19話 蝉原の弟子『デビナ』視点(1)。


 19話 蝉原の弟子『デビナ』視点(1)。




「ひゃっはああああああっ!!」




 感情に任せて叫びながら、

 あたしは、『この村で一番でかい家』に突入した。


 ちょうど、突入した場所に、『この村で一番強い男』がいてくれたので、『家探(やさが)し』をする手間がはぶけた。

 30代ぐらいで高身長のオッサン。

 軽く調べたところ、この男は、この村の駐在騎士(ちゅうざいきし)。

 この村を守るために派遣(はけん)されている男。

 ゆえに、この村の誰よりも強い。


 あたしのダイナミックな登場に、

 『駐在騎士のオッサン』はビビり散らかしている。

 この男の存在値は180。

 この未来世界においては、そこそこ強い方。

 実にちょうどいい。


 値踏(ねぶ)みしていると、

 その男は、震(ふる)えながら、剣を手に取り、


「き、貴様……何者だ!」


 ビビリながらも、あたしに、『剣の切っ先』を向ける。


「かはは! さあ、何者だろうなぁ! 最悪のイメージを想像してみなっ! そのナナメ上にいるのが、このあたしだぜ! かははは!」


 相手の顔が、いい感じに青ざめていくので、

 つい、『相手の精神をいたぶるような口調』になってしまった。

 あたしの悪いクセ。

 ……が、まあ、別にいいだろ。


 あたしって、基本的にはそういうヤツだし。

 『セン様に逆らう気』は一ミリもねぇが、性格は変えられねぇ。


 ――なんてことを思っていると、

 『駐在騎士のオッサン』が、あたしにビビりながら、


「そ、その邪悪さ……まさか、『邪神教』の者かっ! 『魔王の種(有能な子供)』をさらっているとウワサには聞いていたが……『うちの子』をさらいにきたのか!」


 邪神教ねぇ……そんなのがあるのか。

 そういう『こまかい情報』も聞いておきたいんだよなぁ。


 などと思っていると、そこで、




「ぱ……パパ……?」




 後ろの階段から、『5歳』ぐらいの『メスガキ』が下りてきた。


 どいつもこいつも、あまりに人間的すぎるから、つい忘れそうになるけど、

 こいつら、全員『魔人(モンスターが進化して人間っぽくなった種族)』なんだよなぁ。


 なんてことを思っていると、

 父親の方が、


「に、逃げろ、『ウロス』!! 私が時間を稼いでいる間に!」


 そう叫びながら、

 先ほどまでとは違う『覚悟を決めた顔』で、

 あたしの方に突撃してきた。


 『ふみ込み足』に迷いがない。

 『娘を守る親の愛』ってやつか?


 くく……壊してぇ……


 けど、ダメだ。

 それをしたら、セン様に怒られる。


 『ウロス父』の、



「うぉおおおおおおっ!」



 と、『全力で斬りかかってきた剣』を、

 あたしはヒョイと避(よ)けてから、


「先に攻撃してきたのはてめぇだ。というわけで、お返し。――おらっ!」


 腹部を軽く小突いてやる。

 こいつを痛めつけたりしたら、たぶん、セン様に怒られるので、

 本当に、『かなり軽く』だったのだが、


「ぐふぅ!!」


 血を吹いて倒れてしまった。

 あーあ、まいったね……

 ……マジで、ダメージを与える気はなかったんだが……


 などと思っていると、

 そこで、あとからやってきたアズライルが、

 背後から、あたしの頭を、バーンっ!

 と、シバいてきやがった。



「いってぇなぁあ! なにすんだ、ごらぁああ!」



 ブチ切れ顔でにらみつけると、

 アズライルは、『あたし以上のブチ切れ顔』であたしをにらんでいた。


「なに、一般人にダメージをあたえてんねん……ボケがぁ。そういうのはやめろって、セン様に言われてたん、忘れたんか、鳥頭(とりあたま)、ごらぁ」


 あまりにすごい剣幕(けんまく)だったので、

 あたしは、思わず引いてしまった。


「わ、わかってるよぉ! 普通にガチで『力加減(ちからかげん)』を間違えただけだ! あるだろ、間違えることぐらい! いちいちキレんな、うぜぇなぁあああ!」


 などと、言い争いをしていると、

 地に伏(ふ)している『ウロス父』が、


「ウロス……逃げろ……頼む……逃げてくれ……」


 血を吐きながら、娘を逃がそうとしている。

 だが、娘のウロスは、カベに飾(かざ)ってある杖(つえ)をもちだして、

 その杖先を、あたしたちに向けてきた。


「おー、おー、勇気あるねぇ! まさか、あたしたちを実力で排除しようってか?! かははははは! あたしらもナメられたもんだな!」


 メスガキの行動が面白すぎたので、

 つい、普通に笑ってしまった。


 すると、また、アズライルに、後頭部(こうとうぶ)をドツかれる。


「だから、いてぇよ!! ポンポン、殴んな!」


「ガキを煽(あお)って、何がしたいねん……ほんま、おどれの行動、キショいねん」


「多少、遊ぶぐらいいいだろうがぁ! 禁じられているのは『ガチの悪事(あくじ)』だけだろ! あたしは元が悪魔なんだ! 多少は、ゲスいこともしねぇと、心が疲れるんだよ!」


 と、再度、言い争いをしていると、

 ウロスとかいうメスガキが、




「煉獄(れんごく)火球(かきゅう)ランク15!!」




 ――はぁ?!!

 ランク15だとぉ?!

 それ、『存在値300ぐらいのやつ』が使う魔法だぞっ?!


 冗談やハッタリではなく、

 ウロスが使った魔法は、確かに、『ランク15』の火力をしていた。

 あたしは、『火の耐性(たいせい)』がクソ高いので、ダメージは負っていないが、

 紙装甲(かみそうこう)のアズライルに直撃していたら、普通にダメージを受けていただろう。


「……マジかよ、このガキ……」


 あたしが、普通に困惑(こんわく)していると、

 ウロス父が、


「う、ウロス! 私のことはいいから、逃げなさい! お前は、将来、『優しい魔王』になるんだろう! 邪神教の生贄(いけにえ)なんかになってはいけない!!」


 そんなことを叫んでいる『ウロス父』に、

 あたしは、


「親バカとは言わねぇよ! 確かに、あのガキは、なかなかハンパねぇ才能があるっぽい! ……あのガキは、ガチでつかえるな……っ!」


 その言葉を耳にした『ウロス父』は、


「――っっ?! ぐっ……ぅ、うぉおおおおおおっっ!! 私の全部をささげるぅうううううううう! だからぁああ! あの子を守る力をぉおおおおお! 『絶死のアリア・ギアス』はつど――」


「どわぁあ! 待て、待てぇ!」


「――ぐふぅう!」


 『絶死のアリア・ギアス(命を賭(と)すことで、リミッターを外す世界との契約)』を使おうとしやがったので、

 あたしは、仕方なく、『ウロス父』の首裏に、強めの手刀(しゅとう)を入れた。


 気絶した『ウロス父』から視線を外し、

 アズライルに視線を向けて、


「今のは、不可抗力(ふかこうりょく)だろ! ええ?! 放っておいたら、あいつ死んでいたんだぞ! なんか、文句あるかぁ! あぁん?!」


「なんも言ってへんやろ。それより、『そっちのガキ』を痺(しび)れさせたから、さっさと運んでや」


 ドサっという音が聞こえて、

 振り返ると、

 メスガキがその場でピクピクしていた。


「……できるなら、最初から、親子ともどもマヒらせとけや!」


「最初は、そこの男と交渉して、任意(にんい)で来てもらうつもりやったんや。それを、おどれが、ぐちゃぐちゃにしたんやろうが! 性悪(しょうわる)のクソ脳筋が!」


 アズライル、ウッザ!

 マジで嫌い!


 『セン様の配下の一人』という前提がなかったら、

 確実に、ここで、『アズライルの馬鹿』を殺していた。

 セン様がいてよかったな!

 クソがぁああ!




 ★




 ガキと父親を連れて、外に出たところで、


「……あん?」


 『フードをかぶった変態みたいな野郎』が、

 あたしらの行く手をはばんでいた。


「……なんだ、てめぇ! あたしに何か用か?! あぁん?!」


 声をかけてやると、

 フード野郎は、しわがれた声で、


「……存在値200……なかなか強いな……なるほど、貴様ら、『女神教』のエージェントだな。我々『邪神教』の動きを察知して、『魔王の種(有能な子供)』――『ウロス・バグディナ』を守りにきたといったところか」


 などとつぶやいている。

 ちなみに、あたしもアズライルも、

 地上に降りてくる際、

 『フェイクオーラ(相手の『アイ系』魔法にウソの情報を見せる魔法)』の魔法がかかったロングコートを着てきている。


 だから、『あたしの本当の存在値』は『700』を超えているが、

 あいつの目には『200』前後に見えている。


 ――フード野郎は続けて、



「ウロス・バグディナは、『究極の邪神』を召喚する格好の生贄(いけにえ)……必ず、回収させてもらう」



 などと言ってから、

 攻撃を仕掛(しか)けてきた。


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