第70話「お祝い」

『団吉ぃ~、数学が難しすぎて課題が終わらねぇよ~』


 夏休み最後の土曜日、僕はバイトも休みをとって勉強をすることにしていた。バイトは昨日までよく入っていたので問題なかった。課外授業は行われているが、今年も課題が出た上、夏休み明けにはテストがある。僕は課題は終わったが勉強しておこうと思ったのだ。

 そんな時、火野から力のないRINEが送られてきた。あと数日で夏休みは終わるのに課題が終わっていないのか。


『あーっ、私もー! 数学が難しいよー、日車くん助けて~』

『私は終わったけど、今年も夏休み明けにテストがあるんだよな……テストばかりだ……』


 高梨さんと絵菜も続けてRINEを送ってきた。たしかにテストばかりだよなと思いながら、僕は返事を送る。


『そうか、課題が終わってないのはヤバいな……うちで教えようか。みんな来てくれる?』

『おお、サンキュー! ダッシュで行くぜー』

『日車くんありがとー! 私も行くー!』

『わ、私も行っていいのかな……』

『うん、絵菜も一緒に勉強しておかない? 教えるよ』

『ありがと、じゃあ私も行く』


 あれ? そういえば去年もこんなことがあったなと思い出した。まぁみんなで勉強できるいい機会だ。それに、火野と高梨さんには渡したいものもあったのでちょうどよかった。

 しばらく部屋で勉強をしていると、インターホンが鳴った。出ると絵菜が来ていた。


「こ、こんにちは」

「いらっしゃい、上がって上がって」


 絵菜をリビングに案内すると、母さんがニコニコしながら迎えた。


「あらあら、絵菜ちゃんいらっしゃい、この前はまた団吉と日向がお世話になりました」

「あ、いえ、うちも母がまたランチに行くってはしゃいでて……す、すみません」

「いいのいいの、私も楽しみにしてるからねー」


 しばらく三人で話していると、またインターホンが鳴った。出ると火野と高梨さんが来ていた。


「おーっす、すまんな勉強の邪魔しちまって」

「やっほー、また日車くんにお世話になりますー」

「いらっしゃい、いえいえ、二人とも頑張ってるね、上がって」


 火野と高梨さんをリビングに案内すると、また母さんがニコニコして迎えた。


「いらっしゃい、夏休みの課外授業もあってるのよね、勉強大変ねー」

「こんにちは! そうなんですよ、なんで課題まで出てるのかわかんねぇんですけど」

「こんにちは! 今日はまたプリン買ってきました、後で食べませんか?」

「あらあら、これあの美味しいやつねー、じゃあ後でみんなでいただきましょうか」

「あれ? 団吉、日向ちゃんはいねぇのか?」

「ああ、部活で朝から元気よく学校に行ったよ、今頃頑張ってるんじゃないかな」

「ああ、なるほど、俺も去年の今頃は部活で忙しかったのになぁ、なんで今年はこんなに勉強しないといけねぇんだ……」

「ほんとだよー、私も部活の方が楽しかったよー、大人になるのって大変だねぇ」

「やっぱり私たちは試されているのかもしれない……でもここで頑張らないと大人にはなれない……」

「そうそう、絵菜の言う通り、ここで頑張らないとね。みんな教えるからまた分かれてやろうか」


 僕の言葉に、みんなが「はーい」と答えた。

 その後、リビングのテーブルで火野と高梨さんが、ダイニングのテーブルで僕と絵菜が勉強をしていた。火野と高梨さんは課題を、僕と絵菜は夏休み明けのテストに向けて復習をしていた。


「団吉、ここなんでこうなるんだ?」

「ああ、三角関数の問題か、これはこうして、こうなって……」

「ああ、なるほどな! 団吉やっぱすげぇな、天才なんじゃねぇか」

「日車くーん、私も分からないよー」

「ああ、高梨さんも同じ問題で躓いているのか、これはこうして、こうなって……」

「ああ、なるほど! ほんと日車くんすごいよねー、一年の時からずっとだもん、そろそろ神の上をいってるんじゃない?」

「え!? い、いや、僕は普通の人だよ……絵菜は出来た?」

「う、うん、団吉に教えてもらってなんとか……でも微分と積分はちょっと苦手かも」

「そっか、まぁ少しずつ理解していけばいいんじゃないかな。あ、そろそろちょっと休憩しようか、火野と高梨さんに渡したいものがあってね……」


 僕はそう言ってあるものを取りに行って、二人に差し出した。


「な、なんだこれ?」

「二人とも誕生日が夏休みの期間中だったよね、ちょっと遅くなったけど、誕生日おめでとう。これ僕と絵菜からプレゼント。実はこの前一緒にいいものがないか見に行ってて」

「え!? そ、そうなのか、さ、サンキュー」

「ええ!? そ、そうなの? あ、ありがとー」

「いえいえ、中身はお菓子だけど、溶けそうなものはないからたぶん大丈夫だよ」

「そ、そうか、なんか悪いな、こうして勉強も教えてもらってるのに、こんなものまでもらっちまって」

「そだよー、気にしなくてよかったのにー、でもありがとー、二人が考えてくれたのが嬉しいよー」

「いやいや、僕も絵菜も誕生日にもらってるからね、ちゃんと二人の誕生日はお祝いしないとと思って。ま、まぁ、遅くなってしまったけど……」

「うん、火野も優子も、おめでと……って、なんか恥ずかしいな」

「あ、ああ、サンキュー、なんかこっちまで恥ずかしくなるな」

「あ、ありがとー、ほんとだね、まさか祝ってもらえるとは思わなくて」


 恥ずかしそうにしていたみんなを見て僕が笑うと、みんなも笑った。まぁたしかに恥ずかしいものはあるが、お祝いはちゃんとしないといけないなと思った。


「あらあら、二人とも誕生日だったのね、おめでとう。みんなどんどん大きくなっていくわねー……って言うとおばさんっぽいかしら、いやねー」


 母さんがそう言ってジュースとおやつを持って来てくれた。みんなでプリンをいただく。うん、甘くて美味しい。

 その後僕たちはまた勉強をしていた。火野と高梨さんはなんとか課題が終わったようだ。よかったよかった。

 二人の誕生日も祝うことができてよかった。これからも勉強が続くが、なんとか一緒に頑張っていきたいと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る