未来の声
レイ&オディン
前編
『うっせぇー、クソおやじ。お前なんかに何が分かる。マジグダグダ言ってると、ぶっ殺すぞ。』
僕はそう、捨て台詞を吐いて自分の部屋にこもった。
進路のことで、もめた末の一言だ。
『くそ、どいつもこいつも・・・・』そう呟きながら、ベッドに潜り込んだ。
ふと気が付くと、僕は、真っ暗闇の中に、ポツンと立っていた。
ドン!ドカ~ン!
音と共に地面が揺れた。ここはどこだ。
僕は、布団の中じゃないのか?
えっ?
目の前が黄色とオレンジ色の光に染まっていた。
振動の正体は、目の前の青い星からマグマが飛び出した時の衝撃だと..思う。
一瞬の出来事に、僕は、何かを理解するのに時間がかかった。
黄色とオレンジ色の光のおかげで、自分がでかいカプセルの様な物の中にいることがわかった。
何もない空間のガラスのような向こう側には確かに、マグマがドンドン噴き出しているのが見えた。
雷のような擦れる音が響き渡る。
オレンジ色の塊は、宇宙側がドンドン黒く固まって来ていた。
でも、その塊に吸われるようにマグマは星から出ていく。
塊が星の1/10ぐらいまで大きくなったところで、
マグマが噴き出すのが止まった。
津波が戻ってきていた。
すると、マグマが噴き出して、穴が開いているであろう辺りで
水が跳ね、地球の周りを回り始めた黒い塊にぶち当たっていた。
それって、どんだけすごい津波なんだ?
ゴツ。ガン。
僕はあっけにとられていたが、すごい音に意識を戻された。
音は、カプセルのガラスにさっきのマグマのかけらが飛んできて、当たっているものだった。『やばいじゃん、カプセルに穴が開いたら・・・。そうだ、お父さんやお母さん、お姉ちゃんは?大丈夫なのか?』
僕は大きな独り言を叫んでいた。
そのあとに誰か女性の声が聞こえた。
少しタイムラグがあって
『もう、何、大声出してるの?
地球がこうなるって、散々ニュースで言ってたでしょう。
それに、この現象は、何度もあって、そんなに大声を上げる事じゃないでしょう?
今日のあなた、変よ!』と感じた。(しかし、日本語ではなかった。)
そう、日本語じゃない何かを女性がしゃべってって、
後から頭でイメージで理解したことを、僕は感じた。
僕は、誰かの頭の中に入ってしまったのかもしれない。
絶対に、夢であって欲しい。でも、夢にしては、出来過ぎている。
1時間ぐらいたったのだろうか、
僕が入ってしまった身体の持ち主が僕に語り掛けてきた。
『落ち着いた?今日で、君と会話するのは3回目だけど、毎回、君は記憶を無くしてるんだよね。ミー、疲れちゃったよ。』身体の主は、そう僕にクセ強めで語り掛けると、手を何もない空間にかざして、ベッドを出してきた。
『えっ、そうなの?ごめん。』僕は、身体の主に、謝った。
『今、見たのが地球って言ってたけど、じゃあ、あっちの赤い星は何?』
僕は、身体の主に問いかけた。
『あれは、太陽じゃないか!あっそうか、前回の会話で、君たちの時代の太陽は、黄色に輝いていたって話だっけ。』
身体の主は解説も入れてくれた。
なんと、黄色の太陽が、その寿命をたどって、赤色まで温度が落ちたらしい。でも、そんなに太陽と呼ばれる星は大きく肥大化していなかった。どちらかというと、縮小してるんじゃないかと思ったぐらいだ。
‘人間の予想って、この程度なのかもな?’などと考えていたら、
身体の主が割って入ってきた。
『へえ~、君たちの時代は、黄色い太陽が、赤くなる時は、
太陽が大きくなると信じられていたんだね。』
僕は、身体の主に聞いた。
『さっきから、2時間ぐらい経っていると思うんだけど、月が見えないんだけど・・。』
『ああ、月ね。1度目のマグマの塊が出来た時、ちょうど月の軌道と重なったらしいんだ。すぐに、ぶつかりはしなかったんだけど、段々、マグマの塊が加速して、月にぶつかったんだ。すると、マグマの塊は砕け散って、その反動で月は地球の軌道から飛び出しちゃったらしいよ。また、それが、太陽の方向に弾けちゃって、思いっきり太陽にぶつかっちゃたらしいんだよね。それも原因で、太陽は小さくなったらしいんだ。ミーは、小さかったから、覚えてないんだよね。だから、月はもうないんだよ。』
『えっ、ええ~。』
『それ、面白い。前回も同じリアクションだったよね。ニャハハハ。』
僕は、驚いたまま目を覚ましたようだった。
なるほど、最近、夢見が悪かった気がしてたのは、この経験だったのか?
じゃあ、なんで、今朝は覚えてたんだろう?
そんな事を考えながら、食卓に出てきて、母がついでくれたご飯とみそ汁を黙々と食べた。おかずの納豆を混ぜ始めた時、
‘こりゃたまらん、宇宙ドリアン並みに臭いや。’
と頭の中で騒ぐやつがいた。
一瞬何が起こったのか解らず、『はあ~』と声を上げて左右を見回した。
誰もいなかった。が、次の瞬間、ゲンコツが飛んできた。
『黙って食え。』親父の一発だ。
『いって~。なんで、僕が悪いんだよ!』と呟きながら、朝飯を平らげた。
このまま、飯抜きになるのだけは避けたかった。
玄関を出て、学校への通学時に、頭の中で、また声を感じた。
‘ごめんごめん、あんまり臭かったから、つい!驚かすつもりは無かったんだよ。
君がミーの中に入ってきたまま、ずっと意識が繋がったままだったんだ。
だから、ミーも君の世界を体験させてもらおうと、ちょっとお邪魔させてもらったんだ。
でも、さっきの一撃はすごかったね。ミー、意識が飛んじゃったよ。’
この会話の感覚で、夢の身体の主が、僕と交代で来ていることを理解した。
‘君、名前は?って聞く感じでイメージしてみたが、答えは来なかった。
??もしかしたら、向こうの世界で起きたのかな?’
僕は、この奇妙な体験に興味がわき、この日は、早々に学校から帰り、
22時半には、ベッドに横たわっていた。
すると、母が、ガチャッと部屋の戸を開いて、
『どうしたの、どっか具合でも悪いんね?』と問答無用に聞いてくる。
『大丈夫だよ!ちょっと、早く寝たいだけだよ。』
‘我が家にはプライバシーはないのか?’そう思いながら、
また、掛け布団を頭まで被った。
‘おっ、今日は、しっかり覚えてるみたいだね。’身体の主が、話しかけてきた。
僕はいつの間にか寝てしまって、こちらにアクセスできたみたいだった。
未来?の世界と早速つながった。
‘そうそう、自己紹介をしなければ!僕は大分賢治、18歳。君は?’
‘オオ イタケンジ?へ~、ミーはザビエル・シューベルト、宜しくね。
さあ、今日は、何を話そうかな?’
『あのマグマの事をもっと聞きたい。』僕は興奮気味に質問した。
‘ケンシ~、口でしゃべるのは禁止だよ。君だって、家族の前でされると困るだろう!
ミーの家族もミーの事、心配し始めてるから。頼むよ~。’
シューベルトは、そう言うと、おじいさんの話を始めた。
『シューベルト、何事も、やり過ぎは、いかん。』
それが口癖だったよ、じいちゃんは。
そこから、いつも話が始まるんだ。
『最初はな、後進国の発電力向上が目的だったんだ。
日本じゃったよ、マグマにも耐える管を開発したんじゃ。
そして、マグマの少し手前まで管を通して、熱気を利用した水蒸気発電を作ったんじゃ。
ところが、世界的な財閥がその会社を買収したんじゃ。
あいつら馬鹿だから、世界のあちこちに、穴を開けやがったんじゃ。
地球のバランスが崩れたんじゃ。
10年程は、何事も無かったんじゃが、ある日、特に管が密集していた場所だった。
その1つの管からマグマが噴き出したんじゃ。
1時間ぐらいの間に、密集していた管が次々にマグマを噴き出して、
それは巨大な火山の様だった。
テレビでその中継を見て、わしは涙した。なんと愚かな。
その時は、なんとか、その町の壊滅だけで収まったんじゃが、歪は簡単には収まらん。
その数週間後、その地域で大地震が起きたんじゃ。
学者の説明では、『マグマが噴き出したことで地下の圧力が低下して、地下10~50Km辺りが、空洞化したことが原因と考えられます。そこに力が働いて、一気に地盤沈下したんだと考えています。』というものだった。
地盤沈下は、わしらが宇宙に逃げるまでに50回も起きた。それは、地盤沈下の地震だけじゃなく、マグマの吹き出しもセットだったんじゃ。
おじいちゃんたちは、必死に宇宙船を開発して、命からがら、宇宙に逃げ出したって言ってた。宇宙船に乗れたのは、ごく一部で、大半の人たちは、地球に残されたんだって。何とかしたかったんだけど、もう、宇宙船を作れるような安定した場所が無くなってたんだって。
おじいちゃんは、ず~っと、後悔しながら、ミーによく話してた。
『わしらは、やり過ぎたんじゃ。』よく、そう言ってた。
この間、見たマグマの塊は、管が埋められた近所の地盤がくずれて、大きい穴が開いた時に起こる現象なんだって、おじいちゃんが言ってた。
僕は、シューベルトの背中に冷や汗をかいているのを感じた。
もしかしたら、僕の感覚がそうさせたのかもしれない。
僕の世界では、まだ、そのマグマに耐える管は開発されてないけど、
もし、それが出来たら、地球は壊れるんだ。
宇宙にマグマが飛び出すほど!
朝、目が覚めた時、僕は泣いていた。
『あんた、大丈夫ね。目が真っ赤じゃない。』母の言葉を聞くまで、僕は、夢の衝撃に打ちのめされたままだった。あまりの衝撃に心が受け止められなかったようだ。
‘そっか、あの話は現実なんだ~。’僕は、母の言葉に応じず、黙々と朝ご飯を食べた。
いつぶりだろう?こんな砂を嚙むような味のしない食事をするのは?
僕は、それから、7日間、死んだ魚の目の様になって過ごした。夜、寝るのが怖かった。シューベルトと心を通わさないようにすることに必死になっていた。
人って寝れないと、こんな目になるんだ。いや、寝るのが怖いとこんな目になるのか!
8日目の夜、姉ちゃんが黙って、ホットカルピスを入れてくれた。
珍しく部屋から出てたからだろう。いや、1人になれないくらいに僕は追い込まれていた。『まあ、私でよかったら、話してみ!とりあえず、最後まで聞いてあげるから。』
そう、僕は、単純に誰かに聞いて欲しかっただけだった。もう、自分で抱えきれないギリギリの状態だった。
姉ちゃんは、『そう。』とだけ言って、他は何も言わなかった。
‘信じてないのか?’とも考えたが、なんだか、どうでも良くなっていた。
自分の口から全てが吐き出せた安心感が僕をホッとさせた。すると突然、眠気が襲ってきた。仕方ないか、ほとんど、7日間眠れていなかったんだから。僕はベッドに潜り込んだ。
深い深い眠りについた。
‘落ち着いたかい?’シューベルトの気配がした。いや、僕が気を緩めたことで、シューベルトとつながってしまったんだ。
‘ああ、しばらく、無視して、すまなかったよ。’シューベルトに謝った。
‘それで、今日は、何を話すの?’シューベルトは、僕の反応に興味津々だった。
多分、気持ちって伝わるんだろうね。姉ちゃんに話しながら、僕がこの地球を守るしかない!という気持ちが段々と固まりながら、布団に潜ったとこだったから、シューベルトにも、なんとなく通じたんだと思う。
‘シューベルト、僕、地球を救いたいんだ。’
‘いいよ。僕にできることは、ほとんどないけどね。’
‘まずは、管を発明した会社と買収した会社を調べてくれないかい?’
‘お安い御用さ、ケンシ~。’シューベルトのイメージも明るかった。
もしかしたら、気にしてくれてたのかもしれない。
‘ケンシ―、もう、寝てていいよ。明日の朝、ケンシーのところに報告に行くからさ。
そうそう、朝食に宇宙ドリアンより強烈な食べ物は、勘弁してくれよ。’
‘シューベルト、ありがとう。それ、納豆な!’
僕は、何日ぶりかのすっきりした朝を迎えた。‘眠るって、すご~い。もしかしたら、世の中の人って、無駄な睡眠で損してる人って、多いんじゃないのか?’
‘ああ、それ、ミーの世界では、常識ね。より良い睡眠に、みんな、お金をかけてる。’シューベルトが早速、話しかけてきた。
‘で、シューベルト、解ったの?’
‘うん、それが、さ~、ここって、2000年だろう?’
‘そうだよ。’
‘マグマに耐える管の会社の創業って、2020年らしいんだ。開発した人って、まだ、子供じゃないかな?’
‘名前は?’
‘御厨ケンシ―じゃなかった。御厨健四郎って、書いてた。’
‘じゃあ、買収したひどい会社は?’
‘JPマーガレットって会社。’
‘知らない!まあ、そこは、こちらで調べるよ。’
『さあ、どうやって、2つの会社の邪魔をするかな?』僕は、気づかないうちに独り言を呟いていた。学校の通学途中だったが、気持ちの良い晴れの日だった。
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