その向こう側へ
三城 谷
~Invited into the fog~
――真っ暗だ。
少女はそんな事を思いながら、空に散らされている輝きを見つめる。一歩、また一歩とゆっくりと足を運んでいく。白いワンピースに身を包み、白く長い髪が歩く度に揺れている。
その姿はまるで、真夜中に躍り出た妖精のように輝いていた。
楽しそうに、優雅に、
笑みを浮かべ、両手を広げながら、優しい風に頬が撫でられるのを心地よく感じていた。
そんな気持ち良ささえ覚える空間の中で、少女はふと足を止める。
「……霧?」
突然、視界を覆う程の霧が周囲を包んでいる事に気付いた。それだけではない。いつの間にか、自分が街外れまで来てしまっている事に気付いたのだ。
無我夢中に楽しんでいたとはいえ、周りが見えなくなる程に意識してなかった訳じゃない。
ここは自分の街であり、自分が日々暮らしている街だ。と少女は迷うはずがない。そう信じていた。そうでなければ、そもそもこんな真夜中、誰とも擦れ違う事のない時間を一人で歩こうなんて考えもしない。
「帰らないと……」
少女はそう呟いて、急いで帰路についた。
しかし、どうしてだろうか?
一向に自分の街の景色が見えない。それに気のせいか、霧が濃くなっている気がする。少女は不安を抱えつつも、必死に帰路を探した。自分の家を目指し続け、来た道を探り探りで足を進める。
だが……家に辿り着く事は出来なかった。
「……!」
その時である。濃い霧の中、目の前にハッキリ見える場所が現れた。周囲の濃い霧で見えなかった光景が、一箇所だけハッキリと景色が見えている。
――少女は「やっと帰れる」と思い、足を進めた。
……翌日。
街中で、道路には白いワンピースだけが見つかった。
その向こう側へ 三城 谷 @mikiya6418
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