呪詛とパンドラの箱



人は誰でも心の中に触れてはいけないパンドラの箱を持ち、その中で自分を保つ為に、封印しなければならない記憶や感情がある。

それをトラウマと呼ぶのかもしれない。


もちろん、私にも多くの黒歴史と言われそうな失敗ももちろん多い。

しかしその中で学んで来れたから、今の自分がいると言っても過言ではない。


その最たる闇こそ、私にとっては親子関係だった気がする。


幼少の頃より、同居の出戻りの叔母に精神的虐待を受けていた。

自分の行動全てを否定され、足音さえもうるさいと叱責され続けた。


大家族であった実家である本家は妹だけを溺愛し、周りの大人は私を見て見ぬふりを続けた。

小学校では低学年の頃より卒業までいじめが続き、どこにも居場所もない幼少時代を過ごした。


大人になり、本家から叔母のいじめを知っていたのに関わらず、守ってくれなかった事実を謝罪された。


しかしその時から、私の中の溝が大きくなって行った。


なぜ叔母のいないところで、抱きしめてくれなかったのか。

「お前は悪くないよ」の一言があれば、当時どれほど救いになったのかと、私は心を閉ざした。


その後のすれ違いの溝は大きくなり、本家は世間体や見栄ばかりを追求し、逸れる私は許されない存在となって行った。


私の中の想いは一切通じなくなっていった。


結果、忌み嫌われているということを何年も自覚させられるほど、親子関係は修復不可能となり、父の死さえ教えてもらえなかった。


しかし遺産相続の放棄手続きのために、必要として知らされた父の死。

その事実を伝える為に来たのは、母ではなく妹だった。


そこだけ見ても、どれほどの確執だったのか伝えるには充分だと思う。


大人になりきれず、周囲に振り回され、親にさえ愛されない自分は価値がないと思い込む結果となって行った。


そんな大人の中で育ったこともあり、虐待の連鎖だけは繰り返したくないと、必死に生きそして自分を必要としてくれた子供達を育てることで、幼い頃の自分自身の育ち直しと考えていた。


それでも泣き叫ぶ子供と、過去の自分が重なり出口の見えない日常。

やがて過ぎてゆく積み重ねで、葛藤しながらそれでもこうありたいという理想の親となれる為の努力を惜しまなかった。


自分の苦しみの根源が消えることなどないと分かっていながら、母と同じ様に我が子を憎み、

敵対する母を憎めれば、どれほど楽になれるのかとも思った。

どんなに腹を立て、ズブズブの感情の闇に呑まれても、自分の中で母を慕う気持ちが、消えることはなかった。


憎まれ非難される言葉に傷つきながら、それでも心の底で願っていた。

ただ純粋に、親に愛されている実感を得たかったのかもしれない。


求めても与えられない現実は、歪んでいった。

父の死を知るまで、もう何年も実家に連絡を取ることはなかったし、父が亡くなってからも帰ることを許されていない。


拒絶されていることを知っていれば尚更、帰りたくとも帰れない選択を私はしていた。


おそらく私に最大の闇があるとしたら、根っこの部分となる。

愛されない自分、価値のない自分。


届かない声は、無きに等しくただひたすら願った。

それは自分の死。


自分自身に最初に呪詛をかけたのは、紛れもなく小学校時代の私だった。

自分で引き寄せた未来。


大きくなるにつれて、呪詛や霊障を察知し苦しむ結果となっていた今を引き寄せた張本人こそ、過去の私なのである。


周りの多くの負の感情に呑み込まれ、翻弄されていたからこそ、見える未来があるのなら、今は心から願う。

自分が自分らしく、周りと尊重し合える未来。


争いもない、恐怖もいらない、優しさが循環する未来。


そこまで立ち直れたのは、是宮の存在とグループLINEのメンバーとの出会いであった。

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