第18話「宣戦布告」
「――そうか、火野がこんなところにいるとは」
突然、知らない男が僕たち4人の前に現れて話しかけてきた。
「……なんて、俺は知っていたぞ、火野が3組にいることくらい」
「え? 誰だ?」
「誰だとかよく言えるな、中学最後の大会を忘れたのか?」
話しかけてきた男は、背が火野と同じくらい高く少し茶色の髪をしたイケメンだった。某サッカー漫画のライバル選手ばりに袖を捲っている。でも火野の方はよく覚えていないような顔をしていた。
「うーん、忘れてねぇけど、怪我したシーンばっかり思い出してしまうな」
そう言って火野はケラケラと笑う。
「そうか、サッカー部にいないと思ったら、怪我か。あの西中の10番が情けないな」
「ん?」
「まあいい。それよりお前、最近高梨さんと一緒にいるらしいな。あの沢井も一緒に。まったく、何がよくて高梨さんはこんな奴らと一緒にいるのか」
ケラケラと笑っていた火野がピクッと動いて、真面目な顔になった。
「ちょ、何よアンタ、関係な――」
男に言いかけた高梨さんの前に火野が立ち、手で制した。
「ひ、火野……くん?」
「何かよく分かんねぇけど、俺の大切な仲間を馬鹿にされるのはあんまりいい気分じゃないなぁ」
「ふふっ、こうしないか。次の試合で俺たち1組が勝ったら、お前たちは高梨さんから離れる……と」
嫌な笑顔で男は話す。僕がイラっとしてその男に近づくと、火野が今度は僕のことを手で制した。
「ひ、火野……」
「うーんそうだなぁ、じゃあこうしよう。俺たち3組が勝ったら、もうそっちは高梨に近づかない……と」
「ふふっ、いいだろう。でもそれはないから安心しろ」
「まぁ、そっちの望みも叶うことはないから安心してくれ」
男は嫌な笑顔のまま、1組のメンバーのところへ行ってしまった。
「何だあいつ……火野は知らないのか?」
「うーん、知らないなぁ。中学の時に会ってるのかもしれないけど」
「あいつ、第一中の
高梨さんの後ろでずっと黙っていた沢井さんがぽつりとつぶやいた。
「沢井さん、知ってるの?」
「いや、噂で聞いたことがあるだけ。なんか、いつも女と一緒にいるって」
「そっか、第一中か、たしか中学最後の大会で当たってるなぁ……って、それはどうでもいいや」
火野は頭をポリポリとかきながら、笑顔になった。
「球技大会くらいで大げさだよなぁ……って、おいおいみんな暗いなぁ、大丈夫、俺は負けないからさ。あ、気合い入れるためにこれやってくれねぇかな」
火野はそう言うと、グータッチしようと手を出してきた。みんなで次々に火野とグータッチを交わす。
笑顔で優しく、でもどこか力強く「負けない」と言う火野はめちゃくちゃカッコよく見えた。これだからイケメンは困る……。
そんなイケメンの火野を、顔を真っ赤にして見ている人が一人いることに、僕は気がつかなかった。
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