第5話 初デート
そうして待ちに待った日曜日がやってきた。私は悩みに悩んだあげく、清楚な女子大生を目指して服を選んでみた。さすがにいきなりセクシーなOLとか目指しても似合うはずがないので、ほんの少しだけ大人を目指したのだ。
白いシフォン生地のブラウスに、花柄の紺色のスカートを履いて、レースの靴下にヒール低めのパンプスを合わせている。トレンチコートも着て、どこからどう見ても清楚な大学生にしか見えないはず! 髪も緩く巻いて少しだけ化粧もした。あまり派手なのは好きそうじゃないからナチュラルメイクだ。
準備を済ませた私は待ち合わせの駅に2時間前に着く。電車が止まって遅刻したらと考えたらこんな時間に着いてしまった。まだ時間があるため、待ち合わせのロータリーに置いてあるベンチに座り待つことにする。でもお兄さんを待つのは全く苦じゃない。今日は何を話そうかとひたすら妄想していたらあっという間に時間が過ぎてしまう。
「おい、おい」
「う……ん……?」
「寝てるやつがあるかバカ。危機感がないにも程がある」
「えっ! お兄さん!?」
「全く……いつから居たんだよ」
「えっと……30分前から?」
「そうか30分で涎垂らす程寝れるのか、すごいな。……って涎は冗談だからゴシゴシ拭うな。それで本当はいつから居たんだ?」
「……2時間前からです」
「バカか。早すぎだろ。ほら、行くぞ」
呆れたお兄さんがスタスタと歩いていってしまうので、慌てて追いかける。
「お兄さん待って!!」
「はぁ。今日はお兄さん呼びは辞めろよ」
「じゃあなんて呼べば良いんですか?」
「佐藤で良いだろう」
「佐藤……さん?」
「あぁ。そうしておけ」
そう言って少し笑ってくれた。お兄さん……改め佐藤さんの貴重な笑顔をゲットして私はウキウキでデートをスタートするのだった。
「ねぇねぇ佐藤さん、今日の私の格好はどうですか? イメージは清楚な大学生です!」
「あぁ、確かに高校生よりは大学生っぽい格好だな。まぁ良いんじゃないか?」
「むぅ〜〜。可愛いって褒めて欲しいのに」
「褒めてって尻尾振ってるやつに優しく褒めるキャラじゃないんだよ俺は。そういうのは諦めろ」
佐藤さんはなかなか鬼畜だ。
そうして暫く歩くとショッピングモール内にある映画館に着く。私がチケット売り場に行こうとすると、お兄さんが待ってろと言って買いに行ってくれる。
「お前はここにいろ」
「でも私学生料金あるから……」
「気にするな」
そう言って、大人のチケットを2枚買ってきてくれた。やっぱり高校生と一緒にいるって思われたくないのかな……。
「あっ! ポップコーン買って良いですか? 映画館に来たら絶対頼むんです!」
「あぁ。俺も食べるから買ってくるよ。どの味が良いんだ?」
「出来ればキャラメルが良いです!」
「分かった。飲み物は?」
「飲み物は持ってきました!」
「分かった。そこのベンチで待ってろ」
そう言うと並んでくれる佐藤さん。購入を終えるとちょうど入場が始まったので、そのまま列に並び入っていく。
「うーんと、Fの20だから……ここだ!」
「おい、お前はこっち座れ」
そう言うと佐藤さんが20の席に座り、21の席に私が座らされた。よく見てみると、佐藤さんの隣には男子学生が座っており、私の隣には女の人が座っていた。もしかして隣が女の人だからこっちの席を譲ってくれたのかな……? そういう気配りを感じてますます好きになっていく。
「アニメの続きから始まるんですよね。私ちゃんと予習して来ました! 佐藤さんは大丈夫ですか?」
「俺は原作全部読んでるからな」
「原作派なんですね! あっ予告が始まりましたよ。楽しみですね!」
2人の座席の間にポップコーンを置く。手が当たってドキドキしたりしないかなって期待していたけど、映画に集中してしまいそれどころじゃなかった。
「うう、めっちゃ良かったです。感動して泣いちゃいましたよ」
「あぁ、ファイナルにふさわしい内容だったよな。あの戦闘シーンも痺れた」
「はい、もうBGMと映像がマッチし過ぎてて、カッコ良過ぎましたよ。サウンドトラック買っちゃいそうです」
「あれな、音が流れ始めた瞬間引き込まれる感じだったよな。あれはやばかった」
今はショッピングモールのカフェに入り、佐藤さんと映画の感想を話している。思った以上に映画が感動的で、予想以上に話が弾んでいる。何を話そうか色々悩んでたのに、そんな心配は必要なかったみたいだ。
「あのライバルが死んじゃうシーンは切なかったですよね。でも最後は結局生まれ変わったってことですかあれ?」
「さぁな。そうなんじゃないか。俺はそれより久々に全員が揃った瞬間が胸熱だったな」
「私もあそこで1番初めに泣きました!! もうその後も何度も泣けたんですけど」
頼んだカフェオレとケーキはもう既に食べ終えているのに、なかなか話が止まらない。ジェネレーションギャップとよく言うが、佐藤さんとの話では全く感じないのだ。むしろ同学年の男子より話しやすい。
「鼻何度も啜ってたもんな」
「恥ずかしい! 聞こえてたんですか!?」
「あぁ、めっちゃ聞こえてた」
そう言って思いっきり笑う佐藤さん。鼻を啜る音が聞こえてたのは恥ずかしいが、こんなに笑ってもらえたんなら良かったと思ってしまう。
「もうこんな時間か……。夕飯でも食べるか?」
話していたらいつの間にかもう18時になっていた。
「うーーん、ケーキ食べちゃってそこまでお腹減ってなくて」
「じゃあそろそろ帰るか」
失敗した。無理をしてでも夕飯を食べると言えばまだデートが続いたのに。私が少ししょんぼりしてしまうと、お兄さんが苦笑する。
「他に何か見たい店とかあるか?」
「!! じゃあ少し買い物しても良いですか?」
頷いてくれた佐藤さんを見て笑顔になる私。本当に分かりやすいなと自分でも思う。
そうしてウィンドウショッピングを暫く楽しんだ私は、じゃあ帰るかと言う佐藤さんの言葉に今度こそ素直に従い駅まで歩いていく。
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