第49話「それから」

 絵菜が泣き止むまで背中をさすってあげた後、そういえばお昼を食べてないと言うと、絵菜もまだ食べてないと言ったので、僕たちは教室に戻って二人でお昼を食べた。


(絵菜も落ち着いたようでよかったな……しかし足がちょっと痛いかも)


「おーっす、すまんな今日は弁当忘れちゃって……って、団吉、なんか頬が赤くないか?」

「やっほー……って、あれ? 絵菜も目が赤くない?」


 二人でお昼を食べ終わった頃に、火野と高梨さんが教室に戻ってきた。二人には話してもいいかなと思って絵菜の方を見ると、絵菜が小さく頷いたので、先程のことを二人に話した。上級生に絡まれていたこと、そして、告白をしたこと……。


「ええっ!? だ、大丈夫なのか二人とも」

「ああ、ちょっと足が痛いけど、まあ大丈夫だ」

「私も大丈夫、大したことない」

「そ、そっか……でも、おめでとう……なんだよな?」

「あ、ああ、そうなる……な。なんか花火大会の時に二人におめでとうって言ったけど、言われると恥ずかしいな」

「そっかぁー、日車くん、絵菜、よかったねぇ!」

「あ、ああ……ありがと」


 高梨さんが絵菜の手を取ってぴょんぴょんと喜んでいる。絵菜は顔を真っ赤にして俯いた。


「あ、あとさ、このことは僕たちだけの秘密にしてほしいんだ。その、あまり事を大きくしたくないというか……あ、こ、告白したことは別にいいけど……」

「そっか、分かった、俺らだけの秘密だな」

「うん、分かったよー、私たちは話さないよ。大丈夫」

「う、うん、ありがとう」

「それにしても、団吉、お前カッコいいよ。よく沢井を守ったな」

「うんうん、日車くんカッコいい! 絵菜もそんな日車くんに惚れたよねぇ」

「う、うん、カッコよかった……」

「あ、そ、そうかな……」


 う、うん、本当にカッコいいかどうかは分からないが、三人に褒められるのは悪い気分じゃなかった。


「よし、あの時みたいにグータッチしようぜ、これからもみんなよろしくってことで」


 火野がそう言うので、みんなでグータッチした。そしてみんなで笑った。

 そうだ、絵菜のこの笑顔ももっと見たいと思っていた。これからもたくさん見れるといいな。



 * * *



「団吉、一緒に帰らないか……?」


 その日の終礼後、ツンツンと背中を突かれたので振り向くと、絵菜が話しかけてきた。


「あ、うん、いいよ、一緒に帰ろう」


 そういえば大島さんと二人になったあの日も、絵菜と一緒に帰ったなと思い出していた。あの時は何を話したらいいのか分からなくて、ほとんど話すことなく帰ってきたっけ。


「あのさ、手、つないでいいか……?」


 校門を出たところで、絵菜が恥ずかしそうに言ってきた。僕はうんと言って絵菜の手をそっと握った。


「そういえばさ、絵菜は、その……いつから僕のこと気になってたの?」

「えっ!? い、いや、その……ひ、秘密」

「えっ、教えてよ」

「……いじわる。そういうのは女子に聞いちゃダメ」


 もしかして、夏休みに二人でデートした時には……と思ったが、これ以上聞くと絵菜が怒りそうだったので、聞くのをやめた。


「でも、そんな私が聞いてもいいのかな、団吉は、その……いつからなんだ?」

「えっ、うーん、よく胸がチクリとしてたんだけど、自分の気持ちがよく分からなくて、本当の気持ちに気づくのが遅くなったよ。でも、絵菜のことは可愛いなってずっと思ってた」

「そ、そっか……なんだか恥ずかしい」

「そう、恥ずかしそうにしている絵菜も可愛いなって思ってた」

「……もう、恥ずかしいからやめて。い、いや、やめなくてもいい……かな」


 僕が思わず笑うと、絵菜もクスクスと笑った。


「今、日向になんて言おうかなって、ふと思っちゃった」

「ああ、私も真菜になんて言おうかな」

「あの二人も応援してくれていたし、黙ったままというのも悪いかなぁって。帰ったらなんとか日向にも話してみるよ」

「そうだな、私も帰ったら真菜に話してみる」


 学校から家までの距離は僕の家の方が近かったが、今日は絵菜の家まで送っていくことにした。つないだ手の温もりがとても嬉しかった。


「なんか……僕が女の子と仲良くなって、しかも告白までするなんて、高校入学した時は考えられなかったなぁ」

「うん、私も、誰かと仲良くなって、しかも告白されるなんて思ってなかった」

「実は、高梨さんからちょっとだけ、中学の時の絵菜のこと聞いたんだ。あまり人と接してなかったって。高梨さんもずっと心配してた」

「そっか、うん、中学の時は荒れてたな……優子はずっと話しかけてくれたけど、冷たい態度とってしまったかもしれない」

「高梨さんも優しいね、全然気にしてないみたいだったよ。むしろ絵菜にうざいと思われてないかなぁって」

「ううん、冷たい態度とってしまったかもしれないけど、うざいと思ったことはないよ」

「そっか、僕もずっとみんなに笑われてきたけど、火野だけは笑うことなく僕に話しかけてくれたなぁ」

「火野も優しいな。私たち、いい友達がいたんだなって思う」

「うん、そうだね」


 色々話をしていると、あっという間に絵菜の家の前まで来た。絵菜がちょっと残念そうに手を離す。


「じゃあ、今日はありがと、また……」

「うん、こちらこそありがとう、またね」


 絵菜が小さく手を振りながら家に入って行った。その姿を見送って、僕はまたボーっとしていた。やっぱり危ない人だったかもしれない。

 今日も色々あったけど、ついに絵菜に自分の気持ちを伝えることができた。それだけでもよかったなと思った。


(これからもずっと、絵菜のそばにいたいな)

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