最終回 押し切られるセンエース。


 最終回 押し切られるセンエース。



 この女、ものすげぇグイグイくる……


 『俺のことを勘違いしているヤツ』が『いま以上に増える』のはガチでしんどいので、どうにか、ご勘弁(かんべん)いただけないかと、必死に断(ことわ)っているのだが、

 しかし、アダムは、折れずに、グイグイくる。


 俺たちは、不毛な『会話のラリー』を繰(く)り返した。

 俺が何を言っても、アダムは絶対にひかなかった。

 もう、目が狂気的だった。

 完全にラリっているヤツの目だった。


 『絶対に、俺からは離れない』という強い意志を感じる。


 だから、結局、


「あー……もういいよ……わかったよ……」


 俺の心は折れてしまった。

 これが戦闘だったら、俺は死んでいた。


 シモベにすることを認めたと同時、

 アダムは、目を輝かせて、


「恐悦至極(きょうえつしごく)に存(ぞん)じますぅうう!!」


 と、おでこを地面にめり込まさんばかりの勢いで土下座しながら、

 歓喜(かんき)の声をあげた。


 アダムに続いて、

 マリとアルブムとアポロの三人も、

 俺のことを、尊いとか、すごいとか、

 異常なほど持ち上げてくる。


 何度でも言うけど、お前らを助けたの、俺じゃないから。

 さっきのやべぇ局面(きょくめん)をどうにかしたのは、セイバーだから。

 俺、なんもしてないのに、そんな持ち上げられても、恥ずかしいだけなんだよ。


 と、俺が反抗すると、

 酒神が、


「そのセイバーというのは、お兄(にぃ)の力なんでちゅよね?」


 と、そんなことを言い出した。


 いやぁ……俺の力……じゃない……かな……


 なんて思っていると、

 頭の中にセイバーの声がひびいた。


(俺はお前の力だ。今後、永遠に、俺は、お前の中で、お前の力として存在し続ける)


 マジでか……

 お前、なんで、そんな、かたくなに、力を貸してくれるんだ?


(力を貸しているんじゃない。俺は、お前の力なんだ。たとえば『お前の心臓』は、お前を生かすために頑張って毎日ドクドクしているが、それは、『お前に力を貸している』のとは違うだろ? 自分を生かすためにやっている。俺も同じだ)


 よく分からんけど、

 とにかく、こいつは、一応、俺の力らしい……


 そのむねを、酒神に伝えると、


「じゃあ、お兄が褒(ほ)められるのは、別におかしなことじゃないんじゃないでちゅか?」


 なんてことを言い出した。


 俺が、うーん……と、うなっていると、

 そこで、それまで黙っていた『魔王ユズ』が、


「……セン様。このたびは、あの鬼畜女から助けていただき、本当に感謝いたします」


 などと、感謝の言葉をなげかけてきた。

 もう、その手の言葉はお腹いっぱいだったので、


「もういい! もういいから! お前を助けようとしたんじゃないから! 酒神たちは一応、関係性があるから、普通に助けようとは思っていたけど、お前のことは、ガチの『ついで』だから! だから、ほんと、もういいから!」


 強い剣幕(けんまく)で言ってやると、

 『魔王ユズ』は、


「わ、わかりました……でも、一つだけ。これだけは、どうか、聞き届けていただきたいのです」


 そう言って、片膝をつき、


「あなた様に、この国の王になっていただきたい。私を遥(はる)かに超越(ちょうえつ)した力と、『高潔な魂』を持つあなた様こそ、魔王にふさわしい」


 などと、俺に、面倒事(めんどうごと)を押し付けようとしてきやがった。

 なんでもかんでも、『高潔』って言えばすむと思うなよ。

 てか、そもそも高潔ってなんだよ。

 定義(ていぎ)を教えてくれや。


「王とか、やりたくねぇんだよ。お前がやってろ」


「王にふさわしいのは、間違いなくあなた様のほうで――」


「ふさわしいかどうかの話はしてねぇ。やる気のないヤツにやらせようとすんなと言っている。どんな経緯(けいい)があったにせよ、今のお前は魔王なんだろうが。責任を簡単に放棄(ほうき)しようとするんじゃねぇ」


「……っ」


「お前のことなんざ、よく知らんが……お前が、この国の民を思って、必死に頑張ろうとしていることだけはよくわかった。そういうヤツこそ上に立つべきだというのが俺の考え方。これからも、この国のために、血ヘドを吐(は)きながら頑張れ。それがお前の責任だ。投げ出すな」


「……かしこまりました……あなた様と比べれば、はなはだ役者不足ではございますが……あなた様ほどの方には『もっと大きな仕事』があることでしょうし、私は、この国の魔王として、精一杯、頑張っていこうと思います」


 ……よかった……どうにか、回避(かいひ)することに成功した。

 魔王なんて、ようするに『学級委員長』みたいなもんじゃねぇか。

 そんなダルいこと、やってられるか。


 俺は、最強になるために頑張りたいんだ。

 『他人の世話』なんかしているヒマはねぇんだよ。

 ナメんじゃねぇぞ、ったく。


 なんて思っていると、

 また、アルブムとマリとアダムの3人が、

 俺のことを『真に民のことを考えている、真なる王』などと持ち上げてきた。


 もう、ほんと、勘弁(かんべん)してくれ!


 妄想(もうそう)するのはやめて、ちゃんと生(なま)の俺を見ろ! 

 俺は、存在値2で、性根(しょうね)が腐(くさ)っている、ただのボッチだ!


 『根性(こんじょう)』だけは、それなりに自信があるが、それ以外はなんもない!

 『ちょっと不死身』だから、『肉壁』ぐらいはできるだろうが、

 それ以外は、ガチで何もできないただのカス!


 一ミリも尊くねぇし、

 『高潔な魂』なんてのも持っちゃいねぇ!

 そういう名前のプラチナスペシャルをもっているが、

 あんなもん、ただのエラーだろ、どうせ。



 誤解されるの、マジで辛い。

 誰か、俺の事をちゃんと見てくれ!



 と、俺が、心の中で叫んだ時、

 酒神が、


「……お兄(にぃ)、命がけで助けてくれて、本当に感謝していまちゅ。ヘブンズキャノンも、絶対的主人公補正も失って、それでも、折れることなく、歯をむき出しにして、あのバカ女と対峙(たいじ)していたお兄の姿は、間違いなくヒーローのソレでちた。尊いとか、尊くないとか、そういうのはいったん、置いておいて、オイちゃんは、お兄のことを、心の底から、最高のヒーローだと思っていまちゅよ」


 そんなことを言った。


 ……

 ……


 ……なんか知らんが、涙が出ていた。

 あまりにみっともなかったから、俺は顔をそむける。


 ――ちゃんと見てくれていた。

 そう思うと、どうしても、我慢できなかった。

 俺は、奥歯をかみしめて、どうにか、無様な涙を押し込めると、

 酒神に視線を向けて、


「もらったものを返しただけだよ」


 と、厨二くさい感じでそう答える。

 もっと、カッコいい言葉で返したかったが、

 今の俺には、これが精いっぱい。


 ダサい男だ。

 話にならない。

 俺は、本当にダメな男だ。


 ――だからこそ、俺は、もっと、頑張ろうと思う。

 『尊い』という言葉は、今の俺には、ただの『重たい荷物』でしかない。


 けど、いろいろと経験したことで、

 『その重たい荷物を背負えるぐらい大きくなりたい』とは思えた。


 今の俺は、ただの『性根が腐ったザコのボッチ』だが、

 『成長の余地』は無限にある。


 これから必死に頑張って、

 蝉原を馬車馬(ばしゃうま)のように働かせて、

 俺が願う『理想の世界』を実現させようと思う。




 すべての戦争を駆逐(くちく)してやる。

 すべての絶望をころしてやる。




 『善良な人』が幸せになれる世界にしてやる。

 すべての悪を一掃(いっそう)した世界にかえてやる。


 誰もが『輝く明日』を求めて毎日を幸福に過ごせる。

 そんな理想の世界を実現させてやる。


 本当に実現できるかどうかは知らん。

 重要なのは、やるかどうかだ。


 俺は最後の最後まで、あがき続けるぞ。

 俺の根性と、あきらめの悪さをナメるなよ。


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現代から追放で永遠にざまぁ~ 『神Sランク/ユニークスキル』の『無限覚醒(たまにハズレスキルあり)』が凄すぎて、チートハーレム無双が止まらない。だけど、俺は孤高になりたいので、一人にしてほしいのだが~ ミリオン @ainzu12378

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