第29話 選択肢15ー2小切手を受け取らない※BLルート※(25話選択肢より)

小切手を受け取らないことにした。


「すみません。まだ、カードは持ったままでいさせてください」


私は、娼館の主に頭を下げた。


「私は、やっと職に就けたところで……希望の職業ではないのですが、できるだけ長く働き続けていたいのです」


一時的な大金は、確かに魅力的だ。

だが、今の仕事の給金は、一般的な条件よりかなり良い。

十年後、二十年後まで働けると考えれば、今の仕事にしがみつく価値はある気がした。

それに、このカードがあれば、クライヴに対して優位に立てる。

心の中に、クライヴに頭を下げさせた時の優越感と快感が、こびりついている。


「承知しました。今の申し出は、お忘れください」


彼は穏やかに言って、立ち去った。


「……」


……私は、自分にとって、正しい選択をしただろうか。

間違った選択をしたのかもしれない。

そんなことを考えながら、クライヴを待つ。


……やがて、クライヴが戻って来た。

彼はうっとりとした、満ち足りた表情を浮かべている。

リリィが、歌ってくれたのだろう。


「待っていてくれたのか」


「はい。帰りに、カードを受け取らなければいけないので」


切り札は、常に私の手にある。

そう思いながら言うと、クライヴは微笑した。


「そうだな。君のカードだ。だが、また僕のために使ってくれるね」


「ええ。まあ、そうですね」


人目がある娼館の中で、反抗して言い合いになることは避けたい。

傲慢なクライヴの態度に腹立つ心を抑え、私はクライヴと娼館を出た。


……屋敷に到着した。


「それでは、私はこれで……」


クライヴの父親から貰った休暇を楽しむために、立ち去ろうとした。

だが、クライヴに引き止められる。


「待ってくれ。君と話したい。カナリヤの素晴らしい歌を聞いた感動を、彼女が見せてくれた夢の話をしたいんだ。話せるのは君しかいない」


クライヴは、勝手なことを言う。

娼館でこらえた怒りが、腹の底からこみ上げて来た。

だが、この場で爆発させることはできない。

……まだ、今は、耐える時だ。


「わかりました」


私はクライヴの命令に従うことにした。


クライヴの部屋に着いた。

クライヴは侍女に紅茶を用意させると、彼女を退出させた。

……私とクライヴは、二人きりだ。


クライヴは紅茶を飲み、正面に座る私を見た。


「カナリヤの歌は、今日も素晴らしかった。私は彼女が紡ぐ歌声を聞きながら、美しい夢を見た」


「……」


一方的に話し続けるクライヴに、相槌を打つのも面倒で、私は何の反応も示さずに紅茶を手にした。

そんな私を見て、クライヴは不機嫌になり、口を開く。


「僕の話を聞いているのか」


「……聞いていますよ。つまらない話だ」


そう言いながら、私は手にしていた紅茶をクライヴに浴びせた。


「熱い……っ!!」


「やけどはしない熱さでしょう。あなたが口にしていた紅茶と同じ温度ですから……」


「何をする!? 無礼な……っ」


「無礼を働き、申し訳ありません。ああ。お召し物が汚れてしまいましたね。着替えなければいけませんね」


私は席を立ち、クライヴに近づく。


「私が、お手伝いしましょう」


「近づくな!! 今、侍女を呼ぶ……。っ!!」


私はクライヴの頬を平手で打った。


「何を……っ」


「黙りなさい。カナリヤに会いたいでしょう? それとも、このカードを売ってしまいましょうか。実は、娼館の主から買い戻したいと言われているのです」


「……っ」


クライヴは唇を噛み締め、黙り込む。

私はクライヴを突き飛ばして、床に押し倒した。


「何をする……っ!?」


「服を脱がせるんですよ。着替えが必要でしょう?」


「自分で、着替えられる。離れろ!!」


私はクライヴの言葉を無視して、彼の服を強引に脱がせた。

クライヴの肌の白さが、目を射る。

私は……。


選択肢16

1夢の話の続きをさせる(次へ/鳥籠の鳥【男主人公編】29話→ 鳥籠の鳥【男主人公編】30話へ)


2クライヴを犯す(鳥籠の鳥【男主人公編】29話→ 鳥籠の鳥【男主人公編】33話へ)

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