第11話 選択肢6ー2名乗る(8話選択肢より)
名乗ることにした。
私の名を聞いて、カナリヤは微笑する。
「素敵な名前ね。わたしの名前は、リリィよ」
知っている。
彼女の名を知らなければ、予約は出来ない。
だが、当人の口から知らされるのは、気持ちの良いものだと思う。
リリィともっと、話したい。
何を尋ねようか。
私は考えながら、口を開く。
「初恋はいつ?」
女性は恋の話が好きな子が多い気がする。
でも、今の彼女に恋人がいるという話は聞きたくなかった。
だから、初恋の話題を振ってみる。
まさか、ずっと娼館にいるわけではないだろうから、子供の頃の話を聞いても良いだろう。
「8歳の時。自覚したのは、8歳の誕生日だったから、よく覚えているの」
リリィは過去を懐かしむように、目を細める。
「相手は、どんな人?」
「年上の従兄弟よ。誕生日に、大きなくまのぬいぐるみをくれたの」
私は、8歳のリリィがくまのぬいぐるみを受け取っている様子を思い浮かべて、思わず微笑した。
「それでね、従兄弟が言ったの。雷がひどい夜も、このぬいぐるみを抱いて眠れば、怖くないよって」
「雷が怖かったのか?」
私が問い掛けると、彼女は肯いた。
「幼い頃のことなのよ。でも、従兄弟は覚えているの。それでね、子供扱いされたことが悔しくて悲しくて、わたし、泣いてしまったの」
「彼が好きだったから?」
「ええ。わたし、ぬいぐるみなんて嫌だ。指輪がいい、と駄々をこねて、従兄弟を困らせたの」
「指輪、もらえたの?」
私が問い掛けると、リリィは微笑んで肯いた。
「おもちゃの指輪をくれたわ。今も、大事に取ってある」
「そう。素敵な思い出だね」
私がそう言うと、リリィは表情を曇らせた。
「それで終われば、素敵な初恋の思い出だった」
彼女がそう言った直後、涼やかな鐘の音が響く。
「……もう、お別れの時間だわ」
私を見上げて、彼女が言った。
私は……。
選択肢8
1「さようなら。楽しかったよ」と言った(次へ/鳥籠の鳥【男主人公編】11話→ 鳥籠の鳥【男主人公編】12話へ)
2「もっと、話を聞きたかった」と言った(鳥籠の鳥【男主人公編】11話→ 鳥籠の鳥【男主人公編】13話へ)
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