あと、三日

この三日を大切に

 立ってるのも大変なので、二人私のベッドの上に腰をかけることにした。

 というか、現在進行形で並んで腰をかけている。ちょっと距離はある。


 上半身をリリィに向けたら、リリィもまた私の方を向いてくれた。

 その容姿に見惚れそうになりかけて、慌てて首を左右に振る。

 話題が特に何かあるわけでもないので、私は適当に彼女に言葉を投げた。


「さてさて……今からどうしましょうか……」

「なんでもいいよ」


「じゃあ、お腹すいたのでお昼にしよう。リリィもなんか食べる?」

「食べる。というか、名前で呼んでくれるんだ」


「え、まぁ。歳同じでしょ? あれ、違う?」

「違くない。歳同じ」


「……ふむふむ」


 やはり同年代らしい。

 それなのに、どうしてもこの人は歳上っぽく見える。

 なんだろう。雰囲気? 顔もある。

 いやー、羨ましいね。美人。

 私もそんな顔に生まれたかった。


 と愚痴を溢しつつ、リリィに聞いてみる。


「そういえば。この三日、リリィは何をするの?」

「……別に、特別何かするってわけじゃない。ただミリアと楽しく過ごしたい。私のこと好きになって欲しい。それだけ」


「それだけって、ちっともそれだけじゃないんですけど……」


 例によって顔が熱くなる。

 言われただけでそうなるのは、もう本当に生理現象っぽい。

 それ以外の理由があるとするならば、今までそういう恋愛感情の籠もった『好き』という言葉を受け取ったことがないから……かな。

 心のどこかで、その言葉に嬉しいという感情を抱いているという可能性も?


 いや、無いか。


 どっちにしろ、分かることがある。

 あと三日で、リリィを好きになるのは私には出来ない。

 だって三日だもん。本当に短い。

 お友達くらいにはなれると思うけど……。

 とか、今考えても仕方ないことかも。


「ま、いっか」

「何が?」


 つい口に漏らし、そして食いつかれる。

 最近独り言多いし、本当に気付かずこういうの漏らしちゃうな。

 と、こういうのはやはり直さないといけないと思った。


「あー、いや。こっちの思考の中のお話でござります」

「そうでござりますか」


 私の変な喋り口調を真似てくる。

 なんか、意外にもこう。無邪気なところもあるようで。


「真似んでよい」

「ん」


 しかし返事は冷たい。なんだこの差は。


「ま、キッチンにごーしましょうか」


 考えても結論が出ない気がしてので、有耶無耶にした。


「分かった」


 私がベッドから立ち上がると、彼女も遅れて立ち上がった。

 なんとなしに見た壁掛け時計が指しているのは、ちょうどお昼時の頃。


「うん。いい時間帯」


 「よし」と頷き「着いてきてー」とリリィを招く。

 向こうも軽く首を縦に振って、私との距離スレスレで背中に近付いてきた。

 近いな、って思いながらも、どうせ赤い顔も見られないからって部屋を出た。


 少し歩く。

 その道中には、父の部屋。

 少しだけ焦点をそこに当てながら、その部屋の横を通過した。

 その時ふと思った。


 私の家でこうして人と一緒に歩いて、会話して、そして今からお昼ご飯を食べるって。これ、かなり久しぶりのことだ、って。

 私、人との関わりとか結構あるけど、わざわざ家に来たがる人なんていない。

 友達を招待しようとしても、いつも断られている。

 父さんを恐れているからっていう理由がほとんどなのだけれど。

 なんで恐れられているのかってのは……まぁ、今考えることじゃないか。


 まぁ、ともかく、私の家に人がいるっていうのがかなり久しぶりなのだ。

 しかも同年代の女の子である。

 だからキッチンに向かう私の足取りも、ほんのちょっぴり軽い感じ。

 それを考えるとリリィが家に来てくれて嬉しいかもしれない。


 かも、というか嬉しいのかな。

 かな、というか嬉しいんだろうな。

 けれど、それもあと三日も経てば元通り。

 いつもの日常が戻ってくる。いつもの日常も楽しいけれど。

 それでも、確かに悲しいものもそこにはあって。

 久しぶりの家での会話が、また遠いものになってしまうとか。

 そういうものが。


「三日って、本当に早い……」

「早いよね……」


「あーごめん、独り言」

「ややこしい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る