え?俺なら書籍化とかチョロいッスよww

ぽんぽこ@書籍発売中!!

第六感想


「おっ、この作品書籍化決定かぁ~! っぱりな!!」


 俺には第六感がある。

 これは売れる!と思ったモノは何でも有名になるのだ。



「あの歌い手も紅白出場決定したし、フォロワーの少なかった新人イラストレーターも数万人のフォロワーに囲まれるようになった。次は処女作で一発、書籍化だもんな~。スゲェよ、俺!!」


 見た瞬間、ビビっと来たもんな。内容を全部見なくたって、最初の一文で“理解わか”っちまった。


 だけど俺はまだこの特殊能力に満足なんてしていなかった。



「最初は自分でも信じられなかったけど、ここまでくれば間違いない。今度は俺自身が有名になる番だ」


 この第六感さえあれば、俺はホンモノを誰よりも先に見分けられる。



「んー、何にすっかな。まずはラノベ辺りでも書いてみるか?」


 今の俺なら、文豪も絶賛するような名文がパパッと書けるに違いない。


 アイデアならたくさんある。俺ツエーでもいいし、ハーレム、追放なんだって書いてやるぜ。何なら全部書いて、カクヨムコンで複数受賞も夢じゃねぇぜ!!



「よっしゃ、じゃさっそくカクヨムに投稿してみるかぁ~!!」



 ◇


「どうして……どうしてPVが付かないんだ!?」


 投稿を始めてから数日が経った。

 だけどワークスペースに表示された各作品のPV、感想、評価は軒並み無反応だった。


 なぜ……俺には第六感があるはずなのに……!!



「いや、理由は分かってるよ。だって、俺が書いた文には何にもビビッと来ねぇもん」


 ちっ、俺には文才は無かったってことか?


 ふんっ。だったら次は音楽でテッペンを獲ってやるぜ。なにも他のジャンルにだって第六感は働くんだしな。



 ◇


 駄目だった。

 何をやっても、俺の第六感はウンともスンとも言わなかった。


 小説も、音楽も、絵も運動も全部!!


 俺には――何の才能も無かったんだ。



「はぁ。つまんね……もうカクヨムのアカウントも消すか……」


 俺は数ヵ月ぶりにカクヨムのページを開いた。


 あれだけ好きだったラノベも、今じゃ見たくもない。



「……通知? なんだ……感想!? しかも六作全部にきてるぞ!!」


 書くだけ書いておいて放置していた作品に、誰かが感想を残してくれていた。それも、まったく同じ人物から。



『文章のルールや文法はメチャクチャですが、キャラクターが生き生きとしていて良かったです。作者さんが楽しんで書いているというのがビビビっと伝わってきて、筆を折りかけていた私に創作で何が一番大事なのか思い出させてくれました』



「なんだよ、これ……俺が楽しんでいた?」



 たしかにあの時の俺は調子に乗っていたけれど、本気で物語を書くのが楽しかった。自分の妄想がカタチになって画面に広がっていくあの感覚は今でも覚えている。



『更新は止まってしまっていますが、是非続きを書いてみてほしいです。物語が途中なので今回は星二つを贈りますが、完結した時はまた改めて評価したいと思います』



「はは……ムカつく。どんだけ上から目線なんだよ……って、えぇ~?」


 評価者の名前から飛んでいくと、なんとその人物は俺がカクヨムから離れていた期間に書籍化していた。しかも何作も何百話も書いて、ようやく拾い上げで決まったらしい。



「……分かったよ。そこまで言ったんならキチンと見せてやるよ。俺の好きだった世界を。だから絶対に見に来いよ、エピローグまでしっかりとな!」



 俺はその後も何作か物語を完結させたが、結局自分の文章にビビっと来ることは一度も無かった。


 だけど書籍化しなくたって、有名になれなくたって別に良い。


 俺の世界を楽しんで何かを感じる人は確実に居てくれた。


 ただそれだけで、俺は間違いなく幸せだった。

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