第六の感覚に目覚めた人類

名苗瑞輝

第六の感覚に目覚めた人類

 五感。それはヒトに備わる五つの感覚。

 光を認識しする『視覚』、空気の震えを認識する『聴覚』、大小様々な物質を認識するための『触覚』『嗅覚』『味覚』。

 これらを駆使してヒトは様々なものを認識してきた。しかしそれでも捉えることが出来ないモノは幾何いくばくも存在する。

 中でもヒトがその営みの中で捉えたいのに捉えられず、長い歴史の中で過ちを繰り返すに至る要因ともなるものがある。それが『心』だ。

 もちろんヒトはそれを理解しようと五感を駆使した。素振りを『見』て、言葉を『聞』いて、身体に『触』れて、時には『嗅』ぐことも『味』わう事すらもいとわなかった。

 しかし、心の全てを知ることは叶わなかった。


 やがて幾度と時代を重ねていく中で、ヒトは徐々に変化していった。

 相手の素振りを見る前に、話を聞く前に、何となく伝えたいことが解る。

 理屈では説明出来ないその感覚をヒトは『第六の感覚』と定義した。

 だが光も空気も粒子すらも介さない感覚であるそれは、感覚でありながら感覚たり得ないとして、その存在を否定する者もいた。

 もちろんその大部分は正しかった。『第六感』の多くは経験に基づいた『予測』でしかなかったからだ。

 では正しくない部分とは何か。

 それは真にヒトが『心を知る感覚』に目覚めつつあったという事に他ならない。


 さらに時が流れた。

 ほぼすべての人類が『心を知る感覚』に目覚めていた。

 故にその理屈も解明されていた。

 解ってしまえば単純な話で、ヒトは『脳波を認識する』感覚を手に入れたのだ。

 そして何も知覚できるのは脳波だけではない。電場と地場の変化による波、すなわち電磁波を知覚できるようになったのだ。

 もちろん視覚や聴覚に知覚可能な帯域が存在するよう、全ての周波数帯を知覚できるわけではない。だがこの進化を知ったヒトは、知覚可能な周波数帯による無線通信インフラを整備し、直接Wi-Fiに接続することすら出来るようにまで進歩したのだ。


 しかし問題もあった。

 ヒトが集まるだけで脳波が飛び交い、まるで全員が同士に話し出すような喧騒にさいなまれるようになった。

 故にヒト同士の物理的な距離が広がっていった。

 ヒトとヒトとが相互に理解できるよう進化したにもかかわらず、皮肉にもそれを拒むような変化であった。

 とはいえ、これより前の時代、ヒトは新型のウィルスが爆発的に広まったことを受けて、遠隔での交流を主とする文化へとシフトしていた。

 だから進化がなくとも、ヒトは離れ離れになっていたのかもしれない。

 もしくは、だからこそ近くに居るヒトだけでも密に理解しようとした結果の進化なのかもしれない。


 この先の未来、このままヒトは疎になるのか、第七の感覚を経て新たな変化が訪れるのか、私には解らないが期待したいと思う。

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