第33話 地下トウキヨ

 翌日、地下トウキヨを訪れたアナベルと初対面した。


 アナベルはぴんと伸びた立ち耳が印象的な女型のアナウサギの獣人で、そこはかとなく妖美な色香を漂わせている。妖術紅茶を介した会話で、「ちょちょいと直せる」と豪語した通り、アナベルはクンカー家の天井に穿たれた穴を瞬く間に塞いでしまった。


 アナベルは自在に砂を操れるようだ。〈妖術師の巣穴ワーレン〉から持参した地元の土を空中に浮かせると、天井の穴をぴたりと塞ぎ、硬化させた。遠目には継ぎ目など分からないぐらいに見事な仕上がりだった。


「こんな感じでどうでしょう。もし臭いが漏れたりしたらご連絡ください」


「ありがとうございます。これで当分引越ししないで済みます」


「素材は砂ですけど、見た目だけなら木の質感にすることもできます。今後、お子様が育ってきて手狭になったら、〈改装リフォーム〉も承っておりますので、何なりと」


 スカンクの獣人クンカーは感謝しきりだった。


「わざわざ出張して頂いて申し訳ないです。せめて旅費だけでもお支払いします」


 アナベルが謝礼を受け取らないので、クンカーは旅費を支払おうとした。


「時の回廊をワープしてきたので、旅費はかかっておりません。お気持ちだけ頂いておきます」


 アナベルほどの妖術の使い手になると、〈空間移動ワープ〉さえ出来るのだろうか。


「妖術師訓練校で教えているのですが、ワープの使い手など見たことも聞いたこともありません。アナベルさんは凄い妖術師なのですね」


「あたしひとりではワープできません。時の回廊をワープできる〈法螺貝の死霊ホーラ・ガイスト〉に便乗するんです。ただ、時の回廊を開けられるのはマヌルネコだけ。マヌはとにかく無口で、時の回廊を開いてくれと頼んでも知らんぷりする。ワープできるかどうかはマヌの気分次第です」


「便利なのか、不便なのか分からない移動手段ですね」


 ポポロが苦笑いする。


「使いたい時に使えないので、使えたら幸運ラッキーぐらいの気持ちですね。何も期待しないぐらいがちょうどいい」


 天井に穴を開けた張本人であるスーニャンは、クンカーの子供たちと追いかけっこに夢中になり、巣穴の外へ飛び出していってしまった。


「落ち着きがなくてすみません。次からクンカーさんの巣穴に向かって飛ばないよう、注意しておきます」


 保護者同然のポポロが頭を下げる。


「元気があっていいじゃないですか。うちの子たち、臭いと言われて毛嫌いされることが多いので、いっしょに遊んでくれる友達ができてありがたいです」


 スーニャンはすっかりクンカー一家公認のお友達になったらしい。


「クンカーさん、天井が綺麗に直って良かったですね。それでは失礼します」


 ポポロはお辞儀をすると、クンカー家を後にした。

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