35話 存在値2のセンエース。


 35話 存在値2のセンエース。



 『バトルスーツ』が放った異次元砲を前にして、

 俺が、


「ヒーロー見参!!」


 そう叫びながら、

 気合いをこめた拳を突き出すと、


 なんと、ありがたいことに、

 また、俺の背中から、

 ヘブンズキャノンがニョキっと生えてきて、

 『俺のカスみたいなパンチ』を介護するように、

 キャノンの銃口から、異次元砲を放った。


 二つの強大なエネルギー同士が、

 まるでドラゴ〇ボールの一シーンみたいに、

 空中で、ばちばちと、ぶつかりあう。



 異次元砲で異次元砲をかきけす、

 という、最高にかっこいいシーンをへて、


 俺は言う。



「よう、170億年ぶりだな、クソ女。相変わらず、ご機嫌(きげん)じゃねぇか。うれしいぜ。改心とかしていたら、興(きょう)ざめもいいところだった」



 などと言いつつ、俺は、自分の背中から生えているヘブンズキャノンにチラっと目線をおくる。


 『出てきてくれたら嬉しいなぁ』とは思っていたが、まさか、このタイミングで、また、出現してくれるとは思っていなかった。

 もう、ここまできたら、自分の運命が心配になってくる。


 大丈夫か、俺……この異常すぎる幸運。

 確率が完全にバグっている……


 『3000分の1』が二連続って、

 つまり、『900万分の1』の確率ってことだよな……


 ……俺、もしかして、明日あたり、頭に隕石(いんせき)落ちてきて死ぬんじゃね?


 なんて思っていると、

 あの、頭おかしいバカ女が口を開いた。


「……その小汚いツラ……どこかで見たことあると思ったら……タイムスリップする直前、『勇吾(ゆうご)』にボコられていたカスか……」


「蝉原だけじゃなく、お前にもボコられたけどな。だから、普通に、俺は、お前のことを恨(うら)んでいる。というわけで、『ボッコボコにするタイプ』の『まっすぐな復讐』をさせてもらうから、覚悟しろよ。言っておくが、俺は、真の男女平等を信条にしている。『相手が女だから殴るのはやめておこう』なんて、そんなジェントルメンなことを言うつもりは毛頭(もうとう)ない。……俺の恨みは深いぜ。てめぇは、『母さんのサイフ』を踏みつけた……絶対に許さない」


「ちっ……鬱陶しい……『永遠人形の力が使える過去人』の相手をするのは、さすがに厄介……って……ん? 存在値……2? え、なに、この弱さ……フェイクオーラを使っている? ……い、いや、違う……たとえ、最高位のフェイクオーラでも、エグゾギアのサーチを欺(あざむ)けるわけがない……え、あんた、マジで存在値2?」


「よく気づいたな、褒(ほ)めてやるよ。お察(さっ)しの通り、俺の存在値は2だ。どうだ、すげぇだろ。震(ふる)えていいぜ」


「存在値2? ……じゃあ、なんで、異次元砲なんて、最高位の魔法を使えるのよ……」


「俺の背中のコレ、見えるか? これを拾(ひろ)ったおかげ。この世界にタイムスリップしたとき、偶然、手に入れてな」


「偶然、ひろった? 存在値2が事実? てことは、じゃあ、あんた、もしかして……陰キャのくせに、永遠人形、プレイしてないの?」


「――『陰キャはゲームをやっているもの』という偏見(へんけん)がすごいな。俺は、確かに陰キャだが、ゲーマータイプではなく、読書家タイプの陰キャだ。ついでにいうと、『友達という概念(がいねん)から決別』した『完全ボッチ』で、まあまあ運動神経が悪く、もちろん『彼女いない歴=年齢』で、普通に頭も悪く、実の父親が『笑えないタイプのクズ』で、唯一の自慢だった『まともな母親』はすでに他界(たかい)。音楽とか絵とか、そういう芸術系の才能の方も見事にゼロ。どうだ! まいったか! えっへん!」


「……はっ、おまけにブサイクときている。『生きてる価値のないカス』とは、まさに、あんたのことね」


「いいねぇ。正当な評価だねぇ」


 最近、俺の事を『尊い』と連呼する『頭おかしい集団』に囲まれていたため、

 実は、ちょっぴり発狂(はっきょう)しかけていたんだ。

 こうして、現実を突きつけてくれるヤツに出会えて、正直、ホっとしている。


 殺すのが惜(お)しいくらいだ。

 ま、殺すけどね。



「……カス陰キャぁあ! てめぇみたいな、真正のカスが、私の視界に入るんじゃねぇえ! ウザいんだよぉおおおお! 死んでろぉおおお!」



 ヒステリックに、そう叫びながら、

 ユズが殴りかかってきた。


 とんでもない動き。

 全然見えない。

 こいつ、『蝉原』とか『絶死アポロ』と同じぐらいの強さっぽい。


 けど、『どうにかなる』と思った。

 なぜって?

 簡単な話。

 こいつごときが、俺の心を折るのは不可能だから。

 心が折れない限り、俺は死なない。


 ガツンッ、と、

 脳天にひびくような拳だった。


 普通だったら、その場で体が爆散してもおかしくない。

 それぐらいの高威力。


 ――けど、俺は、当たり前のように、その場に立っていた。

 『ユズの動揺(どうよう)』を感じる。


「は? ……ど、どういうこと……なんで死んでないの……存在値2なんでしょ? エグゾギアの攻撃に耐えられるわけないじゃない……っ」


 ワナワナと震(ふる)えて、

 ゴキブリでもみるような目で、


「答えろ! なんで、エグゾギアの攻撃を受けたのに、そんな平気そうな顔をしていられんだ!」


「……誰も平気そうな顔はしてねぇよ……てめぇの一撃は、死ぬほど痛かった……『高速道路でトラックにはねられたか』ってほどの衝撃と激痛を感じた……まあ、俺、トラックにはねられたことがねぇから、あくまでもたとえだけどな」


 ユズの一撃をまともにうけた俺は、

 とんでもない大ダメージを負った。


 内臓とかは、グッチャグチャになっているのを感じる。

 けど、外側の皮膚の部分は壊れずに耐えている感じ。

 そして、中身の方も、いつもどおり、高速で再生していく。


 ちなみに、この再生中が、とにかくしんどい。

 この再生力は、まるで、俺の心を殺しにくるみたいに、

 『苦しいだろ?』『痛いだろ?』

 『死ねば、楽になれるぞ?』

 『再生するのをやめて死ぬか?』

 と、ずっとささやいてくる。


 毎度、毎度、大ダメージをおうたび、

 この、ささやき声が俺の心をむしばむ。


 その声に対して、

 俺はいつも、こう言ってやっている。




 『うっせぇ、ボケ』




 ――死ぬほど痛いって言葉は嘘じゃねぇ。


 ずっと、しんどい。

 正直、死んだ方がマシ。

 けど、さすがに、この場じゃあ死ねないから、絶対に折れてやらない。


 そこで、俺は、チラっと、

 背後にいる『雷の服を着た女』に目線を向けて、


「あの『化け物』相手に、よく折れずに抗(あらが)ったな。お前、すげぇカッコよかったぞ。名前は?」


「……アダム……」


「そうか、アダム。もう何もしなくていいから、そこで見てろ。今から、お前だけのヒーローをやってやる」

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