白と黒が聖女の周りで踊る旅

フランチェスカ

序章

第1話 1人目(雷鳴)

 俺はヴァンパイアで悪魔だ。

 太古の昔、カインの民、と呼ばれるヴァンパイアの先祖が、魔界へといざなわれて魔界の民になった。

 ずっと夜である魔界は、ヴァンパイアに住みよかったから。

 そのご先祖様が悪魔に抱擁―――仲間を増やす儀式―――をして、悪魔でヴァンパイアってやつがここ、魔界で発生することになったんだ。

 それはいくつもの氏族に分かれていった。

 もちろん、元々悪魔だったヴァンパイアもいるけど………

 なので大変ややこしいのだが、仕方ない。

 俺を抱擁してくれた人は魔界にいざなわれた『癒しの氏族』の氏族長だ。

 俺は悪魔として生を受けたから、俺はヴァンパイアだけど悪魔ってことになる。


 俺の見た目は16歳ぐらいの外見で、黒髪のショート、170cmぐらいの身長。

 ヴァンパイア化する前から高位の悪魔だから、人間よりか―――それこそ最高位の悪魔でも―――能力はもちろん、姿の魅力も比べ物にもならないね。

 着ている物は、最高級品の礼装に、いろいろ仕掛けのあるコートを羽織ってる。

 で、そんな俺は屋敷から魔帝城―――魔界全土を支配する魔帝陛下がおわす居城―――に向けて歩いている。

 なぜかって?

 俺の「血親(俺を抱擁したヴァンパイア)」にして養母、通称「姉ちゃん」に魔帝城の奥の間の一室にこい、と念話で呼びつけられたからだ。

 ちなみに念話とテレパシーは別ものである、使う能力が違う。

 魔帝城のある場所はウチの屋敷のすぐ近くだ。

 それはまぁ俺の大公という身分あればこその待遇だけどな。

 ま、近いことはいいことだ、登城しやすいし………。

 魔帝城に住む住人が俺を呼びつけるのに遠慮がいらないとも言う。たいてい王族。

 普段はたいてい、陛下が主催する終わりのないパーティの会場への参内義務で、巨大な広間に通じる大門がある道を通るのだが、今日は大広間に用はないので、大門への道は通らない。

 魔帝城の大広間には入れない身分の連中が、手前の庭園でパーティを行っているのを横目に見つつ、脇道にスルーして裏門へ。

 裏口から入ると役所、目立たないところでは地下階に使用人(大量)の部屋がある。

 そこから2階に入ると、魔帝城に滞在する客の客室になり、部屋に割り振られたナンバーの桁が高いほど、高位の悪魔(例外あり)の部屋になる。

 その上階、3階は第3王子、水玉すいぎょく王子の住まいだ。

 今回はここにある奥の間に呼ばれたので、指定の部屋をノックする。

雷鳴らいなです」

 少し間があって「お入り」と、天上の美声が聞こえた。姉ちゃんだ。

 俺の養母ははであり、抱擁主であり、俺は姉ちゃんと呼んでいる。

 こんな声が他にあるものか。

「失礼します」

 一言断ってから水玉殿下の奥の間の扉を開く。

 無数の水晶を使った、税を凝らした装飾の扉だ。

 内部を見た感想は、眩しすぎてギョッとした、かな。

 床が、全面鏡。

 その上天井で輝く光球が闇を駆逐せんとばかりに、これでもかと光り輝いている。

 他に認識したのは王子が四人もいること。

 今代の―――今代陛下は五代目―――魔帝陛下の御子は合計八人。

 今、ここにいるのは、第一王子から第四王子までだ。

 姉ちゃんは第四王子のお嫁さん。妃殿下だね。

 姉ちゃんの外見は、ややメタリックな、膝まである漆黒の髪。

 この世のものとは思えないほど美しいかんばせ、メタリックな艶のある深紅の瞳は見るモノ全てをを魅了する。純白の肌は蠱惑的でながら清純、男なら―――否、女でも―――触れてみたいと思うだろう。

 そんな体に―――スリットは控えめだが―――チャイナドレスを身に着けている。模様は黒地に金糸の龍だ。ごちそうさま(第四王子も同柄なので)

 そんなことを思いつつ、王子たちに一礼する。

 目礼が返ってきたので、俺がここにいても構わない、ということだろう。

 まあ、妃殿下である姉ちゃんが呼んだのだから無下にできないんだろうけど。

「そいつが任務につくのか?」

 第二皇子の発言だ。

「実力は十分………年齢も時止めのまで修行してたから相応、てとこか」

「他にも色々修行をさせたから、多分想像以上だよルドヴィーク殿下」

 第二王子ルドヴィーク殿下に、説明する姉ちゃん。

 確かにいろいろあった………異世界に放り込まれたり、高速成長できる代わりに超絶キッツイ姉ちゃん特製疑似世界に入ったり。

 死んだらアライヴ―――HP1で黄泉帰る術―――でいったん中断、落ち着いたら続きをするか、最初からの疑似世界を選択。激鬼。

 でもそれはすべて俺が望んだことなのだ。

 姉ちゃんの役に立てることなら何でもする、と。

 献身的以上の健気さと力強さで、俺を育ててくれた、守ってくれた。そんな彼女にできうる限りの献身と愛情で返したい、叶うことなら守りたい。

 そう、思って。

 そんなことを考えていたら姉ちゃんが近寄ってきていた。

「雷鳴、招集に応じてくれてありがと。現状と任務を説明するね」

 俺の思考を読んだのだろう。わかっていると、微笑を浮かべる姉ちゃん。

「今回の敵になるのはね、私たちの宇宙・マザー宇宙にやってきた侵略者なの。普通はそんなのはマザー宇宙自身が叩き出すんだけど、今回の連中はうまく擬態して入り込んできた。入り込まれると宇宙の壁が機能しないの。知ってるだろうけど、私は宇宙中に索敵網を張ってる。けど滅多に無い事なんだけれど、私の索敵にも引っかからなかった。でも水玉殿下のおかげで発覚したのよね………」

 もしそのままにしてたら、そのまま惑星の乗っ取りとか色々しだすんだろうな、住民の乗っ取りとか惑星そのもののエネルギー(スターマインド。星の自我、意思)の悪用とか吸収とか。

「今回は、向こうが網を張って巣くって隠れてた異空間に、偶然にも水玉殿下がぶつかって戦闘に発展した。通った異空間通路で偶然ぶつかって、多勢に無勢で手ひどいダメージを負われてて、私にSOSしてきてくれたの」

 俺は水玉殿下のほうを振り向く。

 彼はとこには伏していたものの、こちらを振り向きやや苦し気に微笑んで見せ、片手をこちらに差し出す。

 姉ちゃんで慣れていなければ確実に見とれたろう。

 だが耐性のある俺は平静に歩み寄り、その手を握る。

 力ない、だがしなやかかつ、なめらか。水晶の如くひんやりとした感触を感じる。

 ちなみに力ないのは体調のせいだろうが、ひんやりしているのは元々だ。

 彼は流体金属ならぬ流体水晶なのである。

 普段は自身の特殊能力で彩色しているが、今は美しい水晶の彫像そのものだ。

 いかなる名工が創りあげたのか、という美しさである。

 王子だから男性なのだが、どこか女性的な美しさを持つ方だ。

「初めまして。水玉です。あなたが今回の事件で助けになってくださるとお聞きしました。紅龍の陣営にSOSするのは、非常に覚悟が要りましたが、貴方の姉上を見て、理屈抜きに頼りたいと、そう、思ったのですよ」

 それは姉ちゃんにとってはいつものことだ。

 それ―――助けを求めている人を引き付ける―――が姉ちゃんの自分では制御できない能力であり、頭痛の種なのである。

ちなみに俺にもその傾向がある。姉ちゃんが抱擁したからだ。

 そして俺たちのヴァンパイア種『癒しの氏族』の戒律のひとつは、『助けを求める者を見捨ててはいけない』だ。

 姉ちゃん本人が定めた戒律だし、戒律には実行力がある。

 破ることは破滅への一歩なのである。

 水玉殿下の言葉は続く。

 「侵略者は個体ではなく群でして、アリのような感じでした。出会い頭に総攻撃を受けまして………探りながら逃げるのには苦労しました。御覧の通りの有様なのは連中が永続的―――連中が撃滅されるまでの間連中のものになる―――に私の生命力の一部を奪っていったからです。………奪還、お願いいたします、ね」

 言ってから、ああ、と呟いて

「貴方の養母様ねえちゃんには詳細情報の提供をさせていただきましたよ」

 そう言って余人では、永久に到達できないだろう威力でほほ笑む。

 邪眼の一種、「魅了眼」である。

 魔帝一族の持つ特殊な邪眼のひとつの一撃を食らった俺は思わず赤くなった。

 それで済んだのは大いに褒めていただきたい。

 その辺で姉ちゃんがこほん、と咳払いする。

「そういうのは任務先でいい子を捕まえなさい」

「姉ちゃん!俺はそういうの積極的にはしないでしょ!」

「迫られたら弱いけどね。このフェミニストが、まったく」

 笑いながらそう言い、元の話に戻すわよと言う。

「ある星がひとつほぼ侵略者の手中に収められてるの。キッツイ制限空間でね。惑星「地球テラ」の環境とほぼ同じ。惑星「ガイア」っていうんだけど、ものすごーく融通きかないの。」

 姉ちゃんは両手を広げて見せる

「でも、通用する能力も少ないけどある。まずはあんたのヴァンパイアの異能。ただしこれにも制約があって、1人分の能力しか惑星に受け入れてくれない。これがなければ全員ヴァンパイアをメンバーにしたでしょうね、はぁ」

 頭が痛そうな姉ちゃん。しかし―――

「そういうことなら他メンバーはどういう能力者に?」

「うん、1人はルドヴィーク殿下に悪魔を一人借りてる」

 俺は会釈しつつルドヴィーク殿下のほうを見る。

 筋骨隆々の皇帝、もしくは乱世の英雄と表現したい。

 しかし俺の会釈にうなずきつつ、爽やかに微笑む表情が、彼を好青年へ見せる。

 背中までの茶色い髪、日焼けしたような肌。多分本当に焼けているんだろう。

 この方の生家は、魔界と違って太陽があるそうだし。

 濃紺に金の刺繡をあしらった、布、一部皮を甲冑の上下に見立てて仕立ててある。こういうのを着ているから王様や騎士に見える。

 俺の前に大きく無骨な掌が差し出される。

 当然応じる俺。意外と………と言ったら悪いか、手触りは良かった。

「よう、遠目に見たことはあるが初めましてだな。今回はよろしくな」

 にかり、と笑うルドヴィーク殿下。

「恐縮です。それでどんな人材を?」

「うん、正直言って戦闘しか脳はない。あ、男な。種族は戦魔。うちの派閥でもメキメキ能力上昇中だ。戦闘能力だけな!こいつの能力は「戦いへの渇望」自分の魂の最深部まで到達してて、星のバリアを一部破っちまうらしい。超人みたくなるってさ」

 姉ちゃんが後を引き取って

「要は完全に戦闘要員ね。大丈夫、ほかのメンバーをフォローにつけるから」

 思わずほっとしてしまった。一番苦手なタイプだったからだ。

「えっと、そのフォローしてくれるって人は?」

「女性ね、すごい美人よ?独身だし」

「それは嬉しいけど、能力は?!」

 確かにそれは嬉しいけど。テンション上がるけど。能力が聞きたい。

「………高位の超能力者よ。自分の強化もできるから、戦闘にもついていける。で、大事なことだけど、彼女は、天帝陛下に無理言って借りてきた天使だからね」

 ビックリした。

「マジで天使?」

「マジマジ。あんたの相方を予定してる子も天使だけど?」

「え」

 悪い予感がする

「18ぐらいの外見で、能力はすべてがガイアでの最高………ていうのが能力で、その星の枠内に収まるけれどすべてが最高値。ピュアな、天界では部署未確定のぼうやだから、能力の使い方―――戦闘とか―――指導してあげてね!」

「ちょ、天使なのは構わないけど、ピュアボーイって!すげえ足手まといなんじゃ?」

「成長株よ、あきらめなさい」

「それとね、”聖女”がいるから。守り通してね」

「?」

「彼女こそ”キー”………これ以上喋ると、奴らに聞きつけられたら困るから。言霊は響くから………これだけしか喋れないけど」

 早口でそれだけ言うとゴメンねと呟かれた。黙るしかないじゃん。

「繰り返しになるけど条件は惑星「地球テラ」とほぼ同じ。目指してもらうのは惑星「ガイア」最初に降り立ってもらう位置とかは、説明できない、けど、ここ鏡の間を水盆にして、全員または個人を見ていられるようにするから。最悪の事態の時だけだけど私が手を出すかも知れないし、大丈夫よ」

 姉ちゃんが大丈夫だっていうなら大丈夫。

 でも、最悪の事態になんて俺がさせないよ。と心でそっと呟く。

「水盆の準備してる間に他の王子にも挨拶に行っておきなさい」

 そういえばそうだ。

「あ、はい」

 なら順序は第一王子、飛鳥あすか様からだろう。

 男性のはずなのに確信の持てなくなる雰囲気。

 この方は中肉中背で、やんわりと微笑を浮かべている。

 この方は淫魔系の王子なので当然ながらすごい美形だ。

 姉ちゃんで慣れていなければうっとりしていたかも。

「はじめまして雷鳴くん」

「はい、はじめまして飛鳥あすか様………あー」

「どうしたのかな?まぁ、いや、わかるけどね?」

「俺の姿に変身、できるんですよね」

「うん、全部コピーされてるから、何も言わなくても予測がつくよ。最新アップデートはまだだけど………」

 要は今日はまだ俺の姿になってないってことだ。

この人なら魔界どころか天界人界の要人にだってなれるんじゃ《コピーできる》ないだろうか。

 困ったような笑みを浮かべて

「紅龍のところに行っておいで」

「はい………(なんか丸裸にされてるみたいでハズイ)」

 見た人すべてをコピーできる存在って反則だよなぁ………。

 姉ちゃんの能力にも似たようなのあるけどさ。

 水盆化の作業を横目に見つつ―――床に古びた金の石のフレームが出来上がりつつある―――第四王子、紅龍兄ちゃんの方へ目を向ける。

 行きたくない。

 いや、第四王子は、姉ちゃんの旦那さん―――よって兄ちゃん―――なので一番馴染みがあるのだが、だからこそ今メッチャ不機嫌なのがわかるのだ。

 だからと言って行かないと余計に怒られる。不敬に当たるから。

 身にまとうのは中華の王族の装束、黒に金糸の龍。

 艶のある髪を短く切りそろえ、真っ赤な瞳、とどめは鳳凰の翼。

 兄ちゃんは名の通り炎の化身―――喜怒哀楽が激しいのだ。

 覚悟を決めて「あの…」

 睨まれた「ギロッ」と

「ごほん。この後任地に向かうと思われます、できればご挨拶を」

 きりっとして見せる。多分これが正解。

「まあいいだろう………死力を尽くせ!」

「はい!」

 思わず魔界騎士団の敬礼!

「うむ」

 兄ちゃんの機嫌がちょっと緩和したっぽい。ほっ。


 ―――そして水盆が完成した。

 鏡の間の床を、黄金の石組みのフレームで囲い込み、中央には羅針盤の針が小さく揺れている。

 そして星々のエナジーが注ぎ込まれた水が満々とたたえられている。

 姉ちゃんがこっちに来て俺の身支度をしてくれる。

 俺はこのままでは16歳ぐらいに見えるので、向こうで活動の限界もあるだろう、と見た目を20歳代に引き上げてくれた。

 解けたりしないの?と聞いたら「水玉様が奪われたエネルギーを伝って、相手に色々とごまかしを仕掛けたから、大丈夫。何度も使えない綱渡りだけどね!」

 次に俺のコートは、元から姉ちゃんが特殊だっていう品で、たとえガイアの中でも使えるマジックアイテム。

 形状変化もお手の物で、今回はロングケープにしておいた。

 黒で、裾は紅いファーにしてみた。兄ちゃんのイメージだ。

 上衣はハイネックの黒のニットに。そしてジーンズもシンプルに、黒系。

 そして姉ちゃんが静かに黒いトランクを差し出してくる。

「向こうで必要そうなもの詰め合わせセット、よ」

「雷鳴にはいろいろ特別扱いしたから、反作用とかあるかもしれない。でも、雷鳴なら大丈夫」

 そう言って俺の額にキスしてから、きりっとした顔になって、俺を水盆の中心まで、浮遊させて連れていく。

 そうしてから姉ちゃんは水盆を統べる位置へ降り立つ。

「わが騎士、雷鳴=フォン=ブリッツシュトルム大公!」

 即座に返事する

「はっ!」

「命じる。我が手足となりて彼の地へ向かえ!」

「御心のままに!」

 そしてしばし、俺の意識はブラックアウトする。

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