第36話 選択肢23ー2クライヴの腕を振り払う(31話選択肢より)
クライヴの腕を振り払った。
勢いよく振り払ったせいか、クライヴが体勢を崩す。
「……っ」
私はクライヴがよろけている隙に、娼館に駆け込んだ。
そして、受付に、カードを見せる。
「リリィに会いたい。早く案内してくれ……っ」
私は追ってくるであろう、クライヴを気にしながら受付に言う。
「承知致しました」
受付が一礼してそう言った直後、クライヴが中に入って来た。
クライヴは私の姿を見つけると、詰め寄り、私に掴みかかる。
「お客様。館内でのもめ事は、お控えください」
私たちにそう声を掛けたのは、金髪が美しい、長身の男性だった。
雰囲気が、リリィに似ている。
「当館をご利用ですか? ご希望は……?」
金髪の男性に問い掛けられ、クライヴは言葉に詰まる。
その隙に、受付が私を案内してくれた。
私は、クライヴから逃れることが出来た……。
「こんなに早く、来てくれるなんて思わなかった」
案内係に案内をされ、リリィに会った直後、開口一番に彼女は言った。
案内係が一礼して、私とリリィは二人きりになる。
「手錠を嵌めれば、君の顔が見られるよな」
「ええ。ごめんなさい」
「謝ることは無い。それが、規則なのだから」
私はそう言いながら、備え付けてあった手錠を自分の両手に嵌めた。
「手錠をはめてくれて、ありがとう」
彼女はそう言って、薄布の向こうから姿を現した。
そして、私に駆け寄って抱きつく。
「会えて嬉しい……っ」
無邪気にそう言うリリィに、私は戸惑う。
彼女の華奢な身体を抱きしめて良いものだろうか。
そう考えて、私は、自分が手錠を嵌めているという事実に気づき、ため息を吐いた。
……私からは、何も出来ない。
「……」
リリィから、ふわりと花の香りがする。
「ふふっ」
私の腕の中で、リリィが笑う。
「歌わないのに、幸せ。あなたの身体が温かくて、あなたの鼓動が心地良いの」
「それはよかった」
そう言うと、リリィは私に頬を摺り寄せてくる。
まるで、猫のような仕草だ。
「……」
リリィは私にくっついたまま、動かない。
「……リリィ」
「なあに?」
「離れてくれないか」
「どうして?」
リリィが私を見上げて、無邪気に問い掛けてくる。
「長い時間くっついていられると、その、困るんだ」
「どうして?」
「……」
娼館につとめるリリィに、性知識が全く無いとは思えない。
だが、口にすることも出来ず、私は困惑した。
……だんだん、身体が熱くなってくる。
リリィに、触れたくてたまらなくなる。
ああ。やはり、手錠で手を戒めることは必要だった。
「ねえ。くっついちゃいけないのは、どうして?」
「……君に、キスしたくなる」
言葉に困って、私はそう言った。
「……」
私の言葉を聞いたリリィは、つま先立ちをして、私の首の後ろに手を回す。
「下を向いて」
彼女に言われるままに、下を向く。
「ん……っ」
リリィが私の唇に、自分の唇を触れさせた。
「……っ!!」
「キス、したから……もう少しだけでもいいから、くっついていてもいい?」
リリィの大きな目の中に、私が映っている。
「まだ、足りない」
私がそう言うと、リリィは微笑んで、またキスをした。
「ちゅ、ちゅっ。ん、ちゅう、ちゅ……っ」
啄むようなキスを交わしながら、私はじりじりと壁際に後退する。
「ん……っ」
私は壁を背中に感じながら、ずるずるとその場に座り込む。
「ちゅ、ちゅっ、ん……っ」
リリィは膝立ちで、私に覆いかぶさるようにキスをする。
「……っ」
息が苦しくなって、唇を離すと、リリィは頬を紅潮させながら笑った。
その直後、涼やかな鐘の音が響く。
「……もう、お別れの時間だわ」
「離れたくない」
「本当にそう思ってくれる? ずっと、わたしと一緒にいてくれる?」
縋るように、リリィが言う。
「君が好きだ」
「本当に? ねえ。わたしと、この鳥籠で、ずうっと一緒にいてくれるの……?」
縋るように言うリリィに、私は……。
選択肢24
1答えられない(次へ/鳥籠の鳥【男主人公編】36話→ 鳥籠の鳥【男主人公編】37話へ)
2「一緒にいるよ」(鳥籠の鳥【男主人公編】36話→ 鳥籠の鳥【男主人公編】40話へ)
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