直感とパラドックス
南木
直感とパラドックス
皆様は「モンティ・ホール問題」という数学のパラドックスをご存じだろうか?
これは「直感で正しいと思える解答と、論理的に正しい解答が異なる問題」ということで割と有名で、ネタが割れてかなりの月日がたっているにもかかわらず、未だに「納得がいかない」と思う人が多い曰くつきのパラドックスである。
知らない方に向けた詳細については「モンティ・ホール問題または「モンティ・ホール・パラドックス」で検索すれば一番確実だが、この場で端的に説明すると以下の通りになる。
1:目の前に中身がわからない3つの扉があり、どれか1つだけに当たりが入っていて、もう2つははずれである。
2:これはクイズ番組であり、司会者がいる。司会者は扉のどこに当たりがあるか知っている。
3:あなたは目の前の3つの扉から、当たりが入っているだろうと思われる扉を一つ選ぶ。
4:あなたが扉を選んだあと、司会者は選ばれなかった2つのうち、はずれの扉を開ける。
5:こうして扉が残り2つになった時点で、司会者はあなたにこう告げる。
「今なら最初に選んだ扉を、残っている開けられていない扉に変更してもいいよ」
6:さて、あなたはこの時、最終的に開ける扉を変えるべきか否か?
答え:変えるべきである。なぜなら、当たりを引く確率が2倍になるから。
…
「そんなバカな!?」
というのが(やや乱暴だが)この問題の流れとなる。
この問題において一番引っ掛かりやすいのは「変えた方が当たりを引く確率が2倍になる」というもので、普通に考えれば最終的に2つの扉から1つを選ぶことになるのだから、確率は五分五分になると思うだろう。
しかし、直感的にそう思うことこそがドツボにハマる元なのだ。
実際、数学的にこの問題を証明する方法は無数にあり、そのどれも変えた方が当たる確率が2倍になると証明できるのである。
なんなら、実際にコンピューターのシミュレートでも実証されている。
この問題の肝は、もともとは3択問題であり、初めの段階での正解率は3分の1であるということである。
だが、逆に言えば「はずれを引く確率」は3分の2であるともいえる。
そして重要なのが、扉を選んだあと司会者は「選ばれなかった方から」「必ず1つはずれの扉を除外する」ので、初めに選ばなかった2つの扉は結果的に
「どちらも同じ中身とみなせる」
ことになる。
すると、2回目に扉を変えるべきかどうかの選択は実質的に
「初めに選んだ1つと、選ばなかった2つ……あたりが入っている確率はどっちの方が高いか」
という選択肢とみなせるのである。
そうなったらもう単純に、3分の1と3分の2ではどっちの方が確率が高いか、明白というものだ。
それでも納得いかない人や興味がある人は、様々な証明法がインターネットにのっているし、なんなら実際に方法を実験できるサイトもあるので、存分に知的欲求を満たしてほしい。
さて、このモンティ・ホール問題は厄介なところがもう一個ある。
「やらない後悔よりやる後悔」という言葉は、皆さん昔からよく聞くだろう。
自分で選んだ道は、たとえ失敗しても悔いは少ないし、選ばずに逸した利益は長く尾を引くものだ。
意地悪なことに、モンティ・ホール問題はそう言った人間の心理的直観すら手玉に取ってしまう。
途中で司会者が「選ぶ扉を変えていい」と言った時、このパラドックスを知らない人の大半は「自分の選んだものを信じて」扉を変えない選択をするという。
すると、彼らは「はずれを選ぶ確率が高い方」を無意識に選択することになってしまうわけである。
選んだあとにこの問題のからくりを知ったときはもう遅い。
「どうしてもっと早く知ることができなかったのか」をずっと後悔する羽目になる。
人間の直感は、時として過剰に重要視されがちだ。
工芸品は機械の計測よりも熟練の職人の感の方が優れていると思われるし
バトル漫画や小説では頭でっかちな理論派が直感派の主人公にやられるし
小難しい理論をまくしたてる経済学者たちが、世界の経済を正確に予見できたためしはない。
が、だからと言って知識や理論をおろそかにすれば、その直観すら鈍ってしまう。
実際に「モンティ・ホール問題」を提唱した数学者は、発表当初は大勢の一般の人のみならず、ほぼすべての数学者たちから「それはおかしい」と非難囂々だった。
いくつもの雑誌で議論が行われ、時にはかなりひどい言葉で罵倒されたこともあったそうな。
だが、最終的には提唱者の説が正しいことは証明され、間違っていると信じ続けた数学者たちは大恥をかいてしまったのであった。
即断即決はいいことだが、時には一歩立ち止まり、本当にそれが正しいのかどうか考えてみることも必要だろう。
直感とパラドックス 南木 @sanbousoutyou-ju88
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