第43話「優しい」

 とりあえずパンケーキやケーキやパフェをみんなで食べながら、僕は東城さんのことを全部話した。

 レアチーズケーキはおいしかった。おいしかったのだが、女子4人の視線が突き刺さっていた。どうにかしてこの状況を打開する案がないか色々考えたのだが、もう全部話すしかないと思った。


「……そっかぁー、日車くんがどこかで女の子ナンパでもしたのかと思ったよー。でも、私たちに黙っていたのはよくないなぁ」

「い、いや、団吉は悪くねぇんだ、俺が沢井や優子にはまだ話さない方がいいって言ったから……」

「その様子だと学校でも二人で話してたんだよね? 私たちには内緒で」

「「す、すみませんでした……」」


 僕と火野が同じセリフを言って小さくなる。


「まぁ、日車くんが軽い気持ちで女の子と知り合うような人じゃないのは分かってるよ。絵菜はどう思う?」

「えっ、ま、まぁ、団吉は優しいから……それにいいことしたんだから、悪くないと思う」


 でも……と言って、絵菜は話を続ける。


「私たちにも教えてほしかった……かも」

「「ご、ごめんなさい……」」

「もう! お兄ちゃんううう浮気でもしたのかと思っちゃったじゃん!」

「ほんとに、私も日向ちゃんと同じこと思いました。でもお兄様がそんなことするわけないって思いました」

「「も、申し訳ございませんでした……」」


 僕と火野がますます小さくなる。そんな僕たちを見て女子4人はクスクスと笑い始めた。


「……まあ、ちゃんと話してくれたし、そんなに小さくならなくていいよー。それにしても東城さんアイドルなの? すごいねぇ」

「あ、うん、メロディスターズっていうグループに所属しているらしい。可愛らしい見た目だなとは思ったんだけど」

「そっかー、さっきも落ち着いてて言葉が丁寧だったし、とても年下には見えないねぇ」

「うん、僕もてっきり高校生かと思った。あ、西中だから日向と真菜ちゃんと同じ中学だよ」

「ええっ!? じゃあ、先輩なんだ……三年生の東城さんか……」

「……そういえば、三年生でアイドル活動している人がいるって、どこかで聞いたことがあるかも……」

「えっ、真菜ちゃん本当?」

「はい、噂で聞いただけなので、誰かは分からなかったのですが、もしかしたら東城さんのことなのかも」

「同じ学校なのかぁ……あ、真菜ちゃん、今度一緒に会いに行ってみない?」

「あ、それいいかも! うん、行こう行こう!」


 ……なんだか嫌な予感がしたけど、あまり言うと日向も真菜ちゃんも怒るだろうから、何も言わないでおこうと決めた。



 * * *



 その日の夜、僕は部屋でベッドに横になりながらボーっとしていた。


(まさか東城さんと会うなんて……それに、やっぱり女子たちに黙っていたのはよくなかったな……)


 ピロローン。


 そんなことを考えていると、スマホが鳴った。RINEの送り主は絵菜だった。


『今日はお疲れさま、今、大丈夫?』

『うん、大丈夫だよ』

『その、ちょっと通話してもいいか?』


 通話と聞いて、僕はまたドキッとした。今日会ったけど、何か用事でもあるのだろうか?


『うん、いいよ』


 僕がRINEを送ると、1分くらい経って通話がかかってきた。


「も、もしもし」

「もしもし……」


 電話の向こうから絵菜の声が聞こえる。前にも通話したが、やっぱり不思議な感じがした。


「あ、今日はお疲れさま、どうかした?」

「あ、いや、特に用事があったわけじゃないんだけど、その、は、話したくなって……」

「そ、そっか、うん、大丈夫だよ」

「ありがと……」


 絵菜が「その、あの……」と何か言いたそうにしている。僕は絵菜が言うまで待った。


「あの、東城……って子? 団吉は、その……す、好き、なのか……?」

「えっ!? い、いや、そういうつもりじゃないけど……うん、やっぱり黙っていたのはよくなかったよね、ごめん」

「そ、そっか、いや、私たちに変に思われたくなかったんだろ?」

「う、うん、でも、隠し事しているみたいで、どこか気持ち悪かった」

「そっか……でも、団吉はやっぱり優しいな」

「えっ、そ、そうかなぁ……」

「うん、優しいよ。でも、そんなところが、い、いいというか……」


 絵菜の言葉を聞いて、僕は顔が熱くなっていくのが分かった。そして同時に胸がドキドキした。


「そ、そっか、ありがとう……」

「うん……」

「でも、本当に下心があって東城さんと話したわけじゃないんだ。そこは信じてほしい」

「うん……分かった。団吉がちゃんと話してくれたから、私は嬉しかった」

「日向には、『ううう浮気なんてしちゃダメだからね!』って帰り道に散々言われたよ」

「そっか、真菜も『お兄様は変なことする人じゃない』って言ってた」


 僕が思わず笑うと、絵菜もクスクスと笑っていた。

 その時、僕は自分の気持ちについて思い出していた。あの胸がチクリとした痛みの正体。それは絵菜のことが好きということ。

 ここで言ってしまおうかと思ったが、こういうことはちゃんと会って直接言ったほうがいいなと思って、ぐっと我慢した。


「……団吉? どうかした?」

「あ、いや、なんでもない……そういえば、学校で席近くなってよかったね」

「ああ、よかった。団吉の後ろになって、その……嬉しい」

「僕も、話せる人が近くなって嬉しいよ」

「……大島が隣になったこともか?」

「えっ!? い、いや、それは違うというかたまたまというか、あ、そんなこと言ったら大島さんに失礼だな……」

「ふふっ、冗談だよ。やっぱり団吉は優しいな」


 また久しぶりに「冗談だよ」って聞いたなと思った。僕は優しいのかな……自覚はあまりないけど。


「あっ、ごめん、もう遅い時間だね」

「ああ、私こそごめん、急に電話しちゃって」

「ううん、大丈夫。じゃあ、また学校で……おやすみ」

「うん、おやすみ」


 通話を切った後も、僕は絵菜のことをしばらく考えていた。


(もしかして、僕が東城さんを好きになったと思ったのかな……それで気になった……とか?)


 絵菜が僕のことどう思っているのかは気になるけど、やっぱりそれよりも自分の気持ちを大事にして、どうにかして伝えたいなと思った。

 その時が来たら、必ず……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る