発想の転勘

最早無白

発想の転勘

 悪い勘に限って、どうも当たりやすい気がする。なんでかなぁ?


 俺もこの前期間限定のスイーツを食べに行列に並んでてさ、その時に『俺の前の人でスイーツが売り切れになる』って、こう……ビビビッてきたんだよ。そしたら本当に俺の一つ前の人で売り切れになったんだ。

 だけどここからすごいぜ? なんと、そのスイーツで腹を壊す人が続出したんだ。もちろん俺はスイーツを食べ損なったからセーフ! 怪我の功名ってわけ。


 俺、気づいたんだよ。どんなに悪いことが起きても、その結果を無理やり『良かった!』って解釈すればなんとなく許せる……って!


「……てる? ねぇ、聞いてる!?」


「あっ、聞いてない、っすねぇ~……」


 ん、なんだよ? 人が悪運の良さを再確認してるって時に。え、この人誰だ? 委員長さんだったかな? よく覚えてねぇや。


「もう! さっさと移動しないと授業に遅れるよ?」


 授業? ああ、そういやそうだっけ。次は何だっけな。


「化学だっけ?」


「そ。ほら行くよ!」


 委員長さんに袖を引かれ、俺は化学室に引きずられる。よくよく考えればこの展開もおいしいな……。ちょ、歩くの速っ! 廊下が走れないからすんごい早歩き! なんか変なところでマジメだなぁこの人。ステレオタイプ委員長じゃん。


 あ~待って、嫌な予感する。これ絶対転ぶヤツだ。頭からはいかないまでも、膝辺りは大胆に擦りそうだな。これをどうポジティブに捉えるか……どっちにしても転ぶことに変わりはなさそうだな。ならば転んだ後の展開を……ってそんな速さで階段を降りようするな!


「――ひゃっ!」「うおおおお!」


 やっぱりこうなった! よりによって階段で転ぶんじゃねぇよ。とにかく、委員長さんに怪我をさせた扱いされるのは嫌だな……とりあえず先に下側に行って、クッション代わりになるしかないか……!

 踊り場に背を向けて、委員長さんを受け入れる体勢をとる。足の裏を上手く使って一段ずつ滑り降り、尻から着地する。『勢い余って抱きしめちゃった~!』な展開もワンチャン狙っていく!


「いたっ!」


 突如委員長さんの落下する角度が変わり、頭から突っ込んでくる形となった。足首でもひねったか? というか、俺のいる所より奥に飛んで行ってるじゃねぇかよ! 越えてきちゃったよ!

 もっと後ろに行かなきゃ……いや、間に合わない! こうなったら、ここから無理やり上体を反らして……。


 あっ……委員長さんって、意外と着やせするタイプなんだ……


「ぶふぅっ!」


 降ってきた額が、鼻に強烈な一撃を食らわせる。鼻血が出たからか、口元がほんのり温かい。


「――はっ! 大丈夫!?」


「俺は大丈夫。委員長さん、上……乗ってるから……」


「あ、ああ! ごめんね! というか鼻血出てるじゃん、早く保健室に行かないと!」


 委員長さんは我に返ったようだ。鼻血出てるのはお前のせいだ……とはさすがに言えない……。


「じゃあ今度はゆっくり行こっか……いたっ!」


「さっきので足、ひねったんでしょ? ほら肩」


「ありがと……ごめんね……」


 とりあえず委員長さんに肩を貸し、保健室を目指す。うわ、気まず……この状況を無理やりいいように考える、か。罪悪感すげぇ~……。

 委員長さんの温もりを腕に感じる。あと、何がとは言わないけど感触……。これじゃ~ん、絶対これじゃ~ん……。これ以外ないだろ~!


「……なにニヤけてるの?」


「へぇ!? 俺、なんかニヤけてた?」


 ヤベぇ~! 柔肌を堪能してたのが顔に出てたか!? くそ、どう切り抜ける……?


「あ、授業サボれるとか考えてるでしょ!? まあ、今回は私にも非があるから仕方ないけど……」


 セーフ! 委員長さんがクソ真面目で良かったぁ~!


「あ、確かに。俺は授業サボれるからいいけど、委員長さん的には痛手かもね」


「やっぱり考えてた! というか、私のことをずっと『委員長さん』って読んでるけど……クラスメイトの名前、覚えてないわけ?」


 はい、覚えてないです……。そもそも委員長さんと面と向かって喋ったの、今日が初めてレベルだし。最初の自己紹介なんてものはもう記憶にない。


「はぁ……じゃあ改めて、奈瀬川実莉なせがわみり。今後ともよろしくお願いします」


「あ、あぁ……よろしく」


「じゃあ行こっか。肩、お願い」


 なんやかんやで委員長さ……じゃなかった、奈瀬川さんとの距離が縮まった気がする。いや、なんかさっきより胸の当たり方が大胆になってない!?


「今言ったばかりじゃん。、ね?」

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発想の転勘 最早無白 @MohayaMushiro

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