笑われても、君が好き。

りおん

第1章「一年生」

第1話「昼休み」

 昼休みは、自由だ。


 学食へ走る者、仲の良い友達同士で机をくっつけ合う者、疲れがたまっているのかいきなり机に突っ伏して睡眠を始める者、様々な光景がクラス内では見かけられる。


(さてと、昼飯だ)


 授業が終わるチャイムが鳴ると同時に、僕はお弁当を持って教室を飛び出す。いつもの行動である。教室の中で誰かと一緒に昼食を……なんてことは御免だ。一人のほうがよっぽど気が楽である。誰にも邪魔をされたくない。僕の昼休みは僕のものだ。


(中庭……はダメか。今日は違うところにするか……)


 よく行く中庭のベンチには、今日は既に女子数人が集まっていた。ダッシュで来たと思ったのに、僕より早い奴がいるなんて……。


 中庭を離れ、いろいろなところをうろついてみたが、どこも先客がいてなかなか一人になれない。近くに人がいても一人で食べればいいじゃないかと思われそうだが、ヒソヒソと僕の話をされるのも御免だ。誰にも邪魔をされたくない。僕の昼休みは僕のものだ。


(こっちはどうだ……? 誰もいないかな)


 歩き回っているうちに、体育館の裏に来た。壁を挟んで向こう側は道路なので若干うるさいが、ここには誰もいなかった。壁も人の目線よりは高いので、外を歩いている人に見られることもない。


(よし、ここにするか。ていうか体育館の裏はいいな。誰も来そうにないし今度からここに来ようかな)


 やっと一人になれたところで、僕は体育館を背にして座った。コンクリートの冷たさがお尻に伝わってくるが、今日は晴れていて暖かいのでそんなに気にならなかった。本当はイスが欲しいところだが、贅沢は言っていられない。


(よし、いただきま――)


「テメェ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」


 お弁当を食べようとした瞬間、どこからか声が聞こえてきた。ビックリした僕はお弁当を落としそうになったが、なんとか掴んで無事だった。


(な、何だ……?)


 とっさに辺りを見回す。誰もいない。気のせいだったかと思った次の瞬間、また声が聞こえてきた。


「聞いてんのか? 調子に乗るなっつってんだろ!」


 どうやら右側の方から聞こえてくる。僕は物音を立てないように声がする方向へ動く。体育館の角まで来て、そっと顔を出してみると――


(誰かいる……女子か? 何人かいるな……)


 こちらに背を向けて女子が三人立っていた。どの子も髪が茶髪だったり金髪だったり、見た目が派手である。


(うわ、なんかみんな派手だな……誰か分からないが上級生か?)


 うちの高校は上履きの色で学年が分かる。今は赤が一年、緑が二年、青が三年だ。立っている女子三人の足下を見ると上履きが青色――三年生のようだ。

 上履きを見ていると、三人の向こう側にもう一人女子がいるのが見えた。その子も髪の毛が金色だった。しかし手前の三人とは違い、座り込んで口元を手で押さえている。


「一年のくせに目立ってんじゃねぇぞ」


 上級生らしき女子の一人がそう言うと、座り込んでいた女子を蹴飛ばしてそのままどこかへ行こうとしている。蹴飛ばされた方の女子は左腕を押さえながらなかなか動こうとしない。


(……ケンカか? ヤバいもの見てしまった気がする)


 三人がいなくなった後も一人座り込んでいる女子。何も見なかったことにして、そっとその場を離れようとしたその時だった。


 ピロローン。


 どこかで携帯らしき音が鳴った。いや、どこか分からないことはない。僕の左ポケットの中だ。


「あ、やべ――」


 こんな時に限ってマナーモードを忘れるなんて。しかもこのタイミングで鳴るなんてどこの小説か漫画の世界だ。慌てて左ポケットを押さえたが――。


「……誰!?」


 座り込んでいた女子が立ち上がり、こちらを見ている。と言うよりも、バッチリと目が合ってしまった。やばい。これはもう隠しきれない。


「あ、あはは……」


 左手で左ポケットを押さえ、右手で右耳の後ろあたりをかきながら、僕は体育館の角から出て女子の方を見る。


「あ、あれ――」

「あ、お前――」

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