超感覚的桃太郎

おぎおぎそ

超感覚的桃太郎

 むかし、むかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。


 おじいさんは物語の都合上、おばあさんとは別行動を取るべきだと感じて山へしばかりに、おばあさんは何となく川に大きな桃が流れてくるような気がして、川へ洗濯に行きました。


 おばあさんが川で洗濯をしていると、思った通り! 川上からそれはそれは大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきました。


「あら! これはなんということでしょう! こんなに大きな桃が流れてくるなんて!」


 白々しくもおばあさん、驚く演技がお上手です。


 おばあさんは洗濯を中断すると、流れてきた桃を丁寧に拾い上げました。まるで桃の中に何か大切なものでも入っているかのような、それはそれは丁寧な手つきでした。

 桃を家に持ち帰ったおばあさんが待っていると、おじいさんがしばかりから帰ってきました。


「おじいさんや、川で洗濯をしておったらこんなに大きな桃が流れてきたのよ」

「なんと! これはたまげた! よし、早速切って食べよう!」


 おじいさんはそう言うと、台所から大きな包丁を持ってきました。大きな桃を切るにはおあつらえむきです。用意周到ですね。


 おじいさんは桃を半分に切ろうと包丁を構えましたが、その瞬間、おじいさんはなんとなく中央を切らない方が良い気がしました。桃が真っ赤に染まってしまうような、そんな未来が視えたのでしょう、きっと。

 おじいさんは桃が七対三に分かれるように、桃を縦に切りました。二人暮らしなのに、不思議ですね。男尊女卑の時代背景が読み取れます。


「おぎゃぁぁぁ! おぎゃぁぁぁ!」


 するとなんということでしょう! 桃の中には大きな男の子が入っており、元気な産声をあげたのです。

 子供のいなかったおじいさんとおばあさんは、思わぬ幸運に涙を流して喜び、この男の子を自分達の手で育てることを決めました。


「名前はなんとしようか」

「桃から生まれたので、桃太郎というのはどうでしょう」


 安直ですね。しかしここで複雑な名前を付けると、なんとなくウケが悪いようなそんな気が二人にはしていたのです。


 かくしてここに、桃太郎が誕生しました。



 **********



 桃太郎は二人の愛情を受けてすくすくと育ち、立派で優しい男の子になりました。


 ところでちょうどこの頃――桃太郎がある程度肉体的精神的に成長し、自己の正義を自身の内面に醸成しはじめ、かつ少年期特有の蛮勇とも呼べ得る無鉄砲なエネルギッシュさを持て余しはじめた頃――鬼ヶ島に住む鬼たちは、なんとなく頃合いな気がして、桃太郎が住む村を度々襲っていました。


 そこで心優しい桃太郎は一大決心をしました。いや、そうしないと物語が進まないことを悟ったのでしょう。


「おじいさん、僕は鬼ヶ島へ鬼退治に行こうと思います」


 それを聞いたおじいさんとおばあさんは必死に止める(ふり)をしましたが、桃太郎の意志は固いものでした。


「それでは、桃太郎や。このおばあさん特製キビ団子を持ってお行き。一粒食べればたちまち百人力だよ」


 そう言って、鬼退治に旅立つ桃太郎に、おばあさんはキビ団子を持たせました。一粒食べれば百人力という、万が一鬼に食べられたときのリスクを考えたらとても渡すべきではない代物ですが、おばあさんはこれを絶対に渡す必要があると直感で理解していました。桃太郎と共に戦う哺乳類と鳥類がこれを好む、そんな気がしたのです。


 さて桃太郎は腰にキビ団子を携え、刀と旗を掲げて、鬼ヶ島へずんずんと進んでいきました。

 すると向こうから一匹の犬が歩いてきました。


「桃太郎さんや、どこへ行くんだい?」

「鬼ヶ島へ、鬼退治さ」

「その袋の中は何だい?」

「一粒百人力のキビ団子さ」

「一つくれたら、お供しますよ」


 鬼退治という命を懸けた雇用契約にしてはあまりに安い報酬です。しかし犬にはなんとなくこの戦いが勝ちを約束されたものに感じられたのです。


 かくして犬が桃太郎の仲間になりました。


 桃太郎達はずんずん進みます。すると向こうから一匹の猿が歩いてきました。


「桃太郎さんや、どこへ行くんだい?」

「鬼ヶ島へ、鬼退治さ」

「その袋の中は何だい?」

「一粒百人力のキビ団子さ」

「一つくれたら、お供しますよ」


 鬼退治という命を懸けた雇用契約にしてはあまりに安い報酬です。しかし猿には(以下略)。


 かくして猿が桃太郎の仲間になりました。


 桃太郎達はずんずん進みます。すると向こうから一匹のキジが飛んできました。


「桃太郎さんや、どこへ行くんだい?」

「鬼ヶ島へ、鬼退治さ」

「その袋の中は何だい?」

「一粒百人力のキビ団子さ」

「一つくれたら、お供しますよ」


 鬼退治という命を懸けた(以下略)。


 かくしてキジが桃太郎の仲間になりました。


 桃太郎一行がしばらく進むと、鬼ヶ島が見えてきました。

 桃太郎達は舟に乗って海を渡り、鬼ヶ島の大きな門の前までやってきました。


「やい! 鬼ども出てこい! この桃太郎が鬼退治にやってきたぞ!」


 すると門が開き、中から強そうな鬼がわらわらと出てきました。


「ふん! 誰かと思えば子供ではないか! お前なぞ片手で捻り潰してくれるわ!」


 鬼たちは何となく負ける気がしていたのでフラグもきっちり立てます。さすがですね。


「犬、猿、キジ! いくぞ! かかれ!」

「お前たち! あんなやつら取って食っちまえ!」



 これ以上の戦闘描写は必要ないでしょう。

 なぜって? なぜならあなた方読者も、この戦いの結末が何となくわかっているからです。多くの方がその第六感で感じ取っていることでしょう。あ、桃太郎勝つな、と。

 さてそろそろ戦いが終わったころですね。話を戻しましょう。


 大方の予想を裏切ることなく、桃太郎達は鬼をコテンパンにやっつけました。


「ゆ、許してくれ! 宝は全部持って行っていいから! 命だけは!」


 鬼は必死の命乞いをします。ここまでしなくても、子供向けのおとぎ話の都合上、殺戮ショーが始まることは無いのですが、そこは様式美というやつです。


 こうして無事鬼を退治した桃太郎達は、大量のお宝を手に村へと帰ってきました。


 一方その頃、おじいさんとおばあさんは桃太郎の帰りを今か今かと待っておりました。大量の金銀財宝が手に入るような、そんな気がしたからです。桃太郎が心配だったとか、そんな理由ではありません。勝ちは確定事項です。予定調和です。二人にとって大切なのは、桃太郎がいくらぶんどってきたかです。


 村へ帰ってきた桃太郎は村民に深く感謝されました。


 そして、お供の動物たちやおじいさん、おばあさんと共に、奪った宝を生活費に充てることで、末永く幸せに暮らしましたとさ。



 めでたしめでたし。


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