。


 『葬式夢遊病者』——略してそむび、が転じて『ゾンビ』。

 葬式中に死者がまるで夢遊病のごとく徘徊を始め参列者を襲った、とテレビで報じられたのが十数年前。魔王の軍勢や上級悪魔の存在よりも身近な恐怖としてこの現象は世界各地に広がり、いつしかその化物は世間でこう呼ばれるようになった。

 ゾンビと化した者は脳を破壊するか全身を焼くかでしか対処できない為、近年では墓地を村の外に造設し、囲いで覆って生活圏から隔離しておくのが一般的となっている。


 つまり——こんな夜中にこんな所を通りかかって、シズを親切に助けてくれるような人間と出会えることは絶望的、ということだ。


「うぅ……」

 上体を起こそうとして、両手足が結束バンドで縛られていること気付いた。動かせないほどではないが、相変わらず感覚も鈍い。


「くそっ、あの時か」

 毒か、それとも呪いの類いか。ローグンと会ってから不審な様子はなかったように思う。何か盛られたのなら、エリンに手を握られた時の可能性が高いだろう。あの瞬間は完全に食べかけのパイを失念していた。

「とにかく、逃げないと」


 手足は縛られている。せめてこれだけでもなんとかしておかないと、ゾンビが現れれば抵抗もできず美味しい餌になってしまう。


 そんなのは嫌だ。


 せめて死ぬなら誰かに深い感動を与え、人生の思い出に残るような美しい展開の後に、最高の笑顔を浮かべて格好良く散りたい。

 だから早いところなんとかして、ここからとにかく離れなければ。


「ナイフ……は、ないよなさすがに」

 形だけの剣騎士フェンサーだが武器は持っている。しかし予想通り、縛られたままの手を腰元に伸ばして探ってみても、指先が触れるのはベルトだけだった。どうやらここに放置する前に回収されたらしい。

「そりゃそうですよね、剣騎士フェンサーって名乗ったもんなぁ、俺……」


 どうしたものか。ここで死なないためには、他に何ができる?

 助けを呼ぼうとしばらく考えたが、状況を打開する妙案は浮かばなかった。


「天にまします神よ……いるんならどうにか助けてください」

 もうやけくそだ。

 教会で育てられたが神の存在なんてほとんど信じていない。けれども今できることは、せいぜいが神頼みくらいしかなかった。

「もし助けてくださったなら、この身を神に捧げて仕えます。世界の為に尽くします。命を無駄にせず生きます。だから……だから、助けてください」


「——それ、言質取ったぞ」


 闇の中、墓石の奥から声が聞こえた。無理矢理に首を動かすと、月明かりに照らされた小さな影が動くのが目に映る。


 誰か、人間がいる。

 はっきりとはしないが、パーカーにズボン、キャップをかぶっているように見える。少年のような出立ちだが、体格と声からまだ少女の域を出ない女性のようだ。

 その人物は笑みを浮かべているらしい。見えなくてもそう分かるほど、妙に機嫌の良さげな声で弾むように言った。


「どうも。この世界を造……ったというと微妙なところだが、少なくとも神だ」

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