フタゴパズル

束白心吏

双子迷宮I

「──やっぱりここにいた」


 聞きなれた声が屋上へ向かう階段の踊り場辺りから聞こえた。

 見れば、いつものように優しく笑う彼が、私のことを見上げている。

 やはりバレてしまった……色々な感情が混ざった感想を抱いている間に。彼は私の横の階段に並んで座った。


「……知道しどう

「授業、飽きるもんねぇ……今日くらいサボっても罰は当たらないさ」


 全てを言い切る前に、まるで予想してたかのように、知道は軽快な口調でそんなことを言う。

 私は言葉を失った。だって、知道は優等生で、教師からも信頼されているのに、あっけらかんと裏切ろうとしているのだ。


「信頼は上っ面で従順にしていればまたすぐ貰えるよ」


 まるで私の思考を読んだかのように知道は言う。


「どうして、いつも私の居場所がわかるの?」

「どうしてだと思う?」


 以前からの素朴な疑問を、知道は愚問と言うかのように、間を置かずにそう返してきた。

 その表情は……笑顔。からかっているような、悪戯を成功させた子供のようにも思える、無邪気さの残る笑顔に毒気を抜かれ、私は思わず寄せていた眉間の皺をほぐす。


「わかったら、なんでも言うこと聞いてあげるよ」


 知道は人差し指を立て、自分の口に当ててそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る